『一番怖いのは幽霊でも人でも無い!腹痛だ!』
友人に好きな人が出来たらしい。
相手のことを考えてしまうと仕事も手につかないとのことだった。
学生の思春期のような淡い恋心で20年越しに青春が今きたのかと思うほどだ。
しかし、何とか実って欲しいものだ。
そして、そんな私もあることを考えてしまうと仕事も手につかないことがある。
頭の中はその事でいっぱいなので話しかけられても気付かないほど夢中なのだ。
手汗握る緊張感…、
それが腹痛だ。
全人類が選ぶNo.1苦痛生理現象ではないだろうか。
あいつは外出している時に限って起きやすい。
"あれ…?なんかお腹痛くない?"
これを意識した瞬間に目に見えない死のカウントダウンが開始する。
私はこれを生き残り(尊厳)を賭けたデスゲームと言っている。
カウント90。
まだまだ慌てることはない。
今日の私の運勢は12星座中1位なのだ。
【街を歩くとまさかの出会いが…でも油断は禁物】
出会い求めたら痛い目あってますけど?
東京の地理にはまだまだ疎い。
しかし、こちらにはGoogleマップという神の施しがあるのだ。
公園・家電量販店・コンビニ…。
安息の地オアシス(トイレ)が借りられそうな場所を探す。
近場に公園があったので腹部に余裕を持って向かう。
男性側の暗がりにある個室の扉を優雅に開けると…、
掃除がされていないようで虫や汚れでとんでもない状態になっていた。
…。
何も見なかった事にした。
そもそもここに公園がなかったのだ。
カウント70。
まだまだこの先チャンスはある。
次のオアシスはミニストップのようだ。
ミニストップのロゴは憩いの場で名前は気軽に立ち寄れるという意味があるそうで、オアシスとしてはとてもふさわしいではないか。
パフェを含め店内で作るスウィーツに力を入れているところが特に好感度が高い。
カウント50。
想像しただけで冷たいものは腹にくる。
あんなに見た目優しいハロハロが急に牙を剥いてきた。
気になっていた清楚系女子が死ぬほど口が悪かったのを思い出す。
オアシスの扉に手を掛けると…開かない!?
先客がいたようだ。
「すみません。あと5分…いや10分」
申し訳ないと思ったのか扉越しに話し掛けてきた。
敢えて時間に余裕を持たせたところは腹立つがいかんせん緊急事態だ。
しかし言葉から察すると同士。
致し方ないだろう。
カウント30。
ほっとしたところにこのガッカリ感は腹ダメージがデカい。
ヤバいことにこの周りにはオアシスを借りれるようなところがない。
仕方がないので家まで急いで帰ることに。
さすがに慌ててきたので最終兵器の自転車を使用する。
カウント10。
この辺りからオアシスという綺麗事からシンプルにトイレの文字しか考えられなくなる。
サドルに腰掛け脚とお腹に力を入れいざ出発!…、危ないところだった。
勢いでお尻にまで力を込めてしまいそうになる。これでは全ての努力が無駄になる。
脚とお腹には力を入れてお尻には入れないようにするという意味不明な高等技術を要求されるので自転車が蛇行運転気味になる。
すると…、
「すみません〜」
誰かが後ろから声を掛けてきた。
道に困っているのかもしれないが今は助けられない。
何せこっちが助けて欲しいくらいだ。
「止まって下さい〜」
このスピードについてくるとは相手も自転車なのか。
カウント5。
無視をするのはさすがに人としてよくない。
取り敢えず走りながら丁寧にお断りしよう…。
無理です!
気遣いはどこにいったのか容赦ない一言が思わず出てしまった。
相手には悪いがこちらも緊急事態なのだ。
ごめんなさいを込めて顔を見ると、
…お巡りさん。
何事も無かったように静かにブレーキを掛け爽やかに笑顔を見せながらどうしたのかと尋ねる。
「すみません。運転がフラフラしてて不思議だったので」
やかましかった。
フラフラどころか足もガクガクしているくらいだ。
幸い優しそうな人なので体調が悪い旨を伝えれば早く帰してもらえそうだ。
「大丈夫ですか?じゃ、防犯登録確認しますね」
鬼畜の所業だった。
カウント3。
世の中には人を殺めた殺人や騙してお金を儲ける詐欺が横行しているのだから、それに比べたら漏らすことなんて全く悪くないのではないか。
でも、この場だと公務執行妨害になるのかな。
どうやら人は死期が近いと現実逃避をするようだ。
「特に異常はありませんでした。ご協力ありがとうございました」
お尻というトンネルで渋滞が発生してますけどね。
カウント1。
無我夢中で走った。
信号を無視したかもしれないがそんなの知らん。
人にぶつかりそうになったかもしれないがそんなの知らん。
目の前が真っ白になりながらも家に到着する。
鍵も掛けずに家の中に土足で入る。
便座に座りベルトを緩めると一気に気を解放させる。
…。
私は勝ったのだ!
ここまで我慢したお腹とお尻を褒めたい。
身体が軽くなり今ならレッドブルよりも高く飛べそうだ。
ビチャリ。
冷たいものがお尻に当たる。
どうやら汗をかきすぎたようでパンツが湿っているようだ。
格好悪さに笑いながら振り向くと、中途半端にしか脱げていなかったボクサーパンツが全てを優しく受け止めていた。
【まさかの出会いが…でも油断は禁物】
私は大声で泣いた。