変わる就活とAO・推薦の関係:前編【米国の巨大教育カンファレンスNACACに学ぶ】
こんにちは。青木唯有(あおき ゆう)です。
日本アクティブラーニング協会理事およびAO・推薦入試オンラインサロンナビゲーターを務めています。
数年前に、AO・推薦入試の合格者は就職活動に不利という話があちこちに出回りました。
AO・推薦受験者がラクをして合格しているという事実や根拠はありませんが、その真偽は別として、基礎学力が足りないという印象や、受験勉強の苦労を味わっていない分ストレス耐性が弱いというマイナスイメージが原因のようです。
ところが、最近ではそうしたネガティブなイメージが一変しています。
むしろ、AO・推薦で入学した学生の方が入学後の成績が高いというデータを、大学関係者が主張するほどです。
そもそも、AO・推薦入試は就職活動と似ています。
一日限りのペーパーテストでの選考ではなく、エントリーシートや面接、ディスカッションなど、会社が欲しい人財を長期にわたり複数のプロセスで見極めようとする点が、両者重なるのです。
昭和バブルのような、大量の人口で溢れかえり、より便利なものを大量に生産することで、大きな経済効果が得られるような単純な社会モデルが通用しない時代が今です。
すでに物や情報が溢れかえっているにも関わらず、人口の大幅な減少が予測される日本の国内マーケットはもはや頭打ちです。
かといって、国外需要をどれだけ獲得できるかといった、マーケットの矛先を世界全体に向けた競争と拡大を繰り返す戦略にも限界が見えはじめています。
つまり、大量生産や、市場規模の成長と拡大という戦略だけでは、企業が希望を持てない時代なのです。
ゆえに、言われたことを忠実に再現する人財よりも、新しい価値を生み出せる資質や、人とは異なる尖った個性を有する人財が、社会ではより必要とされてきているのでしょう。
ところが、年に一回のペーパーテストに対応するための受験勉強に固執すればするほど、正解以上の「別解」を出すような訓練は疎かになり、もともと尖った個性があったとしてもそれが削られてしまう・・・、そんな受験システム自体が、実社会の要請に合わなくなってしまった・・・。
大学受験がAO・推薦入試という形をとって、より就職試験化しているのは、そうした社会とのギャップがあるからだと思います。
ところが、選抜の形式だけをいくら変えたとしても、問題の解決はそう簡単ではないでしょう。
それは、日本の大学では、「人財を採用するための知見」がとても未熟だと考えられるからです。
例えば、アメリカの大学入試は、大学教員(教授)は原則として選抜に関与しません。各大学が、アドミッションオフィサーと呼ばれる人財採用のプロを集めた部署を有しています。
このアドミッションオフィサーは、入学者選考と大学広報に関わる業務のみを行う専門職です。企業でいうと、いわゆる人事部と広報部が一体となった部署のようなイメージです。
そして、彼らが果たす枠割は極めて重大です。
「書類審査」がメインのアメリカの大学入試では、その一つ一つを丹念に検証することから合否の判断まで、すべて彼らの権限で行われます。
さらに、こうしたアドミッションオフィサーの責務を支える、重要な機能を果たしているのが、NACAC(National Association for College Admission Counseling:全米大学アドミッション・ カウンセリング協会)の存在です。
この団体が、アドミッション・オフィサーたちの活動を可能にしているといっても過言ではありません。
NACACとは、全米の大学のアドミッション・オフィサーと高校のガイダンスカウンセラー、独立系教育コンサルタントなどが加盟する教育専門職団体のことです。
この団体は、高校と大学の接続に関わる専門家集団として、アメリカの大学における入学者選抜のルールを決めています。そして、多くの大学がそのルールに則って選抜を行い、同様に高校側もルールに則って進路指導を行っているのです。
送り出す側の高校と迎え入れる側の大学の当事者同士が同じコミュニティを形成し、生徒の育成や採用に関する規定を定め、それぞれの力量を高める研修を行いながら相互理解を深めているからこそ、「書類審査」が中心のアメリカの大学受験に必須の「成績証明書」や「推薦状」の信頼性も増しますし、入学者の「合否判断」という極めて大きな権限がアドミッションオフィサーに付与できるわけです。
NACACのような、それぞれの立場を超えて、見解を共有し統合するための土壌が、残念ながら今までの日本には存在しませんでした。
ですが、大学のAO・推薦入試と企業の就職試験が、「社会に送り出す人財を育成する」世界観で合致し結ばれれば、また新しい潮流が見えてくるのではという期待もあります。
(中編につづく)
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