幸福な人生とはアイスを溶かすことかもしれないと思った。
夜中にパジャマのままコンビニに行った。海辺の小さな町のコンビニはかろうじて二十四時間営業していて、その高台からは海が一直線に広がっている。聞こえるはずのない波音を聞きながら店に入ると、店員のお兄さんが三秒くらい遅れて「シャッセー」と発した。普通はこの時間に客なんてこないから当然だ。何か欲しいものがあったわけではないけれど、急に目が覚めて、冴えてしまって眠れなくなったので気分転換できたのだ。ダイエットコーラとアイスを買って外の柵に腰掛ける。コーラを一口含んでふと「ゆっくりでいい」と思った。ずっと、何かに追われて生きている感じがした。部活のレギュラー争いだったり、受験だったり、卒論だったり、就職だったり、仕事の締切だったり、ライフプランというやつにだったり。せっせかせっせか追われ、追われ、追われ、気づけば、歩くのも、食べるのも、動画を観るのも、本を読むのも、何もかも急いでしまっている。本当はもう戦わなくていいのにそのくせだけが残ってしまっていて今日も眠れなくなってしまったのだ。コーラを地面において、アイスをかじってからしばらくじっと見つめた。生ぬるい初秋の夜風がアイスをなめる。ゆっくりと、ゆっくりと、そして確実に溶けていくアイスクリームを僕は眺める。幸福な人生とはアイスを溶かすことかもしれないと思った。
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生活費になります。食費。育ち盛りゆえ。。