朝マックと宇宙 (#シロクマ文芸部)
(秋桜か。
こんなところになんでだよ……)
「もみあげが異常だよ。キミ」
そんなことが解雇理由になる会社だったんだなぁ。マックのハッシュポテトはいつだって油っぽいのに。
「もみあげの繊細さがその人を物語るのよ」
担当の美容師が言ってたっけ。ハッシュポテトを齧った断面を写真に撮ってみたってなんの味わいもないのに。
「そのもみあげ、書いてるんだろ」
同級生の悪ガキどもに、よくこすられたもんだ。ハッシュポテトを食べられるのは朝の時間帯だけだというのに。
「いったい、どうすりゃいいんだよ……」
ひとりごとは目の前に座る母にぶつかって、自分に跳ね返ってきた。
「はぁ?10時半までに注文すりゃあいいよ」
母はアイスコーヒーの氷をガリガリ言わせている。よく見るとこの人は、50円も余分に払って、ハッシュポテトをチキンナゲットに変えるような人だ。
(マックに秋桜なんて飾るなよ……)
「別にな、そのもみあげがお前の取り柄でも個性でも象徴でもなんでもないんぞ?」
母はバーベキューソースのあまりにバンズを浸して口に入れた。
「そうだったのかよ」
もっと早く言ってくれよ。親の形見くらいに思って守ってきたのに。
「朝マックって、なんかいいじゃん」
母はにんまり笑った。
「あぁ、かもな」
コスモスと聞いてまず『宇宙』を思い浮かべる母だから。俺のもみあげに興味なんてないよなぁ。
「マックの秋桜も、なんかいいじゃん」
[完]
今週もお世話になります。
朝マックで見かけたそっくり親子の息子が、ハッシュポテトを恋人のように大切に扱い、味わいつくしているのを見て感動したので書いてみました。立派なもみあげをお持ちの方でした。