装甲騎兵ボトムズ 第2話「ウド」後半~ウドで死ぬということ~
後半は牢屋みたいな粗末な部屋で、キリコとおじさんが会話するシーンから。理不尽な暴力を振るわれ、もう我慢ならん!といった様子のおじさん。ひしゃげた蛇口をひねり、這いつくばった姿勢で水を浴びる……顔をつたって流れていく水の動き……ここ、作画に力がこもっている気がする……谷口守泰さんの描く顔だ。水をブルッと振りはらい(この動きもすごく惹き付けられる。やはり谷口さんのお力か……?!)一言、「俺は逃げる!」と力強い声。
キリコの顔、よくよく見ると第1話の時と違うんですよね。このあたりで初めて気づいた。「作画監督によって絵柄が変わるのは結構好きだから大歓迎だよ!」と思ってはいたのですが、しかし初鑑賞時、私はまだ知らなかった……荒ぶる谷口作画がいかに我々を翻弄するのかをな……!
と、暴走族のアジトに警察がやってくる。おじさんの説明によると「取り締まるべき警察が、裏でウワマエをはねてやがんだ」とのこと。そして「行きがけの駄賃にジジリウムの5ダレムもいただいてくか」とニヤリ。5ダレムってどれくらいの量かな、と考えて、まぁ、おそらく、5グラムなんだろうなぁ……なんて。5グラムって結構少ない。でもこの場面は、たとえ雀の涙ほどでも盗まなきゃやってらんねぇぜ!(ニヤリ)な場面だから、少ない量と解釈するのが正解なんだと思う。ダレムは多分グラムです。
“行きがけの駄賃”っていうフレーズもいい。こんなフレーズ使ったことないよ。こう、荒れ果てた街の片隅で必死に生きてる人の口から出る言葉だよなぁ、と思います。すごく“ウド”を感じた。
ちょっぴり肥えた強欲そうな警察署長(CV:ゴウト)登場。ワインを差し出し「どーお?一杯……」とすり寄る女。しかし署長、その女を腕で押して拒絶。異変を察した暴走族たちの顔色が変わる。暴走族の親玉(CV:ゴン・ヌー)も不審がっている。
署長の口から飛び出したのは、手を切らないか、という相談だった。時代が変わって、今までのようにつるんでいるわけにはいかないそう。暴走族側、これに反発。苛立つ手下たち。その手下の中には「さんざん甘い汁を吸ってきたくせに!」という声(CV:イプシロン)も。
薄汚い連中の薄汚いやり取りが続く中、捕らわれていた人々は反乱の準備を着々と進めている……暗がりの中をこそこそ動き回り、バイクを奪って……そして始まる大暴れ。すぐさまバイクに乗って逃走をはかったキリコだったが、銃を撃ちながらアジト内部に乗り込んでいくおじさんの姿を目撃。とっさに後を追う……!
キリコが部屋に入っていくと、先ほどテーブルを囲んでいた面々が皆死体に。目の前に置かれたジジリウムの山に突っ伏して死んだ署長。本当に強欲な人だったんだ、というのを示唆する演出。
もう誰もいないと思ったら、カーテンの影から何者かが……それは頭から血を流した瀕死のおじさん!敵陣に突撃したはいいものの、自身も致命傷を負ってしまった模様。キリコに支えられながら、先ほども言っていた“行きがけの駄賃”という私の好きなフレーズを口にし、ジジリウムを一掴みし、テーブルからずり落ちて床に倒れる……これが最期。ウドを象徴する死に方。リスクを犯してでも食いぶちが欲しい。執念がある。でも、あっけなく倒れる。「これが“ウド”だぞ!」というのが伝わってくる、鮮やかで残酷な演出。
感傷にひたる間もなく、まだ生き残っていた暴走族が部屋に入ってきた!それに気づいたキリコのとっさのリアクション、「ん?」がちょっとヘタクソで愛おしいぞ!素早く窓を破り飛び降りたキリコ、盗んだバイクで走り出す!
逃げ切れるかと思ったが、すぐに敵のバイクに追いつかれた上に、バイクを失いキリコピンチ。どんどん追いつめられる中、冒頭に出てきた衛星のカット。どうやらこの衛星、キリコの居場所を特定し、襲いにきた暴走族を撃ち抜いてくれたっぽい。
難を逃れ、ほっとしたのも束の間、足を滑らせたキリコ。ゴミ捨て場のような場所へと転げ落ちてしまう。そこにあったのは……ロボット。AT。スコープドッグ。
暴走族のバイクの音に戦々恐々としながら身を隠すように、壊れて捨てられたロボットの中に乗り込むキリコ。蓋を閉めてとじ込もって……そしてナレーション。「そこは、俺にとって懐かしいにおいのするところだった」。
胎児のように丸まって、 決して寝心地が良くないであろうコクピットの中で、本来なら戦いのために座るはずの椅子の上で、このキリコって子は、それはそれは安らかな顔をしながら瞳を閉じるんですね。冷たいに決まってるその感触を「慣れ親しんだぬくもり」、「おふくろの胸に抱かれたような気持ち」と形容する18歳の男の子。
いかに彼がこれまでの人生で得た“ぬくもり”の経験が乏しいか。キリコはもしかしたら、お母さんがいない子だったのかもしれない。もしくは、お母さんの記憶が戦争のせいですっかり薄らいでて、だからこんな鉄屑の塊を「おふくろ」に例えちゃうんじゃないか、とかすっごくグルグルいろんなことを考えちゃうシーンでした。 ここのBGMがまた良くて、なんというか、ジャズ調のほろ苦い音楽が流れていて……演出が良すぎる。これは、心に残る。
そして、キリコが目を覚まし「あ……」と何かに気づいたところで物語は終わる。最後にキリコはなぜ目を覚ましたんだろう?来週の展開の伏線かな?なんて思っちゃいそうだけど、これ違うんですね。
ここは、オープニング『炎のさだめ』の歌詞の通りの世界が再現されている、と見るのがいいでしょうか。「そっとしておいてくれ 明日に ああ つながる今日ぐらい」ですね。毎日を生きるのが大変で、ほんの些細な休息でも欲しい。苛酷な明日に備えて寝たい。でも、安らかに寝かせてはもらえない。そっとしておいてもらえない。それを表現するために、ラストの絵を主人公の穏やかな寝顔にするわけにはいかない、という判断を下したわけです。“おふくろ”、“ぬくもり”などというワードを並べ立てておきながら、結局安息など存在してはいなかった、というオチに落とし込む。最後の最後まで気を抜けない徹底したドラマ。
ここまでやられて、私はしびれた。第2話、はっきり言ってクオリティが高すぎる。初めて鑑賞した時から、「30分アニメのたった1話分で、これだけ濃い内容のものを見せてくれるなんて……!」と感動しきりだったのをよく覚えています。冒頭に登場する雑踏に色が塗られていないとか、作画枚数が極端に多いわけではないとか、そういうのが全部吹き飛ぶくらいの“魅せ方”の強さだった。サブタイトル「ウド」の名の通り、ウドという街がどういった場所であるかをあまりにも的確に、雄弁に語ってくれていた。まだ第2話だというのに、すっかり宝の山を見つけたような気になって、テンションはだだ上がりに。
そんな青川に追い打ちをかけるかの如く、始まっちまったよ。お楽しみの予告タイムが。予告の映像に、「ピンク髪の女の子がいる!このアニメ、そういうキャラも出てくるの?!」と、いちいち驚く。この渋い作風にショッキングピンクのヘアカラーが果たしてどう作用するのか……と最初は少し心配だった。でもそれはいらぬ心配だった(そもそも主人公の髪の色も大概じゃないか!)。
「次回『出会い』、キリコが飲むウドのコーヒーは苦い」
……またなんか面白予告名文が飛び出したぞ……何なんだこのアニメ……もしかして予告はふざけようって魂胆でやってる……?いや、真面目にやった結果この境地にたどり着いちゃったのかもしれない……どうなの……?疑問が尽きぬまま、エンディングに突入。しっとりした名曲『いつもあなたが』に包まれながら、無事鑑賞終了。
1話と2話で、このアニメの世界がほぼ把握できるという親切仕様がボトムズの魅力の一つだと思う。もし誰かにボトムズをオススメしたかったら、「とりあえず1話と2話見てみて!」って自分は言うかもしれない。それでだいたい掴みはOKだと思うぞ!というか、私はがっつり掴まれすぎて今こうなっているよ!
第2話は大好きな回なので、言いたいことがいっぱい書けてよかった。長くてごめんね。読んでくれた最低野郎なあなた、ありがとうございますm(_ _)m