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エッセイ|しごできジャッキーと元・藤田~名前を変えた私たち~ |シロクマ文芸部
「寒い日にやっちゃうよね」
先日やったぎっくり腰の話や近況を報告しながら、私たちは相変わらず赤羽の街を歩いていた。
前回会ったのはいつだろう。
彼女の誕生日には会えなかったのだから四、五ヶ月ぶりかもしれない。
たまたま地図で見つけたレストランに向かっていた。駅から十五分、他愛もない話をしながら歩く。その間も彼女は、区役所に電話したり、職場に連絡を入れたりして忙しそうだった。
「仕事変えるから、また引っ越すんだよね」
また、引っ越すのね。
彼女は生まれてからいったい何度住む場所を変えただろう。いろんな事情があったとはいえ、今となっては引越しのエキスパートだから、家を選ぶコツなんかをちゃっかり訊ねてみる。
「家はね、一発だよ」
賃貸物件は不動産屋に行った日に一発で仕留める。何となくわかる。
ここだ、というオーラを発する家に住むと生活が変わる。
私にもその経験があり、安い賃料だけが取り柄の、あてがわれた家に住んだ時には散々だった。家も、住む人を選んでいる。
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目的のレストランに着いて席に落ち着いたところで、数ヶ月遅れの誕生日プレゼントを渡した。
それからは、前日に彼女が会ってきたという新生児の可愛さについて話したり、私たちが共にリスペクトしている小田切ヒロさんのことなんかをとりとめもなく語り合った。
「名前を、信じてるんだよね」
話題をころころ変える私たちではある。だけど、「大人の生姜焼き」というメニューについて熱く語っていた直後の切り返しである。
私は口に運ぼうとしていた照り焼きチキンを一度、皿に戻した。
「私が、藤田だったころはね……」
・
彼女と出会ったのは中学一年生の春で、その年の秋、彼女には妹が生まれた。
そのことから、なんとなく彼女が複雑な家庭環境にあるのだと察してはいた。
付き合う年数が長くなるにつれ、新たに弟が生まれたり、実は遠くにいる姉たちの情報などを耳にする。その度に「へー」とだけ言って深入りせず、かれこれ三十年近くが経った。
そしてこの日は、以前名乗っていたという彼女の苗字を知ることになった。
彼女の話によれば、小学生の頃、「藤田」から新しい苗字に変わったときに、自分のキャラクターが大きく変化したのだという。それまではあまり友だちと交流する方ではなかったらしく、名前を変えたことで途端に社交的になった。中学に上がって最初に声をかけてくれた彼女の、今も変わらない明るいキャラクターからは、藤田だったころの姿を想像できない。
今の苗字を名乗るきっかけとなった当時の父親からは「画数が良い」のだと言われたという。だから彼女は今も、好んで現在の苗字を名乗っている。
・
「なんかわかるかも。私もね、メルカリでは『ジャッキー・チェン』を名乗っているんだけど」
じつはこの日私は、彼女との待ち合わせ前にメルカリの発送を済ませていた。
「ジャッキーのときはさ、仕事早い」
「そういうのあるよね」
「売れたら即、発送する」
「わかるわあ」
じつは最近、筆名変えようかな、なんて思っている。名前を変えると今とは少し違うものを書くようになるんだろうか、なんて。
黒皮 モモ とか。ダークな話ばかり書きそう。
赤畑 ネネ とか。ふわふわした詩がお好き。
みたいな。
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※ 登場する名前は全て仮名です。
よろしくお願いします°・*:.。.☆
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※このエッセイとは関係ないですが。
妊娠・出産・産後にお世話になる人も多い。関係しない年代はないですね。
私も署名しました。