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ロサンゼルスのロックダウン以降、各行政機関が実施した施策について
筆者はアメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルス郡トーランス市在住。カリフォルニア州・ロサンゼルス郡は2020/3/19 23:59PMより、いわゆるロックダウン状態に入っている。
にもかかわらず、(本原稿執筆時点の2020/3/30現在)住民の間で大きな混乱は起きていない(もちろん企業倒産・失業件数の増加や感染拡大の不安はある一方、食料品購入など日常生活は比較的平穏を維持できている)。
大きな混乱が無いのは、連邦政府・自治体など行政機関が矢継ぎ早に施策を意志決定、十分な広報とともに実施していることが要因と思われる。
今後、東京など日本の大都市も同様の状況(ロックダウンや自宅待機命令など)が予想されるため、日本の地域行政等に関わる皆さんが早急に対策を講じられるよう、アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルス地域の各行政機関がロックダウン後に実施した施策等を報告したい。
なお、本稿の内容は筆者が直接影響を受けるアメリカ政府およびカリフォルニア州、ロサンゼルス郡、トーランス市の各行政機関による広報・施策内容が基になっている。
カリフォルニア郡で発出された自宅待機命令(Safer at Home Order)の内容
改訂・最新版)http://publichealth.lacounty.gov/media/Coronavirus/COVID-19_March%2021-HOOrder-7_00_FINAL2.pdf
日本語概要)https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/03/ee65ee1edc127b41.html
主な内容は以下の通り。
・10人以上の人の集まりを禁止
・10人未満の人の集まりでは、6フィート以上(約1.8m)の間隔を空ける、必ずサニタイザーを設置する、など細かな規制
・“必要不可欠”でない業種や店舗の営業停止、またはテレワーク化(“必要不可欠”の定義は後述)
・子供の遊技場の閉鎖(公園の遊具等)
営業継続が可能な事業・業種と、営業停止・テレワーク化すべき事業・業種を明確に定義・広報
上記の自宅待機命令(Safer at Home Order)では、営業を継続できる「必要不可欠な(Essential)」ビジネスと、営業停止またはテレワーク化が求められる「必要不可欠でない(Non Essential)」ビジネスが明確に定義されている。
自宅待機命令中も営業継続が可能な主なビジネスは以下の通り。
・食品、生活用品販売
・新聞、出版などのメディア関連
・ガソリンスタンドなど自動車関連
・銀行など金融関連
・プランバー、ハンディマンなど住居関連のサービスプロバイダー
・郵送、配送など流通関連
・教育関連
・飲食店(ただし、テイクアウトのみ・店内飲食は禁止)
・法律事務所などの士業系サービス
・航空、タクシーなど輸送関連
・ホテル関連
など
※自動車移動が不可欠なカリフォルニア州ロサンゼルスでは、ガソリンスタンドや自動車整備工場などの営業は不可欠。
※また自宅での生活が長引くため、配管工や電気技師(自宅の水道の詰まりや、電気系のトラブル対応)などの営業を許可しているものと思われる。
上記以外の、特に対面型の顧客と直接接点があるようなRetail Businessは原則として営業禁止。ただし、公共交通機関は運行本数を減らすものの運行は維持、通院手段や上記Essential Business従事者の通勤手段として提供。
自宅待機命令違反を軽犯罪、罰金刑として扱う
上記の自宅待機命令の冒頭に違反は、罰金もしくは懲役、もしくはその両方を伴うと明記されている。真偽は不明だが、「不要な外出を警察に咎められ、$500の罰金を取られた」などの口コミがSNSで広まり、これが不要不急の外出の抑止力としても働いている様子。
【自宅待機命令発出後】住民が自宅から外出できるケース・外出できないケースを例示して広報
自宅待機命令発出後、住民から「一切外に出られないのか?」などの疑問が出たが、すぐに行政機関(ロサンゼルス公衆衛生局等)から下記がアナウンスされた。
【自宅から外出できるケース/住民が行っても問題ないとされていること】
・食料品の買い出し、あるいは食料品配達の注文
・通院や医薬品の入手
・銀行や郵便局
・配管工や電気技師を呼ぶこと
・ガソリンスタンドや自動車修理工場
・公共交通機関の利用、散歩、自転車、車の運転
Learn about the new "Safer at Home" Health Officer Order. #COVID19 #novelcoronavirus
— LA Public Health (@lapublichealth) March 20, 2020
Find out more by visiting https://t.co/NeJm5BHINE. pic.twitter.com/xFiNFekzTE
上記により完全な外出禁止ではなく、ある程度行動の自由があることが分かり、住民の安心感を得られた。
【自宅待機命令発出後】毎日感染者数、対策会議の議事などを公開
例えば筆者が属する、カリフォルニア州やロサンゼルス郡、トーランス市などの各自治体・行政機関は、毎日のように新規感染者数や累計感染者数、対策会議の議題や決定事項をSNSで配信、また記者会見(Press Conference)もLIVE配信するなど、広報が徹底している。透明性の高い情報公開により、住民は各行政機関がいま何に取り組んでいるかが分かり、この点も住民に不安感が少ない1つの要因になっていると感じる。
以下のように筆者が住むトーランス氏からは1日に2-3回のFacebook、Twitter投稿がある。
Information from the City of Torrance – The Los Angeles County Department of Public Health reported 2474 laboratory confirmed cases in LA County with 43 cases in the City of Torrance. More information: https://t.co/wr5suzBy2G
— City of Torrance (@TorranceCA) March 31, 2020
Alerts regarding COVID-19 will be sent daily to
また例えば現在問題になりつつあるDV・家庭内暴力の問題について、相談窓口の広報などもタイムリーに行われている。
ALL Domestic Violence services are open and available. If you or someone you know is at risk of or experiencing domestic violence, support and resources ARE here. #COVID-19 Call 800-978-3600, 2-1-1, or go online: https://t.co/BGIZ4Zr5wK pic.twitter.com/9CF5XydkQ7
— LA Public Health (@lapublichealth) March 25, 2020
【自宅待機命令発出1週間後】SNSで住民向けのアンケート調査を実施
筆者の住むトーランス市では、自宅待機命令から1週間が経過後の3/28から、SNS上で住民向けのアンケート調査を実施している。内容は「どの程度、コロナウィルスに不安を感じているか」「いま最も苦労していることは何か」「あとどれくらいの期間、現在の状況に耐えられそうか」など、住民の不安や不満を把握し、それを次の施策に繋げようとしている様子。
実際の調査票)https://survey123.arcgis.com/share/53bea088a29f4bc68c02666bb9b6bca8
【各種補償】電気・ガス・水道などの公共料金の支払いが遅れても供給が停止しないように配慮
自宅待機命令により影響を受けるビジネスに対する融資や補償、また個人に対する失業保険対策等は、別途連邦政府の予算化が進められる一方、各自治体レベルで実施判断ができる事業者・個人に対する補償措置の1つとして、電気・ガス・水道等の公共料金の支払い遅れは、早い段階から(自宅待機命令が出る前の外出自粛段階から)容認されている。
【各種補償】家賃の支払い遅れを容認、コロナ影響がある場合は家賃不払いによる立ち退き要求を禁止
カリフォルニア州知事は、コロナウィルスが原因で家賃の一部または全部を支払えない場合、家賃支払い日を過ぎて7日以内に地主へ書面で通知すれば、支払いを一時的に停止でき、また地主は立ち退きを要求できないと法令を発し、収入不安のある個人・事業者を支援している。
【食品・日用品の流通・販売関連】店員の確保、時給アップや臨時ボーナス
以下、主に食品スーパーの営業について、特に行政機関の施策等でないものの、自宅待機命令発出後の影響として共有するもの。
まず食品・日用品を販売するスーパーマーケットは通常通り営業、住民も食品購入目的の外出は許可されていることが、目立った混乱の無い要因の1つと考えられる。
一方、店員確保に苦戦するスーパーもあり、不特定多数の顧客と対面するビジネスであるが故、店員が就労を拒否するケースや、子供の学校の休校等に伴い店員を確保できないケースも発生。これに対してスーパー側は臨時の時給アップやボーナス等の支給により、何とか営業を継続できている面もある(食品の流通・販売関連の人員が確保できず、営業継続が困難になると住民に混乱が生じる恐れも)。
https://www.foxnews.com/food-drink/whole-foods-workers-sick-out-coronavirus
※例えば、米国の高級スーパーマーケットチェーン「Whole Foods」の従業員は時給アップや無料のコロナウィルス検査などを会社側に求めている。
【食品・日用品の流通・販売関連】対面レジでの飛沫感染防止策やソーシャルディスタンスの徹底、入場制限
店舗内での感染などを防ぐため、食品スーパーでは対面レジでの飛沫感染を防止するため透明のアクリル板を用意したり、入場制限をすることで店舗内でソーシャルディスタンスを維持できるようにする、また入場待ちの列も6フィート(約1.8m)間隔で並ぶようになどの措置や工夫が、各店舗で実施されている。
【食品・日用品の流通・販売関連】老人、妊婦などが安心して買い物できる時間帯を確保
感染リスクが高い老人、妊婦などが買い物できずに困っているとの状況を受け、各スーパーマーケットは開店前の1時間を老人や妊婦専用の時間として、一般客とは別の専用時間帯を確保、サービスを提供している(恐らく、行政等からの要請があったものと思われる)。
【医療関連】不急の手術や治療、通院の予約等は延期するように医療機関に要請
これは自治体レベルではなく連邦政府レベルの要請だが、コロナウィルス対策に必要な医療リソースを確保するため。
【医療関連】医学生や退職した看護師の募集を開始
※2020年3月31日追記
カリフォルニア州知事は、医療従事者の不足を補うため医学生や退職した看護師などの雇用を呼びかけた。入院の必要な患者数が過去5日間で2倍に増えており、病床は確保できているものの医療従事者が不足してきているものと思われる。
【その他】一部受刑者の釈放を決定
※2020年3月31日追記
カリフォルニア州は、刑務所内での感染拡大を防止するため、一部受刑者(暴力関連以外の犯罪による服役で、残刑期が60日を切った受刑者)の釈放を順次進めると発表した。
→過去にも、州予算の不足などで受刑者を前倒しで釈放したことはあるため、そこまで異例の措置ではない。
結論:ロックダウン後、地域行政が主体となって住民の混乱を最小化するには
●食住生活の安心感の担保
…安心して食料品の買い物ができる、賃料を支払えなくても大丈夫
●言葉の定義の明確化
...ロックダウンとは?(何ができて、何ができないか)、必要不可欠なビジネスとは?
●透明性の高い情報公開
...都道府県・市町村はいま何を検討し、どんな対策を講じようとしているのか、どんな問題が起きていて、その優先順位は?
+
●国や政府と一体となった失業、休業などへの補償
…地方自治体レベルの予算規模ではないため国や政府の財政出動が必要、とは言え自治体レベルでも公共料金の支払猶予などできることはありそう
以上、アメリカの連邦政府レベルの施策は日本でも報道されていると思われるため割愛し、主に州・郡・市などの地域行政がどのような取り組みを行っているかをレポートした。
ただし、ニューヨークのように一部医療崩壊が始まると状況は変わる可能性がある。また筆者自身が幸い非感染のため、ロサンゼルス周辺の医療機関の情報は収集できていない(ニューヨークと違い、現時点でロサンゼルスは医療崩壊に至っていない様子)。