『遺族のおばあちゃんの優しさが時には牙を向くときがある』
お葬式が終わり片付けをしていると遺族のおばあちゃんから、
「元気になるドリンク用意しておくからね」
と優しい気遣いがあった。
おばあちゃんの元気になるドリンクといえばオロナミンCやリポビタンDだろうか。
いやいや、もしかしたら今に合わせたモンスターやレッドブルなどのエナジードリンクかもしれない。
夏場の仕事でちょうど疲れていたのでありがたく頂戴することに。
「お待たせしたね。はい、どうぞ!」
と、目の前にグラスいっぱいに注がれた真っ黒な飲み物が出てきた。
…。
思っていたのと違う。
真っ黒過ぎてグラスの反対側が見えない。
これは何か尋ねてみると、
「色々ドリンクだよ」
いつの間にか元気の要素が無くなっていた。
色々というのは色々な食材が混ざっているということだろうか?
中身は何か尋ねてみると、
「りんご…だね」
色々は?
謎過ぎてちょっと躊躇してしまう。
ドリンクに顔を近づけると少し酸っぱい匂いが香る。
もしかして液体の方は黒酢だろうか?
尋ねてみる。
「私が大好きな黒酢だね」
この後出しルールはやめて欲しい。
安心して飲みたいのだが…。
提供して貰ってから3分。
さすがにもう飲まないとまずい。
グラスの底に色々が沈殿しているのに気付く。
この沈殿を回避して上辺の液体だけを飲めば最悪黒酢ジュースだ。
おばあちゃんのせっかくのご厚意を無下に出来ないからこの作戦でいこう。
いただきますと声を掛けようとしたところ、
「あ!?ごめんな」
不意におばあちゃんが謝ってきた。
もしかしたら飲みづらそうにしていたのを察してくれたのかもしれない。
何だか申し訳ない気持ちになった。
飲めなくてごめんなさ…。
「これが必要だった」
とおばあちゃんが右手にマドラーを持つとグラスに差し込み勢いよく混ぜ始めた。
おばあちゃーーーーーん!!!
ありがた迷惑にしっかりと混ぜ合わさった黒い液体がグルグルと渦を巻いている。
まるでブラックホールだ。
飲むのを待っているおばあちゃんの笑顔がそこにはあった。
口のパサパサが水分を欲している。
このときほど喉の渇きを恨んだことはない。
意を決して口に含むと…、
…。
甘みの中に酸味もあって固形物がナタデココのような食感になり良いアクセントになって意外と美味しい。
嫌々だったが完飲すると胃も気持ちもスッキリと爽快感で満たされた。
躊躇した自分を恥じなければならない。
ご馳走様でしたと声を掛けるとそのまま自宅を後にした。
その日は疲れもあるのかなぜかグッスリと寝れた…。
深夜2時に気づくといつの間にかトイレの便座に腰掛けていた…。
深夜2時30分に気づくといつの間にかトイレの便座に腰掛けていた…。
深夜3時に気づくといつの間にかトイレの便座に腰掛けていた…。
何が原因か考えるのをやめた。