掌編小説|夢見る梅の花|シロクマ文芸部
夢を見るようになったから、ついでに梅も見るようになったのだと佐藤は言った。
「夢って、幼い子どもしか見ないものだと思っていたのに、最近やたらと見るようになったんだよ。最近の夢はさ、縦なんだよな。横の時代は終わったみたい。しかもひとつの夢は短くてあっという間に終わる。早口で何言ってるかわかんねぇんだ」
やたらと踊るしよ、と愚痴る佐藤はまだ花をつけていない梅の木を見ている。
「だけどハマっちゃったんだよな。短いから次から次へと新しい夢が流れてきてさ。気づいたら三時間くらいたってる」
佐藤の夢の鑑賞時間は三時間だというが、それが長いのか短いのかわからない。ただ、佐藤がここへ来て梅を眺め始めてから五時間は経っているから、それに比べたらそう長くもないのだろう。
「お前の夢はどうだよ」と佐藤は言う。
「ああ。佐藤の夢とは少し違ってる。まず俺が見る夢は縦ではなくて横。それも、わりとワイド。始まると、終わりまでだいたい二時間はある」
「二時間?」佐藤が呆れている。
「二時間で完結するストーリーだよ。そうでなきゃ深みがない」
「そんなもんか」
佐藤は肩をすくめ、次には梅の花のつぼみを撫でた。
「そろそろ咲くかな」
「いや、まだだろ」
日が陰ってきた。足先が冷える。
「もう帰らないか」
飽きもせず梅と向き合う佐藤に帰宅を促した。
「いや、それは俺には決められない」
「……伊藤が決めることだから?」
佐藤は頷く。俺はため息を吐く。
「あいつの夢、だらだらしていて長いんだよ。起伏がなくて単調で」
「しかも白黒で無声らしいぞ」
「まじかよ」
笑いながら佐藤はつぼみをひとつ、摘み取ってしまった。
「おいおい。これから咲くんだ、大事にしろよ」
「いいんだよ。咲くか咲かないかなんて誰にもわからない。夢って、儚いものだろ」
そうかもな、と言って俺も梅の木を見た。近くで見るとなんとも不格好で、歪なかたちをしている。
「本当にこれは梅の木なのか」
佐藤に問いかけるも反応はない。当たり前だ。佐藤だって、これが梅なのか夢なのか、知るはずがないのだ。
よろしくお願いします°・*:.。.☆
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【ちょこっと日記】
一昨日の夜にぎっくり腰をやりました。
それから動けず寝たきりです。
「もう二度とぎっくり腰はやらない」と誓ってからおよそ八年ぶりかと思います。
結構ショックです。
昨日はベッドから降りてトイレに行くまで二時間もかかりましたが、知人が買ってきてくれた薬が効いて少しはマシになりました。
「こんな状況なのに20字小説投稿してる!」と知人に呆れられましたが、なにせやることがないので……笑
久々にシロクマ文芸部のお題に参加出来て良かったです。