製品づくりとメタ認知(アイデアとかデザインとか経営学とか)
2023年2月15日。
ミッドタウン六本木のデザインハブという場所で、トークイベントを行いました。
題して『アイデアとかデザインとか経営学とか』。
僕たちクリエイティブユニットTENTの本『アイデアとかデザインとか』を軸にしつつ、ゲストに静岡大学工学部で経営学を教える本條晴一郎氏を迎え
「デザイン思考」や「意味のイノベーション」だけでは捉えきれていなかった「デザインやアイデアとその周辺にある重要なポイント」について語り合いながら探っていく、というイベントでした。
イベントの様子はこちらのYouTubeにアーカイブがあるので、作業や家事のお供など、お時間のある時に「ながら聞き」で楽しんでもらえると嬉しいです↓
さて、そんな今回のイベントですが、とくに1時間を過ぎたあたりのディスカッションから、僕自身にとって発見の連続で。
ぼんやりしていたことが次々とクリアに言語化されていくような、とても楽しい(そして脳みそが焼き切れるような)時間でした。
全体の様子を知りたい方は動画を見ていただくとして、今回はこの刺激的なディスカッションの中から一部をかいつまんで記事にしていきたいと思います。
1.「とか」という文脈
TENTアオキ
本條さんのお話は面白い点がいくつもあったんですけど、僕が一番心に刺さったのは、この図です。
科学、人類学、工学、デザインを、4つのマトリクスに分類している。
TENTハルタ
僕もこの図は鳥肌立ちましたね、こんなに明確にきっちり腑に落ちる形でデザインと工学が分けれるんだって。この図を見れば一目瞭然というか。
アオキ
それで本條さんに「この図すごいです、どこかに描いてあったんですか?」って聞いたら「昨日思いついたんです」って。
本條さん
この図が描けたのは『アイデアとかデザインとか』を読んだおかげなんです。
僕は経営学者としては記述理論を作るんだけど、教育者としては実践理論を教育しなきゃけない。そういうことから、この図の上下の分類については以前から考えていたんです。
それで今回、本のまえがきでアオキさんが書かれている「とは」と「とか」との違いを説明しようって時に、これを左右の軸にしたら綺麗に分けられるぞって気づいて。
アオキ
そうなんですよね、僕、まえがきでこんなこと書いてるんです。
〜「とは」に向き合っても分かったような気になるだけ。
〜具体的な成果にはつながりません。
〜「とか」の部分にこそ〜解決の糸口、突破口がありました。
まさか「まえがき」からこんなに話を広げてもらえるなんて感動しました。
アオキ
とくに「デザイナーは」「科学者は」みたいな、人を区分けするような表現がないところがいいなと思って。
アオキ
僕の中でもデザイナー的にアイデアを出す時もあればエンジニア的に図面を描く瞬間もあるので「今の自分はどの状態かな」を自分が理解するための軸になるという意味で、すごく役に立つ図だと思いました。
本條さん
ありがとうございます。実は僕はこの4つのマトリクスそれぞれに仲間がいるんです。
だから誰が悪いとか言いたくない。それぞれに良さがあって、それぞれの専門性がある、こういうふうに考えるとみんながコラボレーションしやすいんじゃないかなあと考えています。
2.「深さ」からの繋がり
アオキ
それで、この図の印象が強くてずっと僕の頭の中に残っていたんですね。そうしたら、数日後にモヤモヤしてきちゃって。
とくにこの図の左右にある「コンテキストあり、コンテキストなし」っていうところ。
アオキ
コンテキストって日本語では「文脈」って言いますけど、僕たちTENTがデザインする時って、どっちかっていうと文脈はできる限り排除しようとしているんです。
とくにHINGEを作ってた頃は文脈依存度を下げるっていうことをテーマにしていたくらいで。
「ガンダムファンだけに伝わる」とか「アートに理解がある人にはわかる」みたいなことってハイコンテキストとか言われますけど、そういったハイコンテキストな要素なしで価値が伝わるもののほうが、自分達の暮らしにはフィットするよね、って思ってました。
だから本條さんの図で「コンテキストあり」に「デザイン」が当てはまっていることに、直感として違和感はないんですけど、理屈としてすごくモヤモヤして。
じゃあ僕たちが「排除したいコンテキスト」ってなんだったんだろうって考えてみたんです。
アオキ
たとえば「80年代カルチャーにインスパイアされた」とか「トレンドのアウトドア要素を踏まえた」とか、そういった他所から持ってきたコンテキストは排除したいと思っていたみたいで。
ハルタ
そうですね。TENTのやり方としては、こういう要素は削り落としていくものたちですね。
アオキ
じゃあ何をやっていたのか。あらためて考えてみると、たとえば「子どもが夜泣きした」とか「机のカドに足の小指をぶつけた」とか、そういった、個人的環境・個人的体験を、はからずも作るものに盛り込んでいた。
それを踏まえた上で、昨日思いついたラフな概念図があるんですけど
なんかこう、人がそれぞれの岩の上に立っているみたいなイメージで見てみてください。
僕たちはいわゆる「リサーチ」と呼ばれるものをあんまりしないんですけど、僕の思う「リサーチ」ってこんなイメージなんです。
高い塔を建てて、それぞれの岩の頂点を観測して、数多く抽出して炙り出すみたいな。そういうイメージを僕は持ってます。
またもう一つ「トレンド予想」っていうものもデザインの業界ではよくやられているんですけど、それは僕にとってこんなイメージ。
アオキ
高いところ、ハイコンテキストから流行が降りてくるという前提があって、それを先取りするために、業界や最先端の動向をウォッチするというイメージです。
あくまで僕の中のイメージである、この図における「リサーチ」と「トレンド予想」って、TENTはほぼやらないんです。
それじゃあどんな方法で製品を考えてるのかっていうと
たとえば、自分が立っている岩があったとして。
上ではなく、むしろ自分の下に向かっているイメージで。
なんか自分の下を深く掘っていくと、どうも隣と繋がってるっぽいんですよ。
HINGEを開発して世に出した結果として、この「自分の奥底を掘っていくと結果として他者と繋がる」みたいな手応えを得ることができました。
あくまでイメージでしかないんですけど、僕たちはこんなやり方でやっているみたいで。
それでさっきハイコンテキストって話があったわけですけど
僕たちがやっていたのはローコンテキスト、文脈がないってことなのか?というと、どうも違うということが本條さんの話から見えてきました。
それで、こんなふうに名づけてみました。
DEEP CONTEXT(ディープコンテキスト)。
僕は英語が得意ではないし、ただの思いつきでしかないので恐縮なのですが、奥深くにある文脈ということで、こんなふうに呼んでみてもいいかなと。
自分の奥を掘っていく。やっている人はやっている方法だとは思うんですけど、これにDEEP CONTEXTと名前をつけ顕在化することで、もしかしたら世の中のみなさんの役に立つことができるかもしれないと思いました。
3.「出す」ことでアップデート
本條さん
マウンテンバイクやマスキングテープなど、ユーザー自身が欲しくて作った結果イノベーションを起こしてしまったというものがあって、まさにアオキさんたちがHINGEでやったような方法なんですが。
僕たちはそれを「ユーザーイノベーション」と呼んでいるんですけど、実は研究者の間では「ユーザーイノベーションで作られたものやアイデアは普及しない」って知られてるんですよ。
アオキ
ええー!なぜですか。
本條さん
ユーザーイノベーターは、自分が使って満足するから、それを世に広げるインセンティブがないっていう理屈です。その理屈に対して、今のアオキさんのDEEP CONTEXTって話はすごく面白いなあと思って。
ユーザーイノベーションが広がらないのは、ユーザーが世に広げないからではなく、コンテクストの掘り下げ度合いが浅いからというのは大いにありうると思いますね。
アオキ
今のお話を伺いながら、じゃあ僕らはなんで深く掘ることができるんだろうってちょっと考えてみました。
それで気づいたんですけど、自分の奥を深く掘るっていうと目を閉じて瞑想してるみたいなイメージあるじゃないですか。でもそうではなくて。
自分の行動を思い返すと、頭の中のことを紙に描いてみる、試作して使ってみる、そして自分の身体がどう反応するかをウォッチするみたいな。行動によって自分を何度も切り替えることで、奥深く掘っていく感覚があります。
本條さん
そこがまさにデザイナーのデザイナーらしい部分なんじゃないかって私は思っていて。
デザイン思考とか「プロトタイピングは大事だ」って話はみんなします、多くの本には「プロトタイプを作ると実際に機能するかどうかわかる」って書かれているんだけど
実はプロトタイプを作ることで自分の理解が可視化されるとか、自分自身がアップデートされるっていう、そちらのダイナミクスのほうが重要だと私自身は思っていて。
研究者もそうですし、アオキさんの話を聞く限りデザイナーもそうなんじゃないかと思うんですが
自分がどんどんアップデートしていくそのサイクルの中で、論文が出たり商品が出たりするのかなって。
アオキ
ものすごくわかります、それ。僕もメーカー勤務時代に何カ国も回るリサーチとかユーザーテストとか参加したんですけど、そこで炙り出されることって、やる前からある程度結論が見えてることだったりするんです。
そういったレポートや調査結果よりも、自分自身がプロトタイプを使ってみたり、他の人に使ってもらった時の表情を見たりするなかで「くらう」感覚っていうのがあって。
開発者自身が「くらう」ことで、自分をアップデートする。経験上それが非常に効果があったので、とても腑に落ちました。
本條さん
「くらう」と楽しいと思うんですよね、これ単に自分がマゾなんじゃないかって感じるかもしれないんですが。
自分が間違ってるって気づく瞬間って、自分がアップデートしてて楽しいっていうのがあって。
これを快楽と感じるかどうかは人によるかもしれないんですが、私は自分がアップデートして一歩ずつ成長していて、それが楽しいっていうのが普段の自分の営みを支えている気がします。
4.「横軸」から二次の理解
本條さん
アオキさんが『アイデアとかデザインとか』の中にも書いているデザイナー3.0の話。
あれって分業の逆だと思うんです。分業ってたくさんのものが作れるけれど、分業が進めば進むほど、作っているものがゴミに近づいていく可能性がある。
アオキ
その感覚、たしかにありますね。
本條さん
デザイナー3.0は、横軸で全工程に関わっているから、アイデアをどんなところからでも拾えるし、拾ったアイデアを良いかどうか判断できるんじゃないかと。
アオキ
うわあ!
いまなんか、すごい気づきがありました。
本條さんがさきほどのスライド資料の中でお話していた、二次の理解っていうお話があったじゃないですか。
アオキ
あのお話は難しくて、僕はちょっと理解できていなかったんです。理解の理解ってどういう意味なんだろう?って。
でも、開発している時に販売者としての自分が見ているとか、そういうイメージなのであれば、すごくよくわかります。
本條さん
そうそう、そういう話なんです。
アオキ
なるほど、そういうことだったんですね。「自分が自分を理解する」のではなく、開発者アオキを販売者アオキが観察する感じ。すごく実感があります。それが「二次の理解」か。
めちゃくちゃ腑に落ちました。僕たちTENTがなぜデザイナーだけじゃなくて自社製品も始めて、リアル店舗まで構えて販売しているのか。別の立場を経験して、自分の中にメタな視点を立ち上げるためだったんですね。
これを踏まえてまた一つ思い出したんですけど、僕たちって試作を自分たちでめちゃくちゃ使うんですよ。使い倒した上で家族にも見せて回る。そうすることで、作り手としてではなくお客さんとしての視点を持てると思っていて。
そうしていく中で欠点を見つけて落ち込むこともあるんですけど、むしろ逆に「これ作った人天才じゃない?誰がつくったの?」なんて平気で言っちゃうこともあって。
本條さん
自画自賛力が強いと「二次の理解」が強いっていうのはあるかもしれないですね。僕も10年前に自分が書いた論文を読んで「10年前の俺は天才だったんだ!」って思うこと、よくあります。
アオキ
でもそれ、自画自賛というよりは、もはや他者としての目線なんですよね。冷静に引いた目で見るからこそ、恥ずかしげもなく褒められる。それってすごく良い状態ですよね。
5.「帰宅」がもたらすメタ視点
本條さん
TENTのお二人って、できるだけ早く帰宅してるらしいじゃないですか。これもすごく良いなと思って。しんどい状態で仕事をしてる方って、客観的に自分を見るってことをあまりしたくないんじゃないかって思って。
アオキ
クリエイティブっぽい職種って、遅くまでやったり徹夜して、つらいだけじゃなく自分に酔ってる可能性もあるんですよね。「こんなに頑張ってる俺カッケー!」ってなりやすい。
そうなると「二次の理解」って全くできないと思うんです。だからできるだけ早い時間に帰宅して、日常のスケールに自分を戻す必要がある。
ハルタ
試作ができた時って、いったん家に置いてみるとか、一度なにか区切りを入れないと突き離せなくて。冷酷に見られないじゃないですか。だから普段の暮らしをちゃんとやらないと、そこはできないと思ってますね。
アオキ
いやー、今日は『アイデアとかデザインとか』の熱い感想を頂けただけでなく、この場で気づく数多くの学びをいただくことができました。本当にありがとうございました!
本條さん
こちらこそありがとうございました。ぜひまた一緒に何かやりましょう。
このイベントの全編はこちらのYouTubeでアーカイブされています。
このイベントの感想を含んだ音声コンテンツ『知らんがなラジオ(413回)メタニンチ』はこちらからお楽しみください。
(↑どちらも同じ内容です)
このイベントで話題に出ていたものはTENTのストアで購入できます↓