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人生は予測できない方がおもしろい|湯河原温泉旅行
「私が誰にも負けないのは、前向きでポジティブな性格です!」
転職活動の面接で、笑顔で話した自己PRは嘘だったかもしれない。
2024年のクリスマスイブは、布団に入った瞬間、将来の不安で頭がいっぱいになって、涙が止まらなかった。
上司から、解雇になるかも、という話を受けたのは、
その1ヶ月ほど前だった。会社の経営の都合であった。
”なんとかなるさ”の楽観主義。
そんな私が始めた転職活動の結果は散々だった。
入社意欲が低い企業に書類選考で立て続けにお見送りされて、
何度も心がぽっきりと折れた。
食べて寝たら大抵の嫌なことは忘れるんだ〜
なんて自慢げにいろんな人に話していたのに、
その頃の私と言ったら、
毎日のように行き場のない不安な気持ちをうじうじと夫に話していた。
恒例の近所の焼き鳥屋で2人で忘年会をして、
まだ今年を忘れらんねえよ!!と言いながらお酒を飲んだ帰り道、
夫は「予測できない人生の方がおもしろいじゃん」と言ってくれた。
年が明け、夫の実家に泊りに行った時、
夜の神社へ初詣に行っておみくじを引いた。大吉だった。
年明けから心機一転、紆余曲折あった転職活動は1月末で幕を閉じた。
「転職活動終わったら温泉に行ってやる!!」
私が何度も言いながら履歴書を書く姿を見ていた夫が、
温泉行かなきゃね。と言ってくれた。
湯河原温泉は、神奈川県の端っこ、箱根を過ぎ、熱海より手前に位置する。
私たちが住んでいる場所から、程よい場所にある温泉地だった。
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駅を降りると、おしゃれな駅舎が出迎えてくれた。
有名な建築家、隈 研吾さんが設計した駅舎と広場ということで、洗練された雰囲気が漂う。
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それと同時に、湯河原温泉と書かれた暖簾や、駅前の古くからあるお土産屋さんなど、昔からある温泉街の良さを同時に感じられるのがいい。
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また、「手湯」のコーナーがあり、源泉がちょろちょろと出ている。
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面白半分で手を差し出すと、温泉に浸かった時のあのホッとした感覚が手軽に味わえて、温泉地に来たんだなということを教えてくれた。
今回の旅行は「予定を決めすぎない」ことをモットーにし、
行きたいお店を最小限に絞って、のんびりとした旅にすることにした。
駅で一通り温泉感を満喫し、「今日は歩きやすい気候だね〜」などと話しながら徒歩3分。
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最初の目的地「ちぼり湯河原スイーツファクトリー」は、贈答用クッキーメーカー「ちぼり」の本店で、カフェコーナーでスイーツを楽しんだり、お土産を買ったり、小さいが工場見学をすることができる人気のスポットだ。
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湯河原はみかんの産地としても有名なので、
みかんのシュークリームと、保険用で通常のシュークリームを1個ずつ注文した。
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サクッとしたシュー生地の中に、
しっかりとみかんの香りがするクリームが詰まっていて美味しい。
大抵、ベーシックなフレーバーのものの方が美味しいというセオリーが私の中であるが、今回も例に倣ってそうだった。
一点ずつの購入で正解だったと言える。
次の目的地まで徒歩30分バスで10分。
ホテルのチェックインまでに確実に時間が余ることが予想されたため、
徒歩を選択した。
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湯河原の街並みは、観光地化されすぎていなくて、それがいい。
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結婚する前から、夫とは、何もない道を歩くのが楽しかった。
特に何もない場所から、自分と違う視点で、
新しい切り口で言葉を紡ぐのを、
おもしろいなあと思っていた。
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オリジナル感を出した夫。
今回だって、私は職を失いそうなことを
ただただ悲観的にしか捉えられなかった。
それは当事者じゃないから言えることかもしれないけれど、
同じ家族として、
人生は予測できない方がおもしろいと言えることがすごいと思ったし、
それを聞いて、私もおもしろいかも、と素直に思うことができた。
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万葉公園を散策し、アップダウンのある道に文句を言いながら、
今度から2人とも家での仕事だから体力つけないとね、と笑い合った。
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その日は天気が良く、万葉公園内の川を流れる水が、
木漏れ日の中キラキラしていて綺麗だった。
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湯河原惣湯テラス内で少し休憩しつつ、
余った時間で近くにあるクラフトビールスタンドに行くことに。
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KADOYAは名前の通り、道路のちょうど角地にあった。
開店の14時ちょうどに行くと、先客が2組。
オーナーさんからみんなでまとめて本日のビールラインナップの説明を受ける。
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私たちは
タップ1の「ねこしかしんじられない」と、
タップ3の「オーロラハーモニー」をそれぞれ注文した。
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「ねこしかしんじられない」、通称「ねこしん」は、
ミックスジュースのようなコクがあり、フルーティーな風味。
新鮮だけど、ジュースのようにゴクッと飲めるおいしさ。
「オーロラハーモニー」は、柑橘の風味と紅茶のような後味。
オレンジピールのような風味がする、と呟いたら
店主さんが他の方に説明するときに採用してくれて嬉しかった。
チョコレートがよく合う。
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最高のビアスタンドだった。
ほろ酔いチェックイン。
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今回私たちが泊まったのは、「アルベルゴ 湯楽」。
自家源泉かけ流しの温泉と地元の有機野菜、
近海で揚がった新鮮な魚介類を使ったイタリアンと和食を融合させた
フルコースが楽しめる和風オーベルジュの宿。
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泊まった部屋は一番安かったけど、十分な広さの和室。
トイレと洗面所が部屋を出た廊下にあり、
鍵付きの専用室という新しい形態の部屋だった。
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部屋の近くには、宿泊客が利用できるドリンク&ライブラリースペースが。
温泉は大浴場と檜風呂が1箇所ずつ、朝晩男女入れ替え制になっている。
あとは貸切風呂が2種類。
プラン内でどちらか1種類と、時間を選択できる。
よって、1泊の滞在で3箇所の温泉を満喫することができた。
温泉宿では夜ごはん前にお風呂に入り、洗髪、メイクまで落としてリラックスモードになるのが定番だ。
お湯は、正真正銘のかけ流しだけど、
暑すぎず、じわじわと体を温めてくれた。
特に癖のないお湯で、長い間入っていても疲れない心地よさがあった。
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お風呂上がりはライブラリースペースで、短歌集を読んだ。
歌人・木下龍也さんの「あなたのための短歌集」。
「お題」を受けて作歌する短歌の個人販売プロジェクトを本にしたもので、
いろいろな人の悩みを受けて、
優しく、時に皮肉めいた言葉遊びで短歌を紡がれている
おもしろい本だった。
くすりと笑えるものもあれば、いつの間にか涙が流れる短歌もあった。
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中でもお気に入りはこちら。
お題「特別に幸せでなくてもいい、平凡でありきたりだけど穏やかな暮らしがしたいという気持ちを短歌にしてください」
「ゆらしてもそめても君という海がかならずとりもどす凪と青」
まるで、夫のことだ、と思った。
夕食の時間を、2人してまだかなまだかな、と待った。
私なんて、温泉に3度も浸かった。
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本当は温泉前に食べるんだけどね
予想通りきな粉まみれ
夕食の時間少し前に、レストランへ向かう。
よく温泉宿にある浴衣と羽織を着て、足袋と下駄で食べるイタリアン。
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椅子を引いてもらい、ナイフとフォークと、お箸も用意してあることにホッとする。
メニューには食材の名前だけが書かれていて、想像力を掻き立てる。
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自家製のパンが美味しすぎて、パン屋でもやってけるね、とか
どの立場で言っているのかわからない褒め方を2人でした。
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甘海老 帆立貝 菊芋 唐墨 文旦
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和牛 マッシュルーム 芽キャベツ
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天然地魚のカルパッチョ(これは料理名)
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蕪 ひよこ豆 ワイルドライス ほうれん草 軍鶏
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鰆 菜花 百合根 はば海苔
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レモン バジル
お口直しのシャーベット。これが出てくる製氷器が欲しい。
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和牛 北あかり イタリアンパセリ 赤キャベツ
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苺 ビーツ チョコレート
お料理の味はもちろん、温度、盛り付け、食材選び、タイミング、量、
何をとっても感動する素晴らしさだった。
この夕食を食べに、もう一度湯河原へ行きたい。
寝る前にもう一度温泉に浸かり、幸せなままふかふかの布団で眠った。
普段はベッドだけど、畳の上の敷布団ってなんかいいよね。
朝起7時に、貸切の露天風呂に行った。
朝日に照らされた遠くの山が、絵画のように美しく、
寝起きの頭を起こしてくれた。
朝食は、和洋選べるのが、困った。
許すのなら、どっちも食べたい。
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私は和食を、夫は洋食を選んだ。
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湯河原は干物も有名なので、鯵の干物が食べられるのが嬉しい。
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ご飯とお味噌汁(お魚のあら汁!)がおかわり自由で、1回ずつおかわりした。
夫は、パンに感動しすぎて洋食を選んでいた。
改めて、パンに感動していた。
チェックアウトは11時とゆっくりめで嬉しい。
もう一種類の檜風呂に入った。これで前日から数えて温泉に入るのは6回目。
私はあまり長い時間浸かっていられないので、細かく何度も入るのが好きだ。
部屋から各温泉へのアクセスが良くて嬉しかった。
チェックアウトした帰り道、宿の良さを褒め称えた。
最後に、「餃子の一番街亭 湯河原店」で名物の坦々焼きそばを食べた。
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ピリッとした病みつきになるからさで、ちゃんぽんのように具沢山!
お腹いっぱいで苦しかったけど、完食。
正直、湯河原の街は割と歩き尽くしたけど、この宿にくるためにもう一度湯河原に来たいと思えるくらいの満足度。
転職へのエネルギーチャージが十分にできた。
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本当に人生は何が起きるかわからないけれど、
揺れても、染められても、また青に戻る。
平凡で穏やかな日々をこれからも一緒に紡いでいきたい。