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2011年の紀伊半島大水害から学ぶ<森と大地>崩壊地を歩く/後誠介先生 開催レポート

みなさん、こんにちは。熊野出身・淡路島在住のファシリテーター、青木マーキーです。友人の三浦豊とやっている「みんなの森のサロン」では、毎月1回ゲストをお招きしての特別会「森の日」を開催しています。今回のゲストは、地質学に詳しい後誠介さん(和歌山大学災害科学レジリエンス共創センター・客員教授)でした。実は、後先生、僕の高校の時の理科の先生なんです。愛情深くもけっこう厳しい先生だったので、ちょっぴり緊張しながらのスタート。「森と大地 崩壊地を歩く」というテーマでお話しを頂きました。冒頭、挨拶も早々に先生からはこんな投げかけが、、

この丸い石は何だと思いますか?

山中に突如現れたこの丸くてでかい石の正体は?

のっけから「この丸い石は何だと思いますか?」という問いかけからのスタート。そういえば授業中もよく「これ、何だと思う?」とか「これはどういうコトか?」と生徒に考える機会を下さる先生でした。
写真を見たところ、やたらでかい丸い石が、山中にころがっています。通常、石というのは川の上流で角張っていて、下流に下るにつれて丸くなる。でも、そのわりには、この石は大きすぎるし、周辺にこのサイズの石がごろごろあるわけではないし、まわりは山。しかも場所は熊野参詣道(いわゆる熊野古道)のある峠のようです。うーん、なんだろう?と悩んでいると三浦さんが「火成岩」と答えました。おー、三浦さん、詳しいのか?

大地の成り立ちを知る

基本的に、私たちが暮らす大地の地質は2種類と考えられていました。熱いマグマが冷えて固まった火成岩と、層状に堆積してできた堆積岩(それに火成岩・堆積岩が変成した変成岩)。しかし1990年代ごろ「放散虫」という海洋生物プランクトンの化石を分析する技術が発達して、より詳しく地質の年代特定ができるようになります(放散虫革命)。

すると、堆積岩には正常堆積岩と付加体があることがはっきりしてきたそうです。付加体というのは、素人の僕が解説するのは、ちょいと難しいのですが、海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込むときにできる地質のこと。海洋プレートが沈み込むとき海底にある地層が大陸プレートに付加されながら、激しく変形を受けてできる地質のようです。このウィキペディアの画像の黄土色っぽいあたり。

で、日本で土砂災害が起きるとき、それが火成岩のところで起きているのか、付加体のところで起きているのか。大地の成り立ちが違うと、土砂災害の規模や性質が全然違ってくる、というお話しでした。うーん、なんだかすごいぞ。

2011年の紀伊半島大水害

後先生は熊野の那智勝浦町が出身です。那智町と勝浦町が合併してできた那智勝浦町の那智エリアで生まれ育ったとのこと。(うちの実家から車で15分ぐらいのところ)。2011年の東日本大震災の約半年後に、熊野で大雨が降り続いて大水害が起きました。後先生の出身地、那智をはじめ、紀伊半島全般で大水害が起きて、たくさんの人が亡くなったのです。この水害のあと、後先生たちは、土木の専門家や、地質の専門家、地盤工学の専門家や、地質コンサルタントの方々と合同調査団をつくり、なぜ・どのように、このような水害が起きたのかを調査しました。そのときに「へぇ、付加体ってあるんだ」ということが、各分野の専門家に共有されたと言います。放散虫革命は比較的最近に起きたことなので、地質の専門家以外はあまり知らない知識だったそうです。大災害の後の合同調査で、分野を超えた知見が深まるシーンですね。

大規模崩壊地を歩き、調査する後先生とその仲間たち。人が小さく見えるスケールに驚く

後先生は、実際に崩壊地を歩き、自身で写真をとったり調査をすすめた様子を教えてくれました。すると、2011年に起きた土砂災害において、共通すること、共通しないことが見えて来たのです。共通するのは、どの土砂災害にも「自治体からの避難指示・避難勧告が発令されなかった」ということ。つまり、住民としては、集落ごと飲み込むような土石流や大規模崩壊の発生を、予測し避難することは困難だったということになります。
共通しないことは、崩壊が北斜面で起きたり、南斜面で起きたり、累積降水量が多いのに土砂災害が比較的少ない地域があったりしたこと。このあたりの詳しい話はとても面白く、どんどん引き込まれてゆきます。実は災害が起きるかどうかは、私たちが暮らしている大地の地質も大きく関与しているのです。とても有意義で、面白い内容だったので、関心ある人は、ぜひアーカイブを購入して見ていただくか、以下の書籍を手にとってください。災害大国・日本に住まうすべての方にお届けしたい内容になっています。

豪雨災害を大地の成り立ちから読み解く後先生の最新作

土砂災害は人工林の手入れ不足のせい?

よくニュースとかで土砂災害が起きたあとに「日本は人工林が多すぎる」「手入れ不足の人工林は保水力が足りないから土砂くずれが起きた」「森の木を切りすぎたからだ」など、と言われますが、後先生の解説を聞くと、それは浅い知識で言ってたんだな、ということがわかります。火成岩のエリアで起きた土石流も、付加体のエリアで起きた深層崩壊も、木々の根っこの届かないもっと深いエリアの話だったのです。熊野では60年ごとに大水害が起きてきた歴史があったそうです。明治22年の大水害のころは、地形図も地質図もないころだったので、人々は絵図や言い伝えを残したそうです。そのときに「木を切りすぎてはいけない、うんぬん」の話が残りました。次の大水害は昭和28年に起きたそうです。このときは地形図ができあがってきてたころ。そして最近の大水害は平成23年。地質学の進歩により、地形図も、地質図も、気象統計もそろってきた時代に、ようやく土砂災害のメカニズムがだんだん明らかになってきた。土砂災害は昔からある現象ですが、解明されるようになってきたのは最近のことなんですね。このあたりも踏まえて、気象庁では土砂災害警戒情報 キキクル というのを出すようになってきました。みなさんの地域で雨が多いな、と思ったら、ぜひこれを開いてみてください。自分が住むエリアの土砂災害リスクが高まっているかどうか、見えるようになっています。

後先生曰く、気象庁はこういう情報を出すが、それを受けて避難指示や避難勧告を出すのは自治体のしごと。なので、自治体担当者の土砂災害に対する理解がすすむと、より住民を適切に守ることができる、とのことです。河川水害は、見た目に水位が増えたり減ったりして、危機感も伝わりやすく把握しやすいのですが、土砂災害は、その土地の地質や累積雨量などで、複雑に条件がからみ、ちょっとわかりにくいところがあるようです。ただ、人が亡くなるリスクは土砂災害のほうが大きいときもあるので、今回のアーカイブ、皆さんがお住まいの自治体職員さんにもぜひ見ていただきたいところです。(アーカイブ購入はこちらから


当日の板書はこちら。内容が濃かったので1/3も書けてないが、マグマのような興奮はあった

熊野ジオツアーをやりたくなった

30年ぶりに後先生のお話を聞いて、僕はいたく感銘を受けました。高校生のころは想像が及ばなかった社会の事象や災害について、この年になって聞くことで、ぐんと体に入ってくるものがあります。久しぶりにお話し聞けて、本当によかったなぁ。みなさんも、きっと恩師と呼べる方がいらっしゃると思いますが、ときどきこうやって再び話を聞くのもあり、だと思いますよ。とても感慨深いし、学びも深いです。

そして、2011年の紀伊半島大水害から僕のライフワークにしている「熊野を案内するツアー」で、いつか後先生をゲストに「熊野の地質を味わうジオツアー」をやってみたいと思います。なぜ、熊野の那智の滝は日本一の高さのある滝になったのか、本宮大社が川の中洲にあったのはなぜか、速玉大社の元宮である神倉神社にあるご神体の大きな岩の正体は何か、などなど、大地の成り立ちの視点から、たっぷりお話しを伺えそうです。あぁ、話題になっていたフェニックス褶曲も見てみたいなぁ。南紀熊野ジオパークの人気スポットらしい。後先生、熊野ジオツアー、ぜひよろしくお願いします。(開催されるなら私も参加したい!という方、ご連絡ください。日程あわせて開催しましょう)。後日談、以下、開催決定しました。


大地のパワーを受けているためか若々しさが増している印象の後誠介先生

地質のことをもっと学ぼう!

これまであまりピンときてなかった地質のこと、大地の成り立ちについて、もっと詳しく学んでみたくなりました。すると先生からは「シームレス地質図」というサイトを見てみるといいよ、とヒントが。

このサイトで、自分が住んでいるエリアを見てみるとかなり詳しく知ることができます。僕が住んでいる淡路島の南東エリアは基本、堆積岩だけれど、すぐ近くの雁子岬のところだけ火成岩だということがわかりました。あと洲本のあの山は火成岩なんだな。近所の小学生が化石掘りに行きたいとかいってたので、これとにらめっこして探してみようと思います。

カーソルをあわせると自分の住むエリアの地質を詳しく教えてくれる。一度見ておくといい

私たちが森を見るとき(あるいは世の中を見るときもそうですが)。どうしても表層ばかりに目が行きがちです。しかし、その足下、さらにその地下や成り立ちを深く見てみると、なぜ、このような地形ができているのか、なぜあのエリアに災害が多いのか、なぜこのような事象が起きているのか、ということが俯瞰できそうな予感。

地質学について詳しい方、オススメの本やサイト、団体があれば、ぜひ教えてください。僕はこの年齢になって、高校時代より学びたいという気持ちが強くなっています。あぁ学ぶのって楽しいな。

※みんなの森のサロンでは4年目のシーズン4をご一緒くださる会員さんを広く募集しています。年会費も1万円と格段にお安くなって(昨年までは28000円でした)、かつ過去のアーカイブも見放題となっています。森のことは、いくら掘っても、楽しい話題が多く、いっこうに飽きません。この文章をごらんのあなたも、いっしょに学びませんか。森を旅する仲間になってくれるととても嬉しいです。

それではみなさま、ごきげにょう。足下の地質にも、地上の森の生きものたちにも親しみつつ、よき夏をお過ごしください。


思えばこの美しい滝も地質のなせる空間なのだ。もっと知りたくなるなぁ!

追記:台風がせまってますね。つい先ほど、和歌山県串本町に上陸したみたいです。文中にある災害情報などをチェックして、どうぞ皆さんご無事でいてください。

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