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三種の神器 /ファシリテーション一日一話
歴史を俯瞰しながら
昨晩は、義父・山田脩二さんの新刊『カラー版 日本村・島』の出版記念イベントで、進行役をさせていただいた。といっても、聞き手として、写真評論家の飯沢耕太郎さんが立ってくださったので、進行という意味では僕はほとんど何もしていない。お二人に委ねたまで。飯沢さんのおかげで、日本の写真の歴史を俯瞰しながら、山田脩二さんがどういう写真家で、今回の写真集がどういう位置づけなのか伺うことができて、大変よかった。すごいな、写真評論家って。
フリーランスのお手本
義父の山田脩二さんは今年で85才になる。若い頃、職業カメラマンとして、日本の建築や風景をバリバリとっていた時代の話も面白かった。たんまり取材費をもらって、全部飲んでしまった話。伊東豊雄さんや内藤廣さんなど建築家とのウイット溢れる言葉のやりとりなんかを聞いていて、日本が大きく変化する時代にいっしょに波に乗りながら仕事していた人なんだなぁと感じた。誰にも媚びず、どこかに雇われることなく、自分のスタイルを持ち、ひょうひょうと生きていくフリーランスのお手本のような人生だ。
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皆がいきる場
会場の写真集食堂めぐたまは、飯沢耕太郎さんが持っている5000冊の写真集コレクションを楽しめる空間。ただ写真集がたくさんあるだけであれば、それは図書館でもミュージアムでもいい。しかし、ここには美味なる「おうちごはん」がある。実家で母親が作ってくれたような体に優しく染みてくる和食。安心できる季節野菜をたっぷり使った滋養あふれる和食を中心に、江戸時代の伝統食からエスニックまで、季節ごとにどんどんメニューが更新されてゆく。来た客はだんだん馴染みになり、もうひとつの実家のようになる魅力がある。
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好きな写真集をゆっくりめくるもよし、美味しい食事を楽しむもよし。夜は日本酒やワインも楽しめる空間。いやいや、それだけではない。ここはイベント・スペースとしても機能している。ヨガ、落語、写真集づくりワークショップ、対談、体操、三線ライブ、食のイベントなど、実に多彩な催しが行われ、たくさんの人が集っている空間なのだ。
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ご縁で集った人たちが個性的
山田さんの写真トークが終わると、写真集の即売会やサイン会、食事しながらの懇談会の時間になる。お酒とともに、白和えや豚汁や雑穀ご飯などの体に優しい食事が次々と供される。だんだん場が温まってきたところで、「ここにどんな人が来ているのか?」でマイクを回そう、という話になった。
ひとり一言、山田脩二さんとのご縁を語る。夜行バスでたまたま隣に座ったがためちょっかいかけられた人、若いころ理不尽な命令を下されて辟易した人、皆の師匠のような存在の写真をまとめるときに資金がピンチになって山田さんにお金を借りて助かった人、山田さんに瓦の仕事を依頼したときの楽しいエピソードなど、たくさんの声をきけた。山田さんが写真を学んだ桑沢デザイン研究所時代の同期や後輩の方もたくさん来ていた。
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食事も終えてデザートを食すと、集いはだんだん終盤にはいってくる。僕はしらふのときはまともに働けるのだが、酒を呑むとまるで役に立たなくなるタイプのファシリテーター。どうやって、この場をシメようかなぁと思っていたら、若い頃に山田さんに理不尽をいいつけられたと自己紹介してた﨑野隆一郎さんが肩を叩く。「今日はありがとう。俺もそろそろ帰る時間だよ」と声をかけてくださった。ころあいだったので「この場のシメの言葉いただいてもいいですか?」とマイクを託した。﨑野さんは、山田さんよりちょっと若いぐらいの世代だが、今も夏休みには子どもたちをひきつれて30泊31日のキャンプを完遂するバリバリのガキ大将だ。
シメの言葉
「えー、みなさん。今日は本当にありがとうございます」とお食事をつくってくれたスタッフや参加した皆にお礼を伝えたあと、﨑野さんはこんな話をしてくれた。「人生には三種の神器があるといい、と仲間うちでよく話をしています」と
三種の神器の1つ目は「縁」。人生は縁が大事。色んな人と出会って、そのご縁を大事にすることで、流れができてくる。こうやって、山田脩二さんの縁で今日ここに皆さんと会えたご縁を、ぜひ大事にしていきたいです。
そして2つ目は「運」。やっぱり運がつよいとか、運がついてる、ってのも本当に大事。山田脩二さんもいい運の持ち主だと思う。
最後の1つは「こころがけ」。やっぱり日々のこころがけをよくすることで、人生はひらけてくる。今後、皆さんといっしょによいことができますように、こころがけていきたいです。
と。「縁と運とこころがけ」か。僕もこの3つを大事にしていきたいな、と思えるすばらしいシメだった。よーーーーー!ポン!と、ひとつ大きくシメての散会となった。このお話しに、みな満足して帰路についた。場をシメることができる人は、素晴らしい。
終わりよければ、すべてよし
会議でも宴会でもシンポジウムでもそうなのだが、最後の挨拶とか、場をシメる一言は、けっこう大事だと思う。僕はあまり得意なほうではないが、シメかたが分かっている人がマイクを持つと、皆の心はひとつになり、モチベーション高く散会できる。
逆にある会議の終わりに、その団体の会長がマイクをもって「せっかく皆さんから頂いた意見ですが、たぶんどれも反映できないだろうと思います」と終わりの挨拶をしたことがあって、即座に怒号が飛んだ。「私たちを集めておいて、話し合わせておいて、それはないだろう!」と。僕ももう少しだけ気が短かったら、その会長に詰め寄っていたと思う(最近は、めったなことで導火線に火がつかないので、ほう、そうきたか、みたいな顔して聞いてしまった。
なんにせよ、終わり方、シメかたをいい感じにできる人って、ステキだな。それでは、みなさん、ごきげんよう。
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