見出し画像

自粛と折原伊桜(NightOwl)とfix you【緊急事態宣言下のアイドルとファンの話】

2021年7月15日、NightOwlのワンマンライブ「fix you」が行われた。

NightOwlは5人組のアイドルグループ。個性的なメンバーと一体感のあるダンス、クオリティの高い歌と楽曲でまさに「次に来る」アイドルグループである。

ここまでの節目と言われるこのライブのレポート…って思ったけども、記憶力が悪いのであまりそういうのは向いてないっぽい。というよりは…せっかく節目と公式が言ってる以上はこのワンマンライブを区切りとしてここまでのこと、特に昨年の自粛状況下でアイドルがどう戦っていたのか、このグループのヒストリーを中心に書いてみたいと思う。

たぶん、NightOwlがデビューしてからのこの時間は、この遊びにとってもこの世界にとっても、恐ろしく異様で前例のないものだったと思うから。

そんな時代を支えてくれたメンバーたちに感謝を込めて。

※なるべく事実関係に配慮はしておりますが記憶違い、また発信・発言内容に関して主観的な解釈・意訳を多々含みます。公式やメンバー本人の見解とは異なる可能性があることを予めご了承ください。

「我儘ラキア」の初の姉妹グループとしてデビューした3人組「NightOwl」

2019年8月、我儘ラキアを擁する大阪の事務所QOOLONGの初の姉妹グループとしてNightOwlはデビューした。

ラウドロックテイストを基調としてサーフやリフトなどもあり(緊急事態宣言以降は禁止になっている)のラキアとは異なり、NightOwlはEDM調を主体としたダンサブルなグループ。姉妹とは言いながら当初から別のコンセプトを明確に志向するグループだった。

とはいえ、ラキアを上昇気流に乗せるまであらゆる困難や壁に真っ向勝負、意地のプロデュースを貫いてきたQOOLONG所属だけあって、揃ったメンバーは負けん気の塊である。

折原 伊桜(おりはらいお)

百城 凛音(ももしろりのん)

雨夜 憧(あまやあこ)

スターティングメンバーはこの3人。

人物像については運営の極悪だぬき氏のコメントがわかりやすい。

ラキアもそうだがここの事務所の節目節目のグループの大事なことは大体運営さんのTwで発信されている。これはデビュー当時のメンバーの印象だが今と比べてどうだろう。変わってないところも変わったところもあって響くものがあると思う。

アイドルの話であんまり運営さんのTwを引用するのもどうかと思うが、どうしても今に至るこの状況を乗り切るにメンバーと運営が一丸となって向き合った側面が普段より強いのでこの後もちょいちょい出てくる。

自分の推しは折原伊桜だ。

長身美人、そして何よりも伸びやかなハイトーンを駆使する歌が武器のメンバーだ。楽曲において歌割の多くの部分を彼女が担当する。

基本的に遊び方として推しメンのところしか行かない…というのもあって自分視点のこの物語の主人公は彼女になるが根底の部分は全メンバーに同じものが流れてる、という前提で見て欲しい。みんなのこと好きだしね。

先の運営さんのTwのようにそれぞれバックボーンは異なる。戦う場所を求めてやってきたバトルジャンキー折原伊桜、詳しくは省くが様々なステップを経て勝負賭けに来た百城凛音、経験ゼロから大阪の事務所にいきなり飛び込んだ雨夜憧、誰の目線で追いかけてもこのグループにはそれぞれの豊かな物語がある。

さて初見は東京お披露目ライブ。先輩である我儘ラキアとの2マンだった。当時のラキアといえば新メンバーにMIRIを迎えて加速度的にギアを上げていた時期。キャリアにとっても大事な時期でかつ、メンバーたちの性格からしてもかわいい後輩に華を持たせてやろうなんてタイプではない。

そんな空気が想像できる2マン、登場したNightOwl。

折原伊桜は、一見クールビューティーに見える佇まいでセンターに立ち、こう言い放つ。

「私たちは後輩ではありますが二軍ではありません」

いきなり喧嘩を売ってみせたのだった。

正直、アイドル事務所の抱き合わせ商法的な売り方にも疲弊していたところで、大好きなラキアの事務所だからと言ってそれだけの理由で観に行こうなんて気持ちはなかったし、当時の僕はこの新グループに対してむしろ斜に構えていたと思う。

それだけラキアの道のりの苦労が多かったというのもある。別にお前が苦労したわけじゃねえだろとツッコまれると思うがそれはそれとして。

何がポップンキュルルンやねん!ってのもおいて。

この挑発的な宣言には「おっ!」となった。

しかしそんな戦闘的な姿勢とは裏腹にNightOwlのライブは笑顔がいっぱいで、会場が一体になれるダンスで全身でハッピーを体現しながら走り切る、そんなグループだった。膝を使って上下に躍動するバネのあるダンスもエネルギッシュで良かった。

正直、めちゃくちゃ楽しかった、というのが率直な感想だった。

ラキアと全然目指すライブ像が違うのも気に入った。もし似たようなものをやろうとしてたならこの記事は生まれなかったと思う。

後に推しになる「折原伊桜」。

初見のイメージはクールでスマートな印象だった。歌も良かったしパフォーマンスも綺麗。どこか前世がある人なのかなと思ったくらい。でも確かに美麗で可能性を感じるものだったけども「推し」と思うには何か決め手がなかった、というのがその時点の正直なところだ。

しかしながら、だ。

この折原伊桜という人物は「そつなくこなす」「クールにいなす」というようなタイプでは全くなかったことをその後のSNSでゴリゴリ知るのである。

カバンの中身の紹介動画では最後にとつぜんからあげが出てきたりする。

タオルを泥棒被りして街を歩く自撮りがあがったりする。

インスタのストーリーでは「じゃじゃーん」「みてー!」「聞いてー!」ととにかくテンションが高い。

あまりアイドルの昔の発信を掘り出して貼るのはよろしくないのでインスタのハイライトをみてほしい。

https://www.instagram.com/io_night_owl/

とにかくめくるめくガチャガチャな人なのである。

武器のおもちゃと「きりん寺」の油そば、誰にも忖度しない自分らしいファッションを愛する、中身も見た目も飽きさせない人。

美麗なパフォーマンスと個性的な人柄、加えて燃えたぎるような負けん気。常に一番を目指す人。それが折原伊桜という人だった。

特典会にいけば圧倒的な情報量で話しかけてくれる。通常の特典会の三倍くらいの情報がある。

「親しみの核爆弾」

そう名付けてしまうくらい、はち切れるようなエナジーをずっと抱えている、そんな人だった。

ライブは楽しいしメンバーもみんないいやつだしなんかこの折原伊桜ってやつはやたらおもろい。

「NIghtOwlもっと行きたい」

そんなふうに思えた矢先…世界は急転直下、日常が破壊される事態が進行していたのだった。


緊急事態宣言。

自分は結局、緊急自体宣言の前の段階では2回しか彼女たちの現場に行くことができなかった。

長い夜の世界で、翼を縛られた梟たちはいかにして闇の中を翔んだのか?

「オタクに人権がない」なんて良くいうが2020の春、世界じゅうの人類から人権がなくなった。

当然ライブどころではない。むしろ最初期にクラスターを発生させたことでライブハウスは非難の的にすらなった。

そんな渦中の4月、よりによってNightOwlは東京でのワンマンライブを控えていた。まさにこれから勝負!というタイミングで折原伊桜もメンバーたちもあふれるエネルギーを放つ場所を失ったまま、長い自粛期間に入ること余儀なくされてしまったのだ。

延期となったワンマンライブのタイトルは「Matchless Warrior」。意味は「一騎当千」である。完成系は5人とあらかじめ宣言されていたNightOwlにとってこの時期の3人体制というのはまだ不完全なもの…と言うよりもどこまで成長しても不完全という宿命だったと言える。

しかし、だからこそ一人一人が死力を尽くし誰にも絶対負けない気概でライブを作る。まさしく一騎当千の気構え、当時の彼女たちのテンションが象徴されたフレーズなのだと思う。

一騎当千。されど敵は…万であり億単位の世界そのものだった。そのやり場のなさ、どれほど悔しかっただろう。

しかし悔しいだけならまだいい。

事態はもっと深刻だった。ライブアイドルのメインの収入源は当然のごとく「ライブ」である。ライブそのもののチケット代に加えて特典会で行われるチェキ撮影。ファンが会いにいける構造そのものが最大の原資となって楽曲が作られ、MVが作られ、より大きな箱を目指していく。

もし、会いにいける機会が奪われてしまったなら。この文化は継続可能なのだろうか?グループは存続できるのだろうか?

今だから言える結論としては確かに多くのグループが舞台を去ることになった。閉店してしまった箱も少なからずある。無傷という訳にはいかなかった。しかしそれでもアイドルたちの多くは生き残り、いまなお活動は続いていて、新しいグループもデビューしている。

あの時期、完全に自粛してしまった数ヶ月間。

明けない夜はない、と言うがそれすら信じることができない長い夜。

まずはあの時、アイドルとファンの間で起きていたことを良い機会なのでつらつらと書いてみようと思う。

外から見る人はおそらくこう思うだろう。

「配信ライブでなんとかやってたんじゃないの?」

「オンラインファンミーティングでなんとかなってたんじゃないの?」

「物販の通販で凌いでいたのでは?」

それもある。しかし特に最初の時期にそのような仕組みはいまほど洗練されてはいなかったし、配信ライブは機材や人件費、インフラコストをトータルすると儲からないどころか赤字も覚悟、そんなものであった。

さて、NightOwlである。

まだ始まったばかりのキャリアで持て余すエネルギーと野望を急に折られる。しかも未来がどうなるのか全くわからない、そんな状況の中でおそらく当人たちの不安とストレスは計り知れないものがあったと思う。病むなというほうが無理な状況。なにしろファンのほうがまいっていた。

ライブで過ごす非日常、大好きな推しに会いに行く時間。一度ハマった人間にとってはすでに生活の一部そのものである、それが急に失われたのだ。

もちろん、アイドルたちがそうであるようにファンの中にも仕事をストップされたり、先行きそのものの不安にあえぐ気持ちが大きい状況の人間も少なくなかっただろう。

そんな中、NightOwlの3人は毎日毎日、笑顔の自撮りや動画、前向きな投稿をSNSで続けた。不安な日々の中でいつしかそれは新たな日常になった。

鬱屈とした1日が終わると折原伊桜のインスタのストーリーの新着が来ている。その中で彼女はずっとはしゃいだりふざけたりたわいないことを話したりしてくれる。

思わずニコニコして、嫌なことを忘れられる。時には涙ぐんでしまう日さえあった。画面の向こうの彼女は、自主くなんて何もないみたいにずっとずっと元気を届けてくれた。それは間違いなくあの時期の自分にとって大きな大きな心の支えだった。

自粛による在宅ワークの体制を整えるため、一人オフィスに残り、不眠不休で対応していたときも、そばには折原伊桜がいた。

新しい部署を作ってゼロベースから戦っていた時も、そばにはいつも折原伊桜がいた。

暑い日も暖かい日も雨の日も。

孤独な戦いが多かった時期だったけれど、折原伊桜はずっと変わらぬ姿で元気を送ってくれた。

発信だけではない。今でもそうだがSNSではファンのことをずっと見ていた。1日の中で練習だったり寝てたりする以外の時間の全てをファンと一緒に過ごしている、そんな印象だった。

そんな彼女たちにファンもたくさんのメッセージを発信する。おそらくそのほとんどを彼女たちは見つけ出し、受け取っていたと思う。

NightOwlはあの時期、会えないし、ライブもできないあの時期に本当にファンの近くで寄り添い続けた。ファンも彼女たちを支え、エールを送り続けた。そんな日々はいつしか人を惹きつけていく。水面下で。ライブも対バンもできない水面下で、NightOwlは確実に仲間を増やしていたのである。

業界としても逞しく生き残りをかけた新しい仕組みが生み出されていった。

そんな中で一つ大きな存在感を示したサービスとしてOnlyFiveというものがある。先着5名に1日3種、メッセージ付き写真や動画を販売するサービスだ。聞くところによれば苦境のアイドルたちの救済のために手数料が低く、事務所の取り分が大きい設定であったらしい。

先着5名。人気グループとなると1秒も持たない。即完も即完だ。だがそれが良かった。いつまでも売れずにいてずっと呼びかけられたらファンは無理したり、後ろめたい気持ちをずっと持たねばならなくなるから。

そんな彼女たちだからそのOnlyFiveもすごかった。自分は正直、あまり高頻度に買うほうもとも言い難い…というか人気すぎて全然買えないのだが、買えた時はとにかくすごかった。

写真にアイドルのメッセージが乗ってるなんて、一般の人が聞いたら誰にでもいうような一言程度だろう、と思うだろう。自分が買ったのはNightOwlでは折原伊桜のだけだが、とにかくぎちぎちに書かれているのである。自分の近況はもちろん、こっちがSNSで呟いた内容へのコメント、一人一人にカスタムしてファン一人一人のために全力で作られていた。

常にファンファーストの運営をしてさすがに時間かけすぎ、、と所属メンバー全員が言われたそうだから彼女だけなくみんなそんなテンションだったんだろうと思う。

動画になっても同じだ。相手の近況を踏まえて一人一人に丁寧に、されど元気よくメッセージがしたためられていた。

それはもしかしたら…普通にライブがあって、特典会があって、当たり前のように会えるよりももっと絆を深めるものだったんじゃないかと思う。

「この恩を返さねば」

自粛時間が長くなるにつれて、日々そんな思いを強くなっていった。

最初の問いに戻る。

あの時期、ライブができないライブアイドルはどうやって生き抜いたのか?

確かに逞しくいろんな商品やサービスを開拓して売った。でも、それらはファンだから当たり前に買ってくれるというものではない。

嘆きに満ちた世界で、多くのアーティストが怒りの声を上げ、苦境を訴える、あるいは音楽の意義とか価値を説く、そういう中で。

アイドルはずっとファンに寄り添い、その一人一人に笑顔と元気な姿とメッセージを届け続けたのである。「私たちは元気だぞ」と。

運営も言い続けた。「無理して買うな、来るな。みんなが元気でいることが一番大事だ」と。

画像1
画像2

↑通販で物販を買うとその折々の運営からのメッセージがついたお手紙がついてくる。チェキを購入した場合、特製の切手を貼った封筒に、同じく特製のチェキ封筒に入って送られてくる。苦境の最中に購入者1人1人に対して徹底的な手厚さとこだわりを示し続けた。これは我儘ラキアも同様だ。

ファンはただ、その恩返しをできる形でし続けたのだ。支援だとかそんなふうにはあんまり思ってなかったと思う。貰ったものを返していただけだ。

それを本気でずっとやってた存在の一つがNightOwlであり、折原伊桜だったのだ。

もちろん、日長一日、Twitterを見ていいね!して過ごしてわけでは全くない。折原伊桜は自身の最大の武器である歌を磨くことにも本気で取り組んでいた。

この期間に投稿されたもので個人的に印象深いのは「secret base ~君がくれたもの~」の弾き語りだった。今聴くと逆にここからの彼女の進化の目覚ましさに驚くばかりだが。

NightOwlのデビューがちょうど夏の終わり。将来の夢、大きな希望を抱いてデビューした彼女たちと会えない時間を繋ぐようなこの歌の歌詞は聴くと今やあの時のことを思い出す「折原伊桜の歌」になっている。

そしてちょうど一年前、ANOTHER NIGHTと題された配信ライブが一度だけ行われた。旧衣装から新衣装への早着替え、客席までフルに使った配信ならではのライブ。それに追随する素晴らしいカメラワーク。

トラブルもあったがそれもライブ感そのものだった。久しぶりにステージに立った彼女たちは、今まで以上にたくさん笑って、全力でパフォーマンスを尽くした。思わず涙が出るくらい、嬉しかった。ずっとファンに寄り添ってきた彼女たちの届けたい想いが詰まっていた。

ちなみにトラブルが起きた自責からNightOwlチームスタッフは終演後、泣き崩れたという。裏側はこのスレッドを読んで欲しい。

ファンに本気で向き合っていたのはメンバーだけじゃない。そのメンバーを支えるスタッフがいてこそである。

そんな日々を越えて。夜を越えて。

自粛期間が終わり、ライブが戻ってきた。

実質初対面なのに再会。交わしたのはあまりにありきたりで、他に言いようのないあの言葉。

前のように声は出せなかったが、それでもあの時間が戻ってきた。

最初に行った日のことは忘れない。

アイドル甲子園。STDIO COASTの野外ステージ。

雨が降りしきる中でのライブだった。そこにいたのは頭の中でイメージしていたよりも圧倒的な成長を遂げた彼女たちだった。

MCで不機嫌そうな顔で折原伊桜が叫ぶ。

「なんで雨なのーーーーー!」

そこからの曲振り、「Shining Ray」を「Shining Rain」に即興で変えたライブが始まる。

もう一生懸命やるだけのグループではなかった。その現場、そのライブのために自律的にテーマを持って生きたライブを作る、そんなグループに彼女たちはなっていた。

対バン特有の戦闘的な負けん気、一人一人を観ながら、時にアドリブでいろんな表情を送りながら、「自分たちの意志で届ける」ライブがそこにあった。時に笑い、時に睨みすえ、自在に表現する。それが自粛を経て現れた折原伊桜だった。

吹き荒ぶ雨、視界にはモノトーンの衣装で身を包んだメンバーが曇り空のグレースケールな風景の中にいる。

3つの影がダイナミックに躍動し、1人1人に目を合わせ、表情を送る。自分の意志でそこに立ち、自分の頭で伝えたいものを考えてライブする。個性と想いがフレーズの一つ一つに命を吹き込んでグレースケールな風景はいつしか生き生きとした色彩を宿していく。

「天才」

ずっと「なんもわからん」と一言書かれていた折原伊桜のTwitterプロフは夏頃から「天才」になっていた。確かにそのライブはめくるめく才気が迸っていた。

「有言実行」がモットーだと彼女は言う。
口にしたことは責任を持って実行するのだと。だから自身の本当の夢すらまだ公に言っていない、まだその時ではないからだと。

ガチャガチャしてるようでいて、彼女は言葉を重く大事にする人なのだ。

そんな人が「天才」を名乗ったら本当に変幻自在な「天才」に見えるようになった。折原伊桜のもっとも底知れぬ部分だ。

だがその本質は、何よりも一つ一つの歌をフレーズを届けたい気持ち、そのためにできる全てを尽くす、そんなライブ魂を全力で具現化できるように日々の努力を絶やさなかった結果である。

自粛は停滞ではなかった。彼女はひたすらにやるべきことをやってきたのだ。伝えたい想いを練っていたのだ。その日々が全身から溢れていた。

さて、特典会である。

実は自粛前のライブは2回しかいっておらず、しかもマスクだったこともあって当然認知はない。でもなんだか気持ちの中ではそんな距離感は感じていなかった。

名乗ると彼女は

「あーーーーーー!!」

「ここまでどれほど励まされてきたことかーーー!!」

と声をあげてびょんっと飛び跳ねた。実質初対面なのにまさに「再会」だった。伝えたいことがありすぎたし、伝えきれるものでもなかった。めちゃくちゃ舞い上がって話した内容はよく覚えていない。でもこれだけは覚えている。

僕らはずっとお互いに「ありがとう」を繰り返していた。

自分が彼女の支えになれていたかはわからないけど、でもきっと多くのファンの気持ちはずっと届いていたはずだ。言うまでもなく僕らにとっても彼女は確実に支えだった。

どっちがどうではない。一番言いたかった気持ちはやっぱり「ありがとう」だった。ため込みまくったお互いの「ありがとう」はビニールごしにまるでこだまみたいに反響しあって響いていた。

それが、自粛中にアイドルとファンの間にあった感情の全てだったと思う。

5人体制が完成、進化と前進と更新の果ての「fix you」。


2021年1月。

長谷川嘉那

望月さくら

が加入。ここにNightOwlは当初のヴィジョン通りに完成する。運営氏曰く「勝ってもた」と思ったという完成系。しかしながらファーストメンバーの3人は複雑な想いもあったようだ。

未曾有の危機を乗り越えた3人。

一方でライブ活動としてはその半分の時間が自粛で終わってしまった。ただでさえ「MatchlessWarrior」の気構えだった子たちであり、実際に3人のライブは既に十分すぎる迫力を持つに至っていた。これはきっといい意味で想定外というべきレベルのものだっただろう。

だからこそ、もっとこの3人でやりたかった。そんな想いをいっぱい載せたリベンジワンマン。

自分たちも不安だが、みんなだって不安なのは一緒。だから寄り添って一緒に進んでいく存在になる。リベンジワンマンのMCでの折原伊桜のコメント。まさに有言実行だと感じた。しかしこの言葉は「fix you」で向き合う大きなテーマの一つにもなる。

そしてついに新体制。

確かに強い。優勝ビジュアルである。

新体制だとしても絶対に停滞も後退もしない。
変化ではなく進化する。折原伊桜は力強くそう宣言する。

ただでさえ強い負けん気、そこに持ってきて数ヶ月の自粛。停滞なんて口にするのも不愉快なフレーズだろう。

そのあたりから我儘ラキアとの2マンである「HOME PARADE」の開催頻度が加速していく。

最初のお披露目から真っ向勝負だったわけだがあの時とは全然違う風景がそこにあった。そもそもラキアが桁違いに進化している。

一方のNightOwlは本来は戦闘的な曲調やスタイルのグループではないにも関わらず、時に鬼神のようなステージでこれに張り合った。

折原伊桜の歌も磨きがかかっていく。以前はステージに染み込んでいくような歌だった。オーディエンスの温度や雰囲気に関係なくすっと溶け込んで寄り添うようなハイトーン。歌が武器だからと言って変に歌ウマ風の節をつけたりしない。まっすぐで気持ちいい声。

しかしその良さはそのままにやがてその歌は輪郭を持ち、ライブハウスを貫いて響き、電撃のような感覚を与える歌になっていく。鳥肌が立つこともしばしばある。届けるために、伝えるために、彼女は持てる全てを常に真っ直ぐに出し尽くす。

曲も少なくセトリのバリエーションも多くはないNightOwlだが、毎回のテーマを決めてライブをすると言っていた。託すテーマで違う風景を作り出せるグループへの進化。その中心で歌の支柱を担う折原伊桜はその表現の幅を広げて、その存在感の彩度をあげていったのである。

そんなある日プロフが突如、ずっと親しまれてきた(?)「天才」から「王」に変わった。カニとかオウとか二文字の単語が好きらしい。

天才も名乗ってなれるもんではないが
王とは?

しかし彼女は有言実行。

登場SEのラストに真紅のロングヘアをスポットライトでキラキラと輝かせて悠然と登場する折原伊桜は確かに天才というよりは王様だった。

彼女の中には明確に王道というものがある。
王であるからには弱さや不安を見せない、
聞く価値のない批判などに心を揺らされてはならない、
一方で民の支持がなくては王ではいられないから
1人1人にちゃんと尽くさねばならない。

そういうことを真面目に考えて自分に下ろしてステージに立つ。

大仰でふざけたフレーズのようでいて、「王」というフレーズは彼女が目指すあらゆる要素をわずか二文字、漢字なら一文字に凝縮しているのだ。

「寄り添い、一緒に歩むためには強さがいる。」fix youで見せたNightOwlの「強さ」とは何か?

さてようやく「fix you」である。

ラキアはグループ史上最大規模の全国ツアーを全てソールドアウトで成功させ、次のステージアップのために加速度的に変化と進化を続ける。

NightOwlも同じく次のステージに進む、その節目となるワンマンライブが行われる。それがfix youだ。

発表された3月時点で運営の極悪だぬき氏は「あなたを支えて、本来の姿に戻す」という意味があり、ファンとメンバーの支え合いの関係性をテーマとして意味をこめたとTwしている。

「意味おじさん」と某メンバーから揶揄されるくらいに意味にこだわる方なのでここにはその時点でのグループを象徴する大きな意味がある。

fixという言葉は固定する、修復する、というニュアンスが原義だ。

ネイティブのニュアンス解説では

「"fix you" means I want to help you with your problems and make you happy again.」だそうだ。

つまり、「問題を解決する手助けをして再びハッピーにする」そんな感じ。

このタイトルはたぶんおそらくColdplayの「Fix You」をオマージュしている、かはわからないがこの歌の歌詞は個人的にすごく彼女たちにしっくりくるなと感じている。

Lights will guide you home
And ignite your bones
And I will try to fix you

その前段では「努力してもうまくいかない」「かけがえのないものを失う」「誰かを愛しても成就しない」そんな「どうしようもない」状況が歌われている。

和訳ではAnd I will try to fix youを「君を支えるよ」と訳しているケースが多い。でも果たして、上記の状況ってそんな気安く支えられるもんなのなのか。ここで歌われているのはそんな安っぽいニュアンスなのかな?自分は正直ピンとこない。

なのでアオクマなりの意訳をつける。

Lights will guide you home
君を帰るべき場所へ導いて

And ignite your bones
体の奥に火を灯す明かりのように

And I will try to fix you
僕は君があるべき姿に戻れる、支えになってみせるよ

ここで歌われているのは無責任なエールや励ましのメッセージではない。そんなものすら届かないほどの失意、努力ではどうにもならない状況の中で「帰るべき場所」「安らげる場所」「自分らしくいられる場所」=homeような存在になろうというメッセージだ。

ignite your bonesは「君をあたためる」なんてぬるいニュアンスではなくてもっとビビッとシャキッとするような強いエネルギーの喚起が歌われている。エンジンに火を入れるイグニッション。とても強いエネルギーだ。そのくらいhomeの存在が傷ついた人間に力を与えると歌っている。

オタクとしてはこのサビをシンプルにこう思うのだ。

「ああ、なんだ、それは現場じゃん」と。

そして同時に思うのだ。

「ああ、なんだ、NightOwlじゃん」と。

NightOwlのグループ名は「夜更かし」を意味する俗語だが「梟」は「福郎」「不苦労」とも掛けられていて、縁起が良いものとされてるらしい。であるならばさしづめ「闇夜を翔ぶ福音」と言うべきか。

全くの偶然にして、世界は長い闇の時代を迎えている。今なおそうだ。そんな時代にずっと笑顔と元気を送り続けたNightOwlはまさにその名にふさわしい、この時代だからこそさらに必要とされるアイドルとなった。

いつでもファンに寄り添う彼女たちは、ライブがあってもなくても、そこにファンの居場所を作りつづけてきた。彼女たちがいるところ、それはまさにhomeだった。

「fix you」の構成として、今や十分パフォーマンスで伝えられるのに一曲一曲丁寧に説明をしながら進行したことも「古参でも新規でも1人もアウェーを作らない」意味があったと思う。それに加えてメンバー同士のアイコンタクト、アドリブっぽい表情、何より笑顔がいっぱいあった。あたたかな気持ちになるライブだった。

それを観てて思い出す。あの自粛の時に彼女たちから受け取っていたもの、ずっと力をくれていたものはこれだったと。ライブ中の折原伊桜の笑顔を観ていてそれをたくさん思い出した。

しかし、すでに多彩な方向性のライブが作れる彼女たちがこの雰囲気をいわば集大成として持ってきた、そのことの重さもまた感じるのだ。

MCでは普段寡黙にしていることが多い長谷川嘉那にコメントが振られた。彼女は涙ながらに思いを語る。「自分に自信が持てず、本音で話してるはずなのに全部嘘じゃないかと思ってしまうような日々もあった」と。そんな彼女の今日までの心境の変化が語られる。彼女のメンバー内定はお披露目よりかなり前のことだったと聞く。もちろん5人目の採用に時間かけたというのもあるだろうが、彼女もまた人知れず孤独に戦っていたのだ。

そしてラストスパート。折原伊桜からは本当の意味で「寄り添い続ける」「支え続ける」ためには「強さがいる」「強くならないといけない」と。

2人の言葉を繋げてはっとなった。

ファンから見た彼女たちはもう十分強かった。
こんなしんどい時代を生き抜いて頑張っていてNightOwlは順調に大きくなっているように見える。

本当に寄り添い続けて支えてくれてると思っている。
別にSNSとかの話ではない。そういうステージを作れてると思ってる。

でも考えてみれば長い自粛での停滞。明けてからも半分のキャパ、声も出せないライブ。

受け取る側のファンは良くても届ける側の彼女たちは本来あるべき手応えを感じられていたのだろうか?

思い起こせば今でこそ「天才」「王」と書かれた折原伊桜のプロフはだいぶ長い時間、「なんもわからん」と書かれていた。

「16進数の海辺」は唯一すれ違ったまま終わる歌、だそうだが、もしかしたらこの部分こそ、今の世の中におけるファンとアイドルの永遠のすれ違いポイントなのかもしれない。

アイドルはファンに幸福を与える。ファンはアイドルに賞賛を送る、一見等価交換に見えるこの関係は本当はそんなことはないのだ。ファンは未来を保証できない、いついなくなるかもわからぬ存在だから。

ずっと笑顔で前向きなメッセージを発信し続ける彼女たちの奥底にある焦燥のことを僕らは単に見ないふりをしてきただけではないのか…完全に否定はできない、が、それもちょっと違う気がする。

NightOwlメンバーは自分たちの不安や弱さや焦燥を悟らせなかったのだ、先の見えない自粛の中で、強い意志をもって悟らせなかった。不安だったからこそ見せなかった。

そんな彼女たちが節目のワンマンで口にした「自分の言葉が嘘に思えるような不安」と「もっと強くならなくてはいけないと願うほど今はまだ強くない自分たち」。

ありのままの正直な自分たち自身を認めてシェアする。それができるほどに「強くなれた」ということなのだと思う。自分たちが手にすべき武器が見えたのだと。

ここまでNightOwlはシャカリキに頑張る戦闘的なライブをはじめとしてあらゆるテーマでのライブに挑んできた。セトリをより多彩に魅せられる幅の大きさは今後も大きな魅力の一つになるはず。

しかしその中で現時点としての集大成として「強くてカッコよくて、でもそれ以上に一緒にニコニコして全力で遊ぶことができるライブ」にたどり着いた。それは実はたぶん元々彼女たちが彼女たち自身の魅力として最初からもっていたものだ。

「愛される才能」

彼女たち自身のチャームであり、ライブのできなかった自粛期間はむしろそれが最大限発揮されていたと言ってだいい。あまりにナチュラルにもっていたがゆえに、それを確信をもって、勝負できる水準として仕上げるにはたくさんの場数と練習と試行錯誤が必要だったんだと思う。この状況ではなおさらに。

誰かが作って与えたものではなく、誰かに対抗して作ったものでもなく、自分たちらしさを見つめて武器にする、それはたしかに本当の意味で強くあらねばならない。頼れるものは自分自身、語感はカッコいいが強くなければ本当に恐ろしいことだ。

「fix you」、もちろんこのしんどい時間を支え合ってきたファンとメンバー、お互いを支える気持ちの体現、それも意味としてあると思う。少なくとも半年前であればそのニュアンスのほうが強かったはず。

でも、今のタイミングのそこには「あるべき自分を取り戻す」という意味も強いのではないかと思う。

病の猛威が奪った時間を。そのせいで不安に駆られた時間を「取り戻す」。

そんな彼女たちがワンマンで作って見せたのはまさしくhome、ファンにとって「あるべき自分に戻れる場所」だった。

外の世界はいまなお大きな傷を負い、制約の最中だ。

頑張っても足掻いてもどうにもならないことがたくさんありすぎる。

僕たちはどこに行っても何をみてもげんなりして、無力感に苛まれて時に戦う力さえ失ってしまうことさえもある。

そんな世界に対して「あなたを支える」と。もしくは「夢を叶える」と。そんな簡単なものじゃないことは彼女たち自身が一番よくわかっている。だから折原伊桜は「王」を名乗り、その身におろし、その上で「もっと強くならなくてはならない」と言う。

だけど。現場を訪れたその時間だけは、彼女たちの発信を見かけたその時だけは。そこにはいつだって我々のhomeがあり、笑顔と元気を湛えた彼女たちがいる、折原伊桜がいる。それは揺るぎのない事実で、夢ではなく彼女たちが作り上げたリアルだ。漠然としたユートピアではなく、homeそのものなのだ。

その瞬間、その時間だけは嫌な現実から解き放たれて、穏やかで満たされた本来の自分に、あるべき自分に「戻れる」場所。

自分の手と頭で作り上げたものだけがhomeになりうるし、この世でもっとも確かで強いものだ。人から与えられたものはそうは呼ばない。NightOwlにはすでにそれがその手にある。

世界がどれほど傷ついてもそんな存在であることを貫くこと。より多くの人にとってのそんな存在になっていくこと。

そのためにどれほどの強さがいるのかは想像もつかない。でもこんな時代をここまで貫いてきたNightOwlなら、折原伊桜ならきっとやり遂げられる。

圧倒的で残酷な現実を「夜」と呼ぶなら、その中を翔ぶ小さな梟は無力なのかもしれない。でも、その翔び立つ先にはきっと帰るべき場所がある。特に真紅色のやつはさらに遠くまで連れていってくれるかも知れないね。

NightOwl will guide you home
And ignite your bones
And they will try to fix you

今年の夏はみんなと過ごす最初の夏だと折原伊桜は言う。あれ?去年の夏もずっと一緒に居なかったっけ?とファンは思う。その隙間を埋めて元通りにしてあまりある夏になりますように。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集