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俺、水飲むの趣味だわ。(ウエノスケシタノスケ デザインのひみつ)
「俺、水飲むの趣味だわ。」
2022年6月。
TENTとザリガニワークス、そしてサカエ工業がコラボレーションして水を飲むための道具が生まれました。
その名も『ウエノスケ シタノスケ』。
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今回は、その開発エピソードについて、メンバーみんなでお話していきたいと思います。
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TENTアオキ
こんにちは、よろしくお願いします。
サカエ工業
池添(いけぞえ)さん
遠路はるばるお越しいただきありがとうございます。よろしくお願いします。
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サカエ工業の社員さんが手入れしている
ザリガニワークス
武笠(むかさ)さん 坂本(さかもと)さん
よろしくお願いします。
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1.ちゃんと作れる人たちと
アオキ
まずは、サカエ工業さんはどんな会社なのか教えていただけますか?
池添さん
そうですね。創業50年になる会社で、透明なプラスチック部品の成形が得意な工場です。
受託のお仕事としては、大手メーカーの冷蔵庫の中にある大きめな部品を数多く生産しています。
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アオキ
たしかに冷蔵庫の棚板とかって透明なものが多いですね。ちなみにザリガニワークスさんとの関係はどう始まったんですか?
池添さん
サカエ工業の自社商品としてスマイルオープナーというペットボトルの蓋を開けやすくする商品を販売してまして。
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池添さん
こういった自社商品を今後増やしていくために協業するクリエイターさんを探して出会ったのが、ザリガニワークスさんでした。
武笠さん
最初は何をやるかが決まっていない状態でしたね。透明の成形が得意だということだったので、たくさんの企画提案をさせていただいて。
その中で選ばれたのが『BEERMUG FOR KIDS』という商品です。
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アオキ
こどもだって「ぐびぐび…ぷはーっ!」したい!
というやつですね。
いわゆるビールジョッキを子どもサイズにした樹脂製のマグカップ。実はうちの子どもたちも毎日使ってます。
坂本さん
このビアマグが好調ということで、そこからカクテルグラス、ロックグラスと追加されて。子ども用グラス三部作が完成しました。
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坂本さん
そこからですね。「次は、何をしよっか」って話になって。
池添さん
やっぱり1点2点って商品を出すんじゃなくて、自社商品をやるからにはある程度ラインナップを揃えていきたいじゃないですか。
だから商品企画だけじゃなくて、これからのサカエ工業をどうしていこうかという相談をザリガニワークスさんにお願いしたんです。その中で。
武笠さん
そうですね。「TENTさん、イケてますよ」って。
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右:池添さん
武笠さん
正直その時点では具体的なイメージはなくて。僕らがただ「TENTさんと何か作りたい」っていう気持ちが大きかったんですけどね。
坂本さん
子ども用グラスシリーズって「おもしろ食器シリーズ」というか、ある程度エンターテイメントとして勢いで行けてしまう部分があると思うんですけど
サカエ工業さんは「プラスチック食器を使うこれからの暮らしの提案」っていうのをやっていけるといいなと思ったんです。
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坂本さん
そうすると、ちゃんと作れる人たちと手を組みたいなと。僕らから見ると、TENTさんのシュッとしたところを拝借できるとありがたいなと思ってました。
2.日常の行動の趣味化
アオキ
僕は家でビアマグにお世話になってたので「ぜひぜひ!面白そう」と思いました。ただ「大人用のちゃんとしたコップを作りたい」っていう感じで声がけいただいたので、どうしようかなとも思いました。
ハルタ
そうですね、世の中に数多の樹脂製コップがある中で、ただシュッとしたコップを作るというのも悩ましくて。まずはザリガニワークスさんとブレインストーミング(アイデア出し会議)から始めることにしましたよね。
ケンケン
「大人用コップ」よりももっと手前の、透明素材で何かできないかというところで、まずはたくさんのアイデアを出しましたね。
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武笠さん
その最初のブレインストーミングの時の雑談で、僕の弟の話をしたんです。
彼が読んでいた漫画に「俺の趣味って 水を飲むこと じゃん」って一言が出てきてハっとしたと。「あれって趣味になるんだ…」ってとても共感したらしくて。
坂本さん
その話から、日常の行動の趣味化みたいなことがテーマになっていったんだよね。
武笠さん
たとえば「水を飲みましょう」っていうと「健康のために、美容のために」とか「1日1.5Lは飲むべき」とか、そっちに行きがちじゃないですか。
それをもっと自然に楽しくなるように、積極的にプロダクトで解決していくのはどうかな?って。
アオキ
そこからまず生まれたアイデアが、国際サミットのときに使われているような「カラフェ」の小さなやつを作ろうというプラン。
なんか政治家の机にある感じの、変に大人っぽいっていうか、ちょっと憧れちゃう昭和感。あれを現代にアレンジできないかって話になりましたね。
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3.そういうこともあるんじゃない
ハルタ
カラフェの図面、試作。本当にたくさん作りましたよね。でも樹脂で作ると構造がどんどん複雑になっちゃうってことがわかってきて。
坂本さん
密封させるのかさせないのか。ネジ式のフタはつけるのかつけないのかとか、大げさなことばっかり考えちゃってましたね。
アオキ
そうしてたくさんのカラフェの試作ができた段階で、僕たちTENTのほうから「すみません、カラフェは、やめましょう」って、おっかなびっくりお願いしました。
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武笠さん
その旨を僕から池添さんに伝えたら「いいですよー」って。
「じゃあ次の提案待ってます」って、あっさり。
アオキ
仕切り直しを受け入れてもらえて、本当にありがたかったです。
池添さん
まあ、そういうこともあるんじゃないですか。無理矢理突き進むよりもねえ。モノづくりなんて、全部うまくいくわけがないって思ってるんで。
アオキ
そこからまたTENT内でゼロベースでアイデア出しをして。行き着いたのが、その時は「シャーレ」と呼んでいたプランでした。
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坂本さん
これ見た時に、一瞬で「すごいな!」って思いましたよ。
TENTさんは「ゼロベースで考え直した」って言ってるけど、これ結果的に「めちゃくちゃカラフェじゃん!鮮やかな回答が出てるじゃん!」って思いました。
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坂本さん
ここまで存在を軽くできたら、ネジがどうとか密閉するかとか気にしなくて良い。それがすげえ格好良いと思ったんですよね。
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4.しれっとトリプルミーニング
アオキ
たしかその時にネーミングも考えましたよね。
「ザリガニワークスさんだったらこれにどんな名前つけます?」って。
坂本さん
タロウちゃん(武笠さん)が「うーん、うえのすけ、したのすけ、とか?」って雑に即答して。
武笠さん
タネさん(坂本さん)は名前っぽいの好きだからウケるかなーと思って、雑に口に出してみただけだったんですけどね。
そしたらアオキさんが気に入っちゃったみたいで。
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アオキ
だって、上の「スケ」下の「スケ」ですよ!
「透け」だし「スケルトン」でもあるし。
上と下で水を守ってるし。
武笠さん
さりげなくトリプルミーニングを達成してますからね。
ハルタ
やっぱ、すごいっすね。どうかしてる。
アオキ
それまでただのプロダクトだったものが「うえのすけ、したのすけ」って呼ぶだけで愛着が湧く感じがして。
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アオキ
僕としては、このネーミングが決まったことでザリガニワークスさんとコラボレーションできた納得感が生まれました。
武笠さん
ウチとしては、いつものノリで言っちゃっただけだから。TENTさんのプロダクトみたいにもうちょっとシュッとした名前で行きたいとも思ったんですけど。
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アオキ
いや『ウエノスケ シタノスケ』最高じゃないですか。
坂本さん
当時もそんなやりとりをずっとしてたよね。TENTとザリガニワークス、愛し合うあまりのすれ違い。
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5.地道に1個1個磨いただけ
アオキ
形状とネーミングが決まったわけですけど、そこから製造についてすごくやりとりが多かったように記憶してます。
ケンケン
底の厚肉の部分ですよね。樹脂って普通は均等な厚さで設計するのがセオリーなんですけど、ウエノスケ シタノスケは底の部分がすごい肉厚になっていて。
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ケンケン
ここの実現で、サカエ工業さんがたくさんの検討をされてました。
池添さん
普通はこういう感じでダイレクトゲートっていって、太い入り口から樹脂を流し込むんです。
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池添さん
でもウエノスケ シタノスケ ではピンゲートって言って、細いゲートから流し込んでいる。これが非常に難易度が高くって。
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池添さん
底の部分の断面は何度も図面を修正してもらって、実際の金型に樹脂を流し込んで何度も試験しました。
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ケンケン
結果的に、光の歪みがすっごく魅力的になったので気に入ってます。
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ハルタ
レンズ効果が出てて、水っぽいというか、すごい綺麗だよね。
アオキ
綺麗と言えば、いちばん驚いたのは、ピンゲートの跡が消えていること。
普通は樹脂って、人間でいう「おへそ」みたいな感じで樹脂を流し込んだ入り口が絶対にどこかにあるんです。
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アオキ
でも ウエノスケ シタノスケ は360度どこからみても光沢。ゲート跡が全く存在しない。
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アオキ
それで池添さんに「これ、どうやってやったんですか?」って聞いたら
池添さん
手で地道に磨いただけですよ。
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アオキ
すごくないですか?
プラスチックの成形って、1000個とか大量にバババーって作ってるイメージあるじゃないですか。
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アオキ
それを、ウエノスケ シタノスケは、1個1個、丁寧に手で磨いてるんですよ。
こんな感じで
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ケンケン
職人技ですよね。
池添さん
みんな安く手間なく作ろうとしてその常識にとらわれてしまってる。本当はプラスチックだからチープなんじゃなくて。安い方法で作るからチープになってるんです。
プラスチックは非常に高機能な優れた素材ですから、魅力を引き出すための努力はすべき。
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池添さん
単に工場としての効率を考えるんじゃなくて、暮らしの中で長く使いたくなる良いものを作ろうと考えたら、こういう手間暇も大切だと思うんです。
ケンケン
さっきお話しした、厚肉な部分と薄肉な部分がある形状にもあえてトライするというのも、そのあたりの考えからなんですか?
池添さん
そうですね。うちは樹脂の成形をシミュレーションできるシステムも整えているので、効率良く成形できるように形状を変更するのは簡単なんです。
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池添さん
でもそんなことばっかりしてたら他と同じものしか作れない。日本の、ここサカエ工業だからできることに挑戦していかないとね。
6.歴史を変えるキーマンとなる
武笠さん
池添さんはいつもこうなんです。僕たちが言ったことを本当に実現してくれる。だからデザイナーとしては逃げ場がない状態なんです。
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坂本さん
だからこそ僕たちは、ちゃんと意志を持って「これがやりたい」を貫かないといけない。いっさい言い訳できないから。
武笠さん
サカエ工業さんはそんな感じで現状のモノづくりにアンチを唱える、勢いのある工場なんですけど、僕らから見るとTENTさんも、今までの流れに逆らう動きをしているプロダクトデザイナーだと思ってて。
アオキ
恐縮です。
武笠さん
その両者が出会うべくして出会って、ウエノスケ シタノスケができたっていうのが、プラスチックの歴史から見てもすごいことなんじゃないかなって。
坂本さん
そこで、両社を繋いだ重要なキーマンとなったのが弊社、ザリガニワークスであった、ということですね。
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7.愛でたくなる水滴のような曲面
アオキ
ちなみに、完成した『ウエノスケ シタノスケ』を使ってみて、思うこととかありますか?
ハルタ
さいきん猫を飼い始めたので猫アレルギーのお薬を毎日飲むようにしているんですけど、朝起きて薬を飲む時、朝食の時、ちょいちょい飲むためにフタのあるこの構造が役に立ってます。
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武笠さん
うちは四人家族なんですけど、テーブルの上にいつも2セット置いてあるんです。普通のコップだと、伏せて置くと飲み口がテーブルにあたっちゃうじゃないですか。
でもウエノスケ シタノスケだと、どこも飲み口に接触しない。置いておいた佇まいも置物みたいでかわいくって、気に入ってます。
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アオキ
僕は仕事中ずーっと使ってます。手元に水を携えておくための道具として最高だなと毎日思ってます。
あと、打ち合わせのときなんか、このご時世だから会話での飛沫とか気になるじゃないですか。ウエノスケ シタノスケはカプセルのように水を守るので安心できますよ。
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ハルタ
このカプセルみたいにしたときの、上面の丸さ。ここがすごく綺麗なんですよね。こう、愛でたくなる。
アオキ
水滴みたいで、水が本当に美味しそうに見えますよね。
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8.実質、無限大
アオキ
最後にこれを読んでくれている方に伝えたいことはありますか?
坂本さん
ウエノスケ シタノスケって、コップの概念を捨てたコップなんですよね。手にして使ってみると「すげーいい!」てなるんだけど、なんとも伝えづらさがある。
コップでありカラフェであり、水を飲むのにはもちろん最高なんだけど、それだけじゃない。
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坂本さん
2つのコップだからできる使い方を、僕たちもいろいろ写真も撮りましたけど、まだまだあれだけじゃない気がしてて。
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武笠さん
可能性は、実質、無限大ですからね。
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アオキ
実質、、、!
坂本さん
そんな感じで、ウエノスケ シタノスケだからこそ楽しめる使い方なんかも、皆さんと一緒に開拓していけると嬉しいなと思います。
アオキ
今日はありがとうございました!
全員
ありがとうございました!!
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サカエ工業さんの丁寧な製造の様子は、こちらからご覧ください。
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