Vol.3 見守りサービスに革命を起こす「マゴコロボタン」
前回(https://note.com/aoki_21/n/n605262aa0331)はMIKAWAYA21という会社とまごころサポートについてご紹介しました。新聞販売店など既存のアセットをシニア向けサービスの拠点として活用することで、シニア向けサービスだけでなく、新聞販売店とMIKAWAYA21の双方が事業を継続できるビジネスモデルだということがご理解いただけけたのではないかと思います。
3回目の今回はMIKAWAYA21とまごころサポートの内容をさらに深掘りしていきます。
毎日のようにお手伝いで訪問
まごころサポートの加盟店の中には、新聞配達のかたわら、シニアのちょっとしたお困りごとをお手伝いしているところもあります。
例えば、福岡県筑紫野市で新聞販売店を経営している勝田聡さんの場合、勝田さんと2人の社員が地域の方々のお手伝いに走り回っています。その内容も、電球交換や草むしり、2階の本棚にある書籍を1階に下ろす、灯油を買いに行く、風呂を掃除するなど、文字通りあらゆるお手伝いに対応しています。
繁閑には季節的なものがありますが、春や秋は2日に1回、草むしりのお願いが増える夏場には、毎日のようにお年寄りのところを訪問していると勝田さんは言います。
勝田さんがまごころサポートに加わったのは2018年秋のことでした。2008年のリーマンショック以降、スマートフォンの普及も手伝って、新聞の読者数はじりじりと減少していました。ご多分に漏れず、勝田さんの販売所も若者の新規契約はほとんどなく、3000人の新聞契約者の大半は60歳以上のシニアでした。
それでも、新聞販売店の利益の多くを占める折り込みチラシは比較的堅調だったため、新聞の拡販に注力していましたが、過去数年で折り込みチラシによる広告収入も減り始めたため、リスタートの意味も込めて、まごころサポートに加盟されたのです。
※写真)勝田さんと青木、福岡にて。二人は10年以上の仲良しです。
実はブランディングに効果的
加盟店の中にはまごころサポートで月100万円を超えるような売り上げを出しているところもあります。ただ、勝田さんは折り込みチラシの減少を補填するというより、自分の販売店のブランディングという位置づけでまごころサポートを捉えているそうです。
地方で暮らしているお年寄りの中には、子どもが大都市に出てしまい、孤独を感じている方が大勢います。どこまで行っても他人ですが、毎日、新聞を配りに来てくれる人が声をかけてくれる、ちょっとした困りごとを手伝ってくれる、というのはシニアにとっては大きな精神的な支えになります。
こういう活動を積み重ねれば、既存の購読者の満足度向上につながりますし、地域での評判が高まれば、競合紙を取っていたシニアの新規獲得にもつながります。実際、まごころサポートの評判を聞いて、「そんな販売店があるなら私も取りたい」と乗り換える方はたくさんいます。
令和の時代に押しボタン式の理由
MIKAWAYA21としては、地域の加盟店の評判がもっと上がるように、シニアの方に喜んでもらえるようなサービスをどんどん開発していかなければなりません。
その意味で言うと、この商品はなかなか面白いと思います。その名も「マゴコロボタン」。写真を見ていただければ分かると思いますが、テレビのクイズ番組で押すような、こぶし大の物理的なボタンです。見てください、この無駄な機能をそぎ落としたデザインを(笑)。
3年ほど前、ある投資家のところにプレゼンテーションに行ったことがあります。その場で、MIKAWAYA21とまごころサポートについて一生懸命説明したのですが、相手は眠そうで、関心がなさそうなのは明らかでした。こちらはもう焦りまくりです。ところが、マゴコロボタンを見せると、ぱっと目を見開いて、身を乗り出して言いました。
「これ、いい感じに枯れているなあ。これだけ枯らした商品はなかなかないよ」
シニアのことを真剣に考えている人間でないと、これだけ”枯れた”商品は作れない、という最大級のほめ言葉をいただきました。
「薬、ちゃんと飲んでや~」
どういうボタンなのか。一言で言うと、シニア向けの何でもボタンです。
例えば、ボタンを1回、ガチャンと押すと、今日の天気や温度などを伝えてくれます。ラインと連携しており、ボタンを押せば「薬、ちゃんと飲んでや~」「散歩に行ってね~」など、家族が吹き込んだ音声を聞くこともできます。録音が入っている場合はボタンのまわりがピコピコ光るんですね。ボタンを長押しすれば、お子さまやお孫さんのLINEにボイスメッセージを送ることもできます。
スマホですべて代用できるという指摘はその通りです。ただ、シニアの中には、スマホをうまく扱えない方はたくさんいます。そんな方でも、ボタンであれば押すだけで済みます。見守りサービスの中には、トイレにセンサーをつけたり、赤外線カメラで動きを感知したりと様々なものがあります。ただ、センサーやカメラはプライバシーの面で嫌だと思う方もいます。その点、マゴコロボタンにはセンサーもカメラもついていませんから。
このマゴコロボタンを、加盟店を通してシニア向けの見守りサービスの端末として広めるというのが新しいサービス展開です。
防災無線として自治体の関心大
既に、多くの事業者や自治体に関心を持ってもらっています。自治体の中には、防災無線の代わりとして活用しようと考えているところもあります。防災無線を設置している地域はたくさんありますが、大雨や台風など自然災害が起きている時は、外の騒音で聞き取れないことがあります。マゴコロボタンは端末のシリアルナンバーと所有者の住所が紐づいているので、個別に災害情報を流すことができます。1号機ができた2018年から、佐賀県みやき町で実証実験を進め、お年寄りの声を集めてきました。2号機はそういった声を反映させ、バージョンアップさせたもので既に400台を納品しています。
2016年に「マゴコロボタンをつくろう」と思い立ってから、吹けば飛ぶようなスタートアップにもかかわらず、1億円以上を開発につぎ込んできました。株主の方々にはお叱りを受けることもありましたが、「こういう機器があれば喜んでもらえるだろうな」という思いだけで突き進んできました。こうして形になって感無量です。
さて、長くなってきましたので今回はここまでにします。次回はまごころサポートの誕生秘話について話そうと思います。実は、まごころサポートは新聞販売店を経営する中で生まれたサービスなんです。