STAN.デザインのひみつ(そもそもの始まり編)
2019年2月1日。
象印マホービン株式会社から新しい家電シリーズが発表されました。
シリーズ名はSTAN.(スタン)。
この新シリーズのデザインとクリエイティブディレクションは、僕たちTENTと象印さんとのコラボレーション体制で行われました。
この記事「STAN.デザインのひみつ」では、象印マホービン株式会社の堀本さんを迎えて、デザインの意図や開発エピソードなどをお話します。
コラボレーションの歴史
TENT青木 さて、STAN.についてお話する前に。象印マホービン株式会社の1階にある「まほうびん記念館」へお邪魔しています。
TENT青木 まずは象印さんの歴史の中で、とくに社外のデザイナーさんとのコラボレーションなどについてお話を伺いたいと思います。
TENT治田 どうもこんにちは、お邪魔します。
堀本さん こんにちは。よろしくお願いします。
堀本光則さん
象印マホービン株式会社 デザイン室長
TENT治田 「まほうびん記念館」というだけあって、たくさんのまほうびんが展示されていますね。
堀本さん そうですね。弊社の製品に限らず、他社さんのまほうびんも展示されています。
TENT青木 この辺り、懐かしいですね、花柄のポット。
堀本さん 時代的には公団住宅ができた頃です。公団住宅って、それまでの日本家屋と比べたら殺風景じゃないですか。そこに、卓上に飾る一輪の花のようなイメージで出てきたのが花柄のポット。
TENT青木 僕の世代で言えば、お婆ちゃんの家といえばこれ、というくらい、どこでも見かけました。
堀本さん 同じ柄でコーディネートした茶器とまほうびんのセットを作ったりとか、花柄やカラーのシリーズものを色々とやっていたんですよね。実はシリーズものが好きな会社なんですよ。
TENT治田 これは炊飯ジャーですか?
堀本さん これは炊飯機能がない、保温だけの電子ジャーですね。ここから家電事業が始まりました。
当時はなんで魔法瓶屋が家電事業やるのかってことで、いろいろあったと思うんですけど、これが爆発的にヒットして会社が大きくなったんです。
TENT青木 これ実家で使ってました!かき氷器。
堀本さん これも「このかき氷器でビルが建った」とかとか、いろいろ伝説があるんですが、どこまで本当かはわかりません。
堀本さん ここで海外のデザイナーとのコラボレーション第1弾ということで。ファッションデザイナーのピエールカルダン氏とのコラボレーションがありました。1977年、DCブランドとかが出始めて、ファッションが日常にどんどん入ってきた時代のことですね。
TENT青木 なるほど、確かに横に並んでいるポットと比べると、かなりモダンというか、シンプルというか。今見てもそれほど古く感じないデザインですね。
TENT青木 あ!この電気鍋、実家で使ってました!おでんの味が蘇る。
TENT青木 そして、これは!!タフボーイじゃないですか。僕たちの世代だと、部活の時にはみんなこれ持ってましたよ。
堀本さん この時代にイノベーションが起きて、まほうびんがガラスからステンレスに変わった時期ですね。
TENT治田 これは見たことがありますよ。最初に務めた事務所でこのポットを使っていました。
堀本さん こちらはマリオベリーニさんとのコラボレーション。この時代もまだ僕は入社してなかったんですけどね。
堀本さん D’というシリーズ名でね。電気エアーポットと炊飯ジャー、数年後に電動ポットを出してます。
TENT青木 このZUTTOシリーズは、当時デザイン系の学生だった僕としてはかなり印象的でした。
堀本さん 2004年に発売した、柴田文江さんとのコラボレーション。最初は炊飯ジャーだけ発売して、半年後に、電動ポット、コーヒーメーカー、その2年後にポップアップトースターとシリーズが続いていきました。
堀本さん こちらは喜多俊之さんとのコラボレーションで作った、マイコン炊飯ジャー。世界統一コンセプトとして開発された商品です。
堀本さん こちらは同じく喜多俊之さんデザインの電気ケトルです。
TENT青木 なるほど。本当に様々なデザイナーさんとコラボレーションされていたんですね。
堀本さん 時代時代で、いろいろな方と一緒にお仕事させてもらってますね。
TENT治田 ゾウさんのマークにも、変遷があるんですね。
堀本さん 我々は通称「ペットマーク」と呼んでます。今使われているのは2009年から始まったシンボルマークです。
TENT治田 ゾウさんのモチーフが約100年も使われ続けているんですね。どの時代のマークも、愛嬌があって良いですよね。
TENT治田 STAN.のプロジェクトが始まる前にこの部屋をザーッと見させていただいて、この歴史にプレッシャーを感じましたよね。
TENT青木 そうですね。名だたるデザイナーの方々がコラボレーションされている中で、僕たちTENTにできることはなんだろうって、悩ましかったのをよく覚えています。
ー100年以上の歴史の中で、様々なデザイナーさんとコラボレーションしてきた象印マホービン株式会社。
僕たちTENTは、そんな象印さんと、どのような縁でコラボレーションすることになったのか。
次の章では、そのきっかけについて、お話していきます。
始まりと出会い
TENT青木 前の章では、本社1階の「まほうびん記念館」にて、象印さんの100年の歴史と、外部のデザイナーさんとの歴代コラボレーション製品について拝見させていただきました。
今回は、いよいよTENTがコラボレーションしたSTAN.(スタン)について話そうと思うのですが、まずは今日お話するメンバーの挨拶から。
私はTENTの共同代表 兼 デザイナー、青木(アオキ)です。
TENT治田 同じくTENTの共同代表 兼 デザイナー、治田(ハルタ)です。
TENT治田 STAN.のプロジェクトでは、青木とともにTENTとして、プロダクトデザインからスタートし、最終的にはシリーズのクリエイティブディレクションなどを担当させていただきました。
堀本さん 象印マホービン株式会社 デザイン室長の堀本(ホリモト)です。STAN.のプロジェクトでは、TENTさんと弊社との主な窓口となり、様々なやりとりや全体の取りまとめを行いました。
堀本さん 本当はデザイン室の中で、それぞれの製品に対して社内のデザイン担当者がおりまして、彼女たちがお話する方法もあるとは思ったのですが、今日は代表者として私がお話させていただきます。
種市さん FLATROOMの種市(タネイチ)です。今回は、アートディレクターとグラフィックデザイナーとして関わらせていただいたんですけど、わかりやすく言うと、STAN.シリーズ全体の雰囲気づくりを担当しました。
TENT青木 みなさま、よろしくお願いします。
TENT青木 まずは、象印さんの社内で今回のシリーズが企画されるきっかけになった出来事を教えてください。
堀本さん 弊社は2018年に100周年を迎えるというタイミングだったんですけど、当初は特にそのための記念商品を作ろうという話は存在していませんでした。やはり「本業がおろそかになったらいけないのでは」という話もありまして。
堀本さん ただ、とある会議で営業部門の方から「ZUTTOのようにデザインが主導するような形で作られたシリーズ製品が、もし今も製造販売されていたとしたら。
例えば蔦屋家電さんのような新しい形態の、インテリアとの親和性を重視した店舗でも扱ってもらいやすかったのでは」という話は出ていました。
堀本さん そんな中で、弊社の社長から「製品カテゴリーを横断したシリーズを101年目の第一歩に向けて作りたい」という意向が伝えられ2017年に急遽メンバーが召集されました。
TENT治田 なるほど、なかなか突然のことだったんですね。
堀本さん そうですね。ただ、そのおかげで既存のラインナップにとらわれすぎずに考える事ができたと思います。
堀本さん 弊社の製品は、人生のライフサイクルの中で、学生時代には水筒で、結婚以降には調理家電などで馴染みの深いブランドですが、新社会人となってから結婚・出産に至るまでの方とは少し距離を感じていました。
今回のシリーズでは「これからの時代を担う共働き世代・子育て世代の30代をターゲットとして、新しい世代の価値観にあったシリーズを作ろう」という方針でスタートすることになりました。
TENT青木 30代の子育て世代。まさに僕たちはターゲットにはまるわけですね。
TENT治田 なるほど。とはいえ、ターゲット世代のデザイナーと言っても沢山いると思うんですけど、今回はどうしてTENTに声をかけようと思ったんですか?
堀本さん 実はその頃に、ちょうど小さなお子さんを持つ30代の女性社員が中途入社していまして。
彼女に「最近、気になるデザイナーさんいる?」と聞いたら「TENTさんです」と即答されたんです。 しかも前職の会社がTENTさんのオフィスと近かったから、ランチをご一緒したこともあったとか。
TENT青木 はい、たしかに。とくに何と言うわけでもなく、お昼ご飯ご一緒しました。
堀本さん 以前からTENTさんのことは知ってはいたんですけどね。その話をきっかけに、しっかりホームページを見たところ、なかなか面白い人たちなので、まずは会ってみようという話になりました。たしか、すぐにメールと電話もしましたよね。
TENT治田 はい、いきなりのお話だったんでびっくりしたんですけど、堀本さんの名前でWebで検索したら、かつてZUTTOシリーズを社内で担当された方だということがわかったので、これは何か、面白いプロジェクトなんじゃないかとワクワクしました。
TENT青木 ちなみに、声がけいただいた その時点では、今回のプロジェクトをTENTとやることは決定していたのですか?
堀本さん その時点では、他の外部のデザイナーさんの提案などを含めて、その中から良い提案を選ぶという、いわゆるコンペのような形式でスタートしました。その後最初のスケッチでご提案をいただいたのは、最初のインプットから、おおよそ1ヶ月後ですかね。
TENT治田 そうですね。1ヶ月でした。
堀本さん 炊飯ジャーと、その他様々な商品をシリーズという形でご提案いただきました。その時点では詳細な図面や寸法なども存在していなかったので、既存の製品図面から、ざっくりしたデザインイメージということで提案いただいて。
TENT青木 通常はこのような、ざっくりしたデザインイメージから開発が進むことはあるんですか?
堀本さん 弊社では、あまり無いことですね。企画が固まり、仕様が固まり、設計の目処がある程度ついた段階からデザイナーが参加することが多いです。
細かな条件や図面がない段階からスタートしたので、TENTさんには少し苦労をおかけしたかなと思いますが。
TENT治田 いえ、おかげで「あるべき佇まいは何か」というところから考えることができたので、やりやすかったと思います。
堀本さん そして初回の提案の段階で、TENTさんからは4案ほどのシリーズ提案をいただいて。他のデザイナーさんからの案など、様々な案が集まりました。
どの案も本当に魅力的でなかなか結論が出ず、お待たせしてしまいましたね。
TENT青木 たしかに、回答まで数ヶ月の間があったと思います。
堀本さん 結論が出ないのには理由がありまして、それぞれの案が、単純に見た目の良し悪しではないんです。これからの炊飯ジャーとはどうあるべきかの考え方が、それぞれに込められている。
堀本さん 会社として、新シリーズがどういった考えを持った製品にしていきたいかが、なかなか定まりませんでした。
また「新しさ」に対する抵抗もあります。例えば、STAN.に繋がったこの提案に関して言えば、正面から見たら台形の、頭でっかちの形というのは、炊飯ジャーでは昔からタブーとされています。
堀本さん 大きく見えてしまうし、不安定感が出るしという事で。いろいろな意見がありましたが、最終的には、弊社は魔法瓶、つまり容器からスタートした会社ですから。
101年目のシリーズ製品としてTENTさんの(最終的にSTAN.につながる提案である)「うつわのような佇まい」の案は、ふさわしいだろうという結論に至りました。
TENT青木 なるほど。そうして決まったこの案ですが、シリーズ全体を通したプロダクトデザインについて、治田さんに解説いただいて良いですか?
TENT治田 そうですね。
種市さん すみません、いきなり本題と違う話を差し込んで恐縮なんですけど、TENTのお二人は、青木さんと治田さんでは、どのように役割分担しているんですか?
TENT治田 あ、そこから行きますか。僕たちは「藤子不二雄スタイル」と呼んでいるんですけど、どちらがどちらの役割も担える状態が理想だと思っているので、担当領域は同じになるように意識しています。
TENT青木 ただ、アイデアって個人から出ることが多いので、採用されたアイデアのコア部分を出した人が、その後もその製品をメインで担当するという割り振りになるようにはしています。
STAN.で言うなら、様々な案から勝ち抜いたこの「うつわ案」を出したのが治田さんなので、プロダクトのメイン担当は、治田さんが行いました。僕とアシスタントのケンケンさんは、そのサポートをするという役回りです。
左から、治田(ハルタ)、ケンケン、青木(アオキ)
堀本さん そんな役割分担だったんですね、気づかなかった。
TENT治田 とはいえ、明確に担当の線引きをしているわけではないです。実際には打ち合わせには二人とも出席して、全ての情報を共有して、毎日相談しながらやってますし。
TENT青木 今回のSTAN.については、治田さんが主に担当したプロダクトデザインのイメージが全てを牽引しています。
そこに追いかけていく形で、ケンケンさんが図面やモック作成の面でサポート、僕はコンセプトメイキングとかクリエイティブディレクションの面でサポートしたという感じです。
種市さん なるほど、だから今回は、プロダクトデザインについての話だけど、青木さんが治田さんに質問しているんですね。 ではすみません、本題へどうぞ。
TENT青木 それでは治田さん、シリーズ全体のプロダクトデザインについて解説をお願いします。
TENT治田 了解しました。では説明します。
(プロダクトデザイン編に続きます)
象印マホービン株式会社さんの粋な計らいにより、TENTのストアでSTAN.シリーズが購入できるようになりました!
STAN.シリーズは全国様々なお店でお取り扱いがありますが、つまらないものではございますが、直筆サイン入りお礼状も同梱して発送させていただきます。デザイナー自ら梱包発送するのは、ここTENTのストアだけ!
直筆サイン入りお礼状も同梱して発送させていただきます。つまらないものではございますが、直筆サイン入りお礼状も同梱して発送させていただきます。
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