今こそ楽しい!プロダクトデザイナー
2020年の10月
日本大学 芸術学部デザイン学科にて。
様々なジャンルの最前線で活躍するプロフェッショナルをゲスト講師として招き
週替わりでいろんな人のお話が聞けちゃうという「デザイン特別講座」の1コマを担当しました。
主に一年生で、デザインって言ってもどの分野に進むのか決まっていない人たちのための講義ということで、
今の時代のプロダクトデザイナーって、めちゃくちゃ楽しいんだよ!というお話をさせてもらいました。
今回は、その内容を紹介したいと思います。
はい、こんにちは!TENTです。
TENTはアオキとハルタという2名の共同代表からなる小さなクリエイティブユニットで、現在はデザイナーもう1名(ケンケン)を加えて、主に3名で活動しています。
今日は3つの順番でお話します。
まずは僕たち二人の経歴紹介も交えつつプロダクトデザイナーって言っても、いろんな在り方があるよって話をしますね。
さっそくですが、プロダクトデザイナーの在り方、その1。
1.メーカーに勤める
アオキが学校を卒業してすぐに入社したのがオリンパスという会社。その後SONYに転職しますが、合計6年間を、メーカーの社内デザイナーという立場で過ごしました。
ざっくり言いますと、社内の企画や設計から回ってきた案件の、デザインを担当するという立場です。
朝、決められた時間に出社して、自分のデスクのパソコンで作業をしたり、他の部署の人と打ち合わせをしたりして。
昼は社内にある社員食堂でランチを食べて、夜になると帰宅する、というような暮らしをしていました。
続きまして
2.デザイン事務所に勤める
ハルタさんは学校を卒業してから、デザイン事務所に入社しました。
デザイン事務所は様々なメーカーとお仕事をするんですが、たとえば、社内デザイナーがいなくて、その部分を外部の立場で担当するという関わり方があったり、
社内にデザインの部署があって、そのデザイナーさんをお手伝いするような形での関わりがあったり、様々な形があります。
大手企業のお仕事を数多くしていながらも、事務所自体は数人くらいの規模だったそうで。
出社して、お仕事して、メンバーで毎日一緒にランチを食べにいき、お仕事して、夜には帰るという暮らしをしていました。
ここまでは、学生さんでもおおよそイメージできる範囲かなと思いますが、次からが「今の時代」の話に入っていきます。
3.デザイナーメーカーになる
TENTは結成のタイミングで、自分たちで考えた製品を自分たちで試作しました。
たとえば、BOOK on BOOKという本を開くための透明な本であったり
ディスプレイクリーナーという、黒板消しのような画面拭きだったりしたんですけど
作ったものをどう世の中に出していくか?ということで
これらのオリジナルアイテムを、まずはインテリアライフスタイルという展示会にブース出展しました。
これが初めての展示会の写真です。
展示会に出すと何が起きるかって言うと
まず、卸業者さん、店舗さんなどのバイヤーさんと繋がることができます。
次に、ライターさんや編集さんなどメディアの方々とつながることができます。
僕たちにとって代表的なところでいうと、AssistOnさんと繋がれたのは、すごく大きな出来事でしたし
ananなど、よく見かける雑誌に掲載していただけたことも、その後につながるありがたい機会でした。
その後、工場に発注し、自腹で量産に踏み切るのですが、このような繋がりがあったからこそ出来たことだと思います。
さて、こうした繋がりを介して
ようやく、一般のお客さんにTENTやアイテムの情報が伝わり、商品として届けることができるようになります。
「メーカーになる」というのは、モノを作って在庫を抱えるだけじゃなくって、販売店さんやメディアさんと繋がることで初めて達成されるわけなのです。
そんな形で活動をしていく中で、僕たちのオリジナル製品を見たことがきっかけで、様々なご依頼をいただいくことになり、次の在り方ができてきました。
4.メーカーと一体になってブランドを立ち上げる
メーカーの方から「そもそも何を作るかから一緒に考えたい」とお声がけをいただき
昼夜を問わず毎日メールが飛び交い、毎週打ち合わせをし続ける濃厚な1年間を過ごすような形で、ブランドが立ち上がっていきました。
たとえばTrinityさんのNuAns。
プロダクトデザインだけでなく、ブランドコンセプト、ロゴ、パッケージ、説明書、カタログ、Web、展示会ブースなどなど、ありとあらゆることに関わらせていただきました。
さらに別のメーカー、平安伸銅さんからも「そもそも何を作るか」という声がけをいただき、突っ張り棒を再定義したブランドDRAW A LINE が立ち上がりました。
こちらもプロダクトだけでなく、ありとあらゆることに関わらせていただいてます。
ありとあらゆることを一体となって進めて、展示会に出展することで、卸業者さん、店舗さん、メディアさんとのつながりを開拓し、一般のお客さんへ、商品が伝わり届くという形をつくりました。
その一方で、僕たちはデザイナーメーカーの大先輩twelvetoneのツノダさんと共同で、実験的なプロジェクトをスタートしました。
idontknow.tokyoです。
この活動は、結果的に「デザイナーメーカーストア」という不思議な在り方に育っていきました。
5.デザイナーメーカーストア
様々な製品を自腹で作り、在庫を抱え、販売していくという活動なのですが
この活動の何が「不思議な在り方」なのかというと
自分たちと、一般のお客さんとが、完全にダイレクトに繋がった状態を達成してしまったんです。
それまで「メーカーになる」ためには、展示会に出展し、バイヤーさん、メディアさんと繋がることが絶対必要条件だと思っていたんですけど
idontoknow.tokyoは、一度も展示会に出展することなく、直接お客さんに伝え、届けることで「メーカーになる」ことを達成できてしまったんです。
これは僕たちにとってはなかなかショッキングな出来事でした。
ということで、ここまでをいったんまとめると
「プロダクトデザイナー」と言っても、
・メーカーに勤める
・デザイン事務所に勤める
だけじゃなくって、
・デザイナーメーカーになる
・メーカーと一体になってブランドを立ち上げる
・デザイナーメーカーストアになる
などなど、いろんな選択肢があるよっ!ってことを、今の学生さんには伝えたいです。はい。
さて、これらを踏まえた上で、次のお話です。
デザイナメーカーストアという在り方を実現できてしまったちょうどその頃、大阪の藤田金属さんとフライパンジュウという製品を開発していました。
この製品をいざ発売するとなった時に、藤田金属さんへ「ホームページはどうします?ネットではどう販売しますか?」と聞いたところ「そっち系苦手なんで、やってもらえます?」と言う回答。
結果的に、僕たちTENTが、普段のデザイン業務を大幅に超えて
Webページ作成、ストア作成、販売、お問い合わせ対応、SNSの運営などなどネット上の全てを担当することになりました。
でも、この方法が功を奏したのか、フライパンジュウは本当に沢山の方々にご愛用いただけて。それだけじゃなく、使い心地の良さを口コミで広めていただけて、大ヒット商品になりました。
そして次に起きたことが、ちょっとユニークで。
僕たちがプロダクトデザインを始め、いろんなことに関わらせていただいた、象印さんのSTAN.というブランド。
大手家電量販店でも取り扱いのあるこのシリーズを、僕たちTENTの小さなWebストアでも販売させてもらえることになったんです。
とはいえ、ただ製品を並べるだけでは面白くないので、僕たちだからこそ書ける開発エピソードを公開する形で、商品の魅力を丁寧に伝えさせていただきました。
そしてさらにユニークなことがおきました。
プロダクトデザインを担当した KINGJIMさんのSAND IT というドキュメントフォルダも、僕たちTENTの小さなWebストアで取り扱わせていただけることになったんです。
こちらについても、ただ商品を並べるのではなく、僕たちだからこそ書ける開発エピソードで、商品の魅力を丁寧に紹介しました。
結果として、発売前の予約段階で、在庫不足に陥るほどの大反響。
開発者自身が、開発エピソードをしっかり伝えるというのは、もしかすると買う人も嬉しい良い取り組みなのかもしれない、と思えるようになりました。
この在り方を、僕たちは仮に「デザイナーダイレクト」と名付けることにしています。
そんなわけで、最初に書いた「今だから楽しい!プロダクトデザイナー」の答えが、こちらになります。
学生さんだと、先生の評価とか、コンペの審査員の評価とか、気になると思います。そこを気にするのも大事です。
でも実は、今ってお客さんとダイレクトにやり取りできる時代なんです。
ここが、現代ならではの新しい醍醐味なんじゃないかなと思うので、もしよかったら、色々やってみてください。
講義の本題は、以上になります!
ご清聴ありがとうございました。
さて、その上で蛇足になりますが。
僕たちから学生さんに伝えたいことが2点あります。
お兄さんからのメッセージその1
動機に純粋か?
先生も、審査員も、上司も、全く関係ない。
自分が本音で欲しいと思うものを徹底的に作り込める。
お客さんへ、自分の声をダイレクトに届けられる。
今は、それが簡単にできる時代なんです。
だからこそ、小さくても良いから、そんな場所を自分で開拓しましょう!
そして
「Webを使ってお客さんとダイレクトに」って言うと、必ずされるのが
「フォロワーはどうやって増やしたらいいですか?」という質問です。
答えは簡単です。
フォロワー数なんて気にしてる暇はありません。
圧倒的に良いと思える、納得できるものを、たった一人でもコツコツ作り続けましょう。
モノがすごければ、フォロワー数なんて、いつか付いてきます。
逆に言えば、ロクなモノ作ってないのにフォロワー数だけ多いなんてのは成立しません。まずはモノ作りましょう!
僕たちからは以上になります!
最後に宣伝させてください。
僕たちTENTは結成十年目を迎えたので、その記念に「10年目の点と線」という連載を開始しています。
毎月更新していく予定なので、よかったら読んでくださいー!
ありがとうございました!
講義ではこの後、ラジオのようにカジュアルに質問に答える「ハガキ質問コーナー」が、hands upを使って実施されました。
もし僕たちに追加の質問がある方は、こちらの質問箱に書き込んでみてください。
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