AO・推薦入試“合格者”と“不合格者”のそれぞれの行く末 :中編【競争とは異なる原理】
そもそも、受験は競争。
勝つか負けるか、戦争のようなもの。
教育業界の出口のあり方は、少なからずそのような認識があることと思います。「受験による合否」という結果が「勝ち負け」という概念に置き換わり、優劣を争う競争という価値観として無意識のうちに浸透しているのでしょう。
そして、「合格」と「不合格」のいずれかの結果しか出ない点においては、現在大学受験の方式が様々に変化しているとは言え、AO・推薦入試だろうが一般入試だろうが変わることはありません。
とは言え、AO・推薦入試における「競争」には、一般入試とは異なる別の原理が働いています。
なぜなら、前回記事で示した通りAO・推薦入試における合格者は女子生徒の割合が男子生徒よりも明らかに多い傾向があり、こうした女性優位の世界観は一般入試ではほぼ見られないからです。
このようなAO・推薦入試の独特なメカニズムを検証するために、「競争に対する態度」における男女の意識差を検証したスタンフォード大学による経済実験の結果に注目してみましょう。
この実験によると、
「男性の方が競争的環境でより能力を発揮しやすい」
というデータが示されています。
さらに、「競争的環境に身を置くかどうか」についての調査では、
「男性は競争的環境を選ぶものの、女性は選ばない」
という結果になるそうです。
実は、こうした男性と女性の「競争に対する選好の違い」が、実社会における男女格差に繋がっているのではないかと分析している専門家もいます。
また、ちょうど先日、世界各国における「女性役員比率の推移」が新聞に掲載されていました。
記事によると日本は、2006年の1.2%から2019年に5.2%となっています。
日本企業での女性の活躍度は上昇傾向にある・・・?
とんでもありません。
他国における女性役員比率は、オーストラリア31.3%、イギリス32.6%、ドイツ35.6%となっており、フランス、アイスランド、ノルウェーに至ってはなんと40%を超えています。
女性役員比率が5.2%という日本企業の現状は、世界の中で際立って低いことがわかります。
ところが、他国の女性役員比率が高いといっても、それは国が定めた厳格な規制によって維持されている数値であり、どうやら企業内のナチュラルなシステムによるものではないようです。
前述の経済実験の結果が示す通り、企業に入社してからトーナメント式に役職が上がっていく図式の根本は、いわゆる「競争原理」に支えられているものです。
つまり、大きな組織の中で勝ち上がっていくようなキャリアシステム自体が、そもそも女性の嗜好性に合わないのかもしれません。
ということは、女性の方が有利になるAO・推薦入試には、女性の嗜好性に適合した「新しい競争原理」があるはずです。
そのヒントになるのは、起業家にまつわる統計です。
データをみると、女性起業家の増加率が毎年着々と伸びています。
注目すべきは、女性の中で「起業を希望する層」が増えていると同時に、男性よりも女性の方が「起業希望者の割合より実際に起業した割合のほうが高い」という傾向があるそうです。起業の夢を、単なる空想に終わらせずに本当に実行する女性が多いということです。
組織の中における出世競争には消極的だけれど、自分で独立して事業を立ち上げることには積極的であるという女性の嗜好性は、「自立」を目指し「自分の独自性」を磨く必要のあるAO・推薦入試の傾向性とシンクロします。それが、女性の合格率の高さに影響しているように思います。
さて、ここからは、私の経験上の個人的な感覚で、統計資料やデータに裏付けられたものではないのですが、実は、AO・推薦入試においては、合格者も不合格者も共通して、その後、起業したり独立した活動に勤しんだりするケースが、非常に多いのです。
大学在学中に事業を立ち上げる事例も多くあります。
また、AO・推薦入試の準備中に知り合った仲間同志が、受験期間中に起業する相談を進めていて、受験終了後すぐにビジネスを立ち上げたというケースもあります。その仲間同士のなかには、合格者も不合格者も混在しています。
仲間と同じ大学や学部の受験に挑戦して合否が別れた場合、合格者は不合格の友人に対して気まずく思ったり、逆に不合格だと多少なりとも気持ちが腐ったりする気がしますが、彼らは一様に驚くほど清々しいのです。
これは一体、なぜなのでしょう・・・?
(後編につづく)