漫画感想:『僕らには僕らの言葉がある』/ 詠里
昔から聴覚障害者とのラブストーリーを扱ったドラマが人気が出るのがわからなかった。正直今でもわからない。なぜろう者と聴者のラブストーリーが「ピュア」ともてはやされるのか意味がわからない。
だけどこの作品は違った。元々はSNSで発表されていた作品の書籍化。高校野球を題材にした、ろう者のピッチャー・相澤真白と聴者のキャッチャー・野中宏晃が、同じ高校に入学し、硬式野球部に入部するところから始まる物語。
わたしが野球好き、それも高校野球好きだからというのもあるだろうけれど、野球ものとしても充分面白い。
ろう学校には硬式野球部がないことを、恥ずかしながらわたしはこの作品を読むまで知らなかった。
それだけじゃない。ろう者の人たちは耳が聴こえないだけで、言葉がわからないわけじゃない。そんな偏見をもっていたことに恥ずかしながらこの作品を読んで気づきました。
言葉は「聞く」ものだった野中。
対して言葉は「見る」ものだった真白。
野中は真白と出会ったことで次第に指文字や手話など「見える」言葉を覚えていく。
対する真白も、聴者の妹にレクチャーを受け、「聞こえる」言葉に挑戦する。
「ノナ」と。
野中の「ノナ」。もちろん真白には聞こえていない。生まれつき耳が聴こえなかった真白が、おそらく初めて音として発した言葉。聞こえていないけれども、喉が風邪をひいた時みたいにヒリヒリすることで、真白は自分が声を発したことを感覚でつかむ。
きっとこの瞬間、真白とノナのそれぞれ生きてきた世界が交錯し、そして広がり始めた。
広がり始めた2人の世界は、真白やノナの家族、そしてチームメイトなど他の人たちにも波及し広がり続けていく。
初めて真白と会ったノナの母が、最初こそあせるもののだんだんと打ち解けていく第6話が特に好きなエピソードです。
偏見がすぐになくなったわけじゃない。授業などで大変な面もある。それでも真白とノナの原動力となっているのは「野球がしたいから」なのかもしれません。
SNSで発表されたけれど未収録のエピソードもあるので続刊にも期待です。
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