見出し画像

「福祉」との身近な接点に。れもんハウスが約束も目的もなく居られる場である理由

西新宿にある一軒家「れもんハウス」。新宿区の子どもショートステイの協力家庭に登録しており、日々子どもから大人まで色々な方が過ごしています。このような場をつくった背景には、福祉業界ならではの課題があるとのこと。福祉は介護や育児など多くの人の人生のなかにあるものの、自分ごとにしにくかったり、関わるにはボランティアしかないのではと思っていたりなど、身近な事柄になりにくいのではないでしょうか。

今回はれもんハウスを立ち上げた藤田琴子さんと立ち上げの際にサポートいただいた山中真奈さんに、ふたりが場をつくり続ける理由や、福祉業界ならではの課題、福祉にどのような関わり方ができるのか、お話をお伺いました。

藤田琴子(写真左)
1992年東京生まれ、横浜育ち。れもんハウスの運営団体である、一般社団法人 青草の原の代表理事。社会福祉士。現在は母子生活支援施設の支援員として、DV・虐待・貧困・障害など様々な事情で入所した親子と生活の場で関わっている。

山中真奈(写真中央)
1986年神奈川生まれ、埼玉育ち。宅地建物取引士。10代でギャル・ギャルサークル・キャバクラ・引きこもりを経験後、某FC不動産会社にて4年間従事。 『シングルズキッズ(=ひとり親で育つこども)を楽しくHAPPYに!』をミッションに2017年6月、世田谷区にて”シニア同居型・地域開放型・シングルマザー下宿MANAHOUSE上用賀”をスタート。他、板橋区や千葉県市川市にて3件運営。自身は独身だが同居しながら経営中。

※写真右はれもんハウス住人のWe Are Buddies 代表理事の加藤愛梨さん

約束も目的もないからこその居心地の良さ

ーーー改めて、なぜれもんハウスのような場をつくろうと思ったのでしょうか?

琴子:母子生活支援施設で働くなかで、施設から退所した方や親子がちょっと離れた方がいいときに、少し過ごせたり泊まれたりできる場所が必要だと思ったことがきっかけです。「おばあちゃんの家に少し行ってくる」みたいな感覚で来れる場所にしたいと思って運営してきました。実際に、誰かと話したいとか約束して来る子もいれば、朝顔に水をやりにくるだけという人もいますね。誰かと会うためだけでなくて、居るだけ、何かするためだけに来るというのはまさに実現したかったので、うれしいですね。

真奈:年齢や立場関係なく、理由がなくても来れる場所になってて素敵だなと思いました。目的も約束もいらないですし、だからといって公園のように誰でも入れるパブリックなスペースでもないから、プライベートな雰囲気で軽く話せる。こういう場って、行きつけの居酒屋とか塾とか、人それぞれ違う形で持っていて、その距離感が心地いいこともありますよね。

ーーーその心地いい距離感は友だちや家族とは違うものなんでしょうか?

真奈:家族や友だちだとお互いに過去を知りすぎているので、決めつけられたり、そうしないといけないと思ったりしてしまう、そのために苦しくなることもあるのかなと思っていて。何者にもならないというか、当事者を抜け出す時間が大切なんじゃないかなと。虐待された子、可哀想なシングルマザー、「◯◯ちゃんのママ」じゃなくて、フラットな自分になれるというか。

琴子:確かに、そういう場にもなっていますね。実際に、れもんハウスで小学校高学年の子が「何つながりで来たの?」と聞かれたときに、その子はうちの施設(母子生活支援施設)の名前を出さなかったんです。その子にとってその場で知ってほしい自分は、福祉つながりでここにいるという自分じゃないんですよね。

福祉に違う業界の人が関わることで変わっていく

ーーーお二人は様々な人にとっての居場所をつくるという点で共通していると思います。活動をしているなかで、どのような課題を感じられていますか?

真奈:不動産と福祉業界がもっとつながるとすごく変わるんだろうなというのは、よく思いますね。私は今の仕事に就くまで不動産業界で働いていたので、どちらかというとビジネスの世界にいました。そこから福祉業界に入ったので、互いの共通言語の無さや違いを感じています。

福祉業界には様々な課題があって「目の前の人を救いたい」「変えたい」と思った人がいても、方法を知らないがゆえになかなか先に進まないことがあります。目の前の課題を解決するために何をすればいいのか、何を越えればいいのか、というところまでたどり着かない。なぜかというと、福祉業界では今ある枠組みの中で考えることが当たり前になっているから。ビジネスで使われている、イノベーション、レバレッジ、スケールという発想ががしにくいと思います。

福祉業界の課題はビジネスの力で解決できることも多いと思うので、そのふたつがつながると福祉業界はもっとよくなる、救える人が増えると思っています。

琴子:福祉業界で働く人は現場で毎日忙しいので、目の前のことをとにかくこなすことで精一杯なんですよね。課題や助けるべき人が視界には入っていても「こうだったらいいのに」みたいなもどかしさで終わってしまうんだろうなと。その点、れもんハウスにはITやアート業界で活動する人が関わっています。実際に、福祉の人たちだけでは生まれない広がりが生まれていると感じていますね。

様々な制度やシステムがあるものの、知られていなかったり申請するのが大変だったりで、使えていない人が多いというのも課題のひとつですね。例えば、私が働いている母子生活支援施設もあまり知られていないんです。平日の17時までに役所に行って書類を提出しないといけないので、母子家庭でお母さんが日中ずっと働いていたりすると、申請することすら難しくなってしまいます。

何となく気になりつつも知らなくて怖いから、使いにくいという場合も多いです。そこに対して、れもんハウスの存在意義は大きいと思っていて。れもんハウスに時々遊びに来ていたら、ここにいる人たちや雰囲気を知ることができます。それで、いざとなったときに、れもんハウスはなんとなく知っているからという理由で、頼ってもらえたらいいなと。なので、ここを理由や目的がなくても来やすい場にしておくことが大切だなと思っています。

目の前にいることが大切。出会うことから始まる

ーーー福祉業界に興味がある人、自分も何か力になりたいと思っている人もいると思います。そういう人は何から始めるといいのでしょうか?

琴子:何かやりたい、力になりたいと思っていてもどうしたらいいかわからない人は、とりあえずれもんハウスに来てみてほしいですね。出会ったら他人事じゃなくなるんです。テレビやネットのなかのニュースじゃなくて、目の前にいることが大切。だから、会って知ることから始めるのがいいと思います。

「役に立たないといけない」「誰かを助けないといけない」とかボランティア的なモチベーションが必要なのでは、と思っている人もいるかもしれませんが、ここに来る人たちは皆そう思って来てないので、全然大丈夫です。逆にボランティア的なモチベーションで来る人には「そういう場所じゃないかも」と言っちゃうかもしれない。その人自身がここに興味を持って、居たいと思っているかどうかが、一番重要です。

それで、知らない子どもと過ごしたりするなかで、里親になるとか、協力家庭の登録をしてみるとか、具体的なアクションにつなげてもらえたらうれしいですね。

真奈:明日は我が身じゃないですけど「お互いさま」なんですよね。私だって、いつかシングルマザーになるかもしれない、障害者になるかもしれない、親の介護で大変になるかもしれない。いつ自分が”社会課題”と呼ばれる対象者になるかわからないんですよね。「困ったときに誰かが助けてくれる」そうやって社会や他人に希望や安心感を持って暮らせることができれば、孤独や孤立は減ると思います。

例えば、子どものときに親から「人に頼ってはいけない」「人に迷惑をかけちゃいけない」と言われて育って、親になっても「ひとりで頑張らなきゃいけない」と、罪悪感を抱えて自分を追い込んでいる人は多いです。そういうときは、お互いさまなんだから、頼ったり助けを求めたりすること、それで助けてもらった人に直接恩返ししなくても、自分ができる形でまた困っている人や社会に返していくこと。そういう送り合いの気持ちが、循環していくといいなと思いますね。

なので、相手の辛い状況を理解できないからとか、助けてあげないといけないとか、そういう気持ちを持ちすぎずに、必要なときに出来ることを無理なくお互いに助け合う。その一歩目になるような場は今後もつくっていきたいですし、れもんハウスみたいなカテゴライズされないゆるく出会える居場所が、今社会に求められていると思います。

interview and edited by とやまゆか (ポートフォリオはこちら