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いつか、きみと。3-6
【それ】が【涙】だってわかるまでの、タイムラグ。
わたしの心と身体が、ちょっとだけ離れたところにあって通信しているみたいになる。
レンはわたしよりも幼いはずなのに、ときどきわたしよりも年上なのかと思うことがある。
…でも、年齢っていうのは身体ができあがったときの【記号】みたいなもので、知識や経験にはなんの関係もないものだと思う。
それに、おなじ年齢だったとしても、身体の作りや成長、大きさだ
いつか、きみと・3-5
「だ、大丈夫だよ。帰ってからちゃんと進めてるよ」
「疲れて帰って、カリキュラムをやるなんて、大丈夫じゃないよ」
時々、子どもらしからぬことをいう。
「明日は休んで欲しいんだけど…」
「イヤ!!」
レンが話し終わるか終わらないかのタイミングで、さえぎるように飛び出した自分の声におどろいた。
手が震えるのは、寒さのせいじゃない。
「…ルナ?」
震えてるのは手だけじゃなくて、ひざも肩も、
いつか、きみと・3-4
それに、報酬なんてずっと使わずにいたから、こんなうれしい使い方もあるんだなぁ…ってわかったこともうれしい。
今はまだ、本格的に仕事を受けていないけれど、カリキュラムを受けながらでもできる仕事をたまに受注している。
報酬が欲しいというよりも、仕事をしてみたいとか、自分がどれくらいできるのか試してみたくて仕事を受けてみた。
あとは、誕生日や記念日に両親からプレゼントのリクエストを聞かれて、とくに
いつか、きみと・3-3
タワーに住んでいると、タワーの住人としてオーダーができるから、サンドイッチや飲み物をオーダーしても【無料】なのだけれど、どうやらレンはタワーの住人ではないらしい。
仕事はしているから、報酬はもらっているみたいだし、基本的な生活も保護されているようだけど、本人もわからないことは聞けない。
「届けても届けても、荷物が増えるね」
「うん」
「そうだ!こんなの見つけたの」
バッグから、手袋を取り
いつか、きみと・3-2
「うん。1つも2つも変わらないから」
タワーの管理は【国】がしているけれど、部屋の使用料は無料だし、基本的な食べ物、衣服もオーダーすると無料で届く。
基本的な生活は【国】が守ってくれている。
今みたいなシステムになる前には、家も食料も衣服も、すべて【自分たち】でなんとかしなきゃならなかった時代もあるみたい。
お金をたくさん集められる人は、大きな家に住んで高級な食材を持て余すほどオーダーして
いつか、きみと・3-1
彼からのメモを届けてくれて、彼の家に案内してくれた男の子は、名前は【レン】っていうらしい。
レンと一緒に【配達】を始めて、3日目。
…働くことがこんなに大変だとは知らなかった。
仕事といえば、パソコンを使うことがほとんどだから、身体を動かすときはあくまでも【趣味】だったり【運動のため】だったり、基本的には【楽しいとき】だと思っていた。
配達の仕事は、自分が疲れているとか休みたいとかいう事情は
いつか、きみと2-6
「な、」
必死でしぼりだしたはずの言葉が、そんな一言だなんて自分でもあきれる。
「荷物が増え続けたら、この【家】がいっぱいになって壊れてしまう。
そしたら…」
「え」
「だから、せめて一番古くからある一番大きな荷物を届けに、彼は出かけたんです。
…そしたら、連絡が途絶えて…」
「…」
「あなたのことは、見かけたこともあったし、彼から聞いていたので知っていました。
だから、昨日この手紙を
いつか、きみと2-5
「え…」
建物の中は、わたしの部屋をもっと広くしたような作り…みたいだけれど、決定的に違うことは部屋中にたくさんの【荷物】が置かれている。
わたしと彼が出会ったときに、彼が持っていた荷物と似ているけれど、大きさはさまざまで小さな箱から大きな箱、細長い箱や丸い箱…。
「これを届ける仕事をしてます。
…だけど、最近は配達先が見つからないことが増えていて、どんどん増えていくんです」
どういうこと
いつか、きみと2-4
「お願い!教えて!」
両方の肩に手をおいて、揺さぶるみたいにしているのが、自分だなんてびっくりしてしまう。
「…あの」
「…お願い」
涙がとまらない。
だって、書いてないんだもの。
だから、納得なんてできない。
「あの、それは…」
「お願い」
「…ついてきてもらえますか?」
くるりと背を向けて、歩き始めた後ろ姿を追いかける。
知らない子。
よくわからないけれど、今を逃してしま
いつか、きみと2-3
「…?」
差し出された紙を、受けとる。
「それじゃあ…」
そういって、去ろうとしたその子の腕をがっちりつかまえる。
「待って!」
「!?」
「ちょっと待って!」
そんな衝動的なことをしたのは、受けとった紙に彼の名前が書いてあったから。
この子が誰なのか知らないけれど、今は彼とつながる方法を知っている人はこの子しかいない。
「ちょっと待って、ここにいて」
わたしはそっと紙をひらく。
いつか、きみと2-2
「…はぁ」
結局、彼から連絡がないまま2日経ってしまった。
【会いたい】っていう気持ちよりも、不安の方が大きいのはどうしてだろう。
手袋を持って、公園へ向かう。
電車に乗っているあいだ、ずっと心臓が痛いくらい緊張して、公園の近くの駅についたときには、もう走りださずにはいられなかった。
息を切らして、いつものベンチに行くと、きっと彼が…。
半分、予想通り。
望んでいなかった結果が、そこには
いつか、きみと・2-1
「はぁ…」
今日何回目かわからないため息を吐き出す。
【ウオッチ】と呼ばれる”それ”を見る。
ウオッチは、手首にまきつけて使う通信機器であり健康管理機器でもある。
音声やメールの通信はもちろん、脈拍や体温、血圧なんかも管理してくれる便利な機器で、生まれたときからみんなひとり1つ持っている。
彼ももちろんウオッチは持っていて、一日何度か連絡を取るのが日常になっていたけれど、もう3日も連絡がな
いつか、きみと・1-8
「もう。
謝らない、っていったでしょ?」
「うん、ごめん…」
「あー、もう。また!」
彼がやさしく微笑みながら、左手でやさしくわたしの頭をなでてくれた。
心地よくて、ずっとなでていて欲しいと思う。
「あのとき、探していたおうちは、みつけられたの?」
ふと、思い出して問いかける。
「ううん、結局みつからなかったんだ」
「…そうなんだ」
彼は配達先のおうちを探していたらしい。
だけど、
いつか、きみと・1-7
いつもこのくり返し。
だから、わたしたちが会うのはいつもこの公園。
ちょっぴり困らせることはできるけれど、それ以上ふみこめないのは、【嫌われたくない】とか【こわい】からかもしれない。
なんの接点もなさそうなわたしたちが出会ったのも、ただの【偶然】
「あの日も、こんな風に天気がよくて少し寒い日だったよね」
「…そうだね」
彼が目を細めて笑う。
わたしの右手をぎゅっとにぎりしめると、わたしの
いつか、きみと・1-6
そのおかげで、温暖化が進むことはなかったけれど、太陽が少しずつ離れていくことで、少しずつ冬が長くなっているらしい。
ただ、地球が毎日冬になる頃には、わたしの子どもの子どもの子どもくらいの時代になるのだろうか…?
「次のお休みには、また会える?」
「会いたいけど、まだわからないかも」
「…そっか」
「連絡するよ」
「うん」
下に向けた視線が、そのまま手袋を通過して、つま先にたどり着く。
いつか、きみと・1-5
「よかったらあげるよ」
「ありがとう!」
わたしはそっと、その【写真】をポケットにしまった。
部屋には大きな窓があるし、緑も見えるしお日様の光も入るけれど、外も気持ちいいな。
「今日も帰ったら勉強するの?」
「うん、そのつもりだよ」
「がんばってるね」
「早くお仕事受けられるようになりたいから」
「そっか」
仕事はみんなそれぞれ自分の部屋で作業をしている人ばかりだけど、彼は今の時