うる星やつら 第一話 / 高橋留美子 / タイピング日記052
扉絵
〔 PART - 1 〕
かけめぐる青春
1頁 諸星あたる、女にふられる。
三宅しのぶ
「あんたなんか大嫌い! 」
バシ
諸星あたる、四ツ橋の中央にて、右手を前にだして叫ぶ。
「しのぶ!!」
三宅しのぶ、後ろを振りむいて逃げるように走る。
「もう絶交よ!!」
諸星あたる、橋の欄干に両手をついて川を見下ろしてぼやく。
「なんでえ! ちょっとほかの女をみただけじゃないか! 」
「わーっ、 まてまてまてーっ!! 」
諸星あたる、横を見る。
「え!? 」
袈裟を着た背の低い雲水(行脚僧)、登場。
「はやまってはいかーん!! 」
ドドドドドドド
ドン
雲水、諸星あたるを背中を押す。
「うわっ!! 」
諸星あたる、川に落ちる。
2頁 不吉なことが起こるぞ!
どわしゃーん
雲水、橋の上から川に落ちた諸星あたるを見下ろす。
「お、遅かったか…… 」
川の下から
バシャ
諸星あたる、
「なにすんだよーーっ!! 」
川べりにて、雲水
「飛びこむ気はなかったとな? ウソをつけ!! 」
諸星あたる、シャツを絞りながら、
「女にふられたぐらいで死んでたまるか!! 」
雲水、腕を組んで
「おぬしの背中に死相がでておったぞ! だからわしは助けようとして…… 」
諸星あたる、服を着て、
「つき落としたわけね…… 」
諸星あたる、後ろをふりむき、
「気分が悪い! 帰る!! 」
雲水、諸星あたるの背をさして、
「あ、これ! そっちの方角に行ってはいかんちゅうに!! 」
雲水、諸星あたるの顔に顔を近づけて、
「不吉なことがおこるぞ!! 」
諸星あたる、親指を立てて方向を示し、
「こっちに行かないと帰れねーんだよ!! 」
雲水、汗が吹き出、歯ぎしりで、
「お、おぬしの顔… 」
諸星あたるの顔を指さして、
「ものすごく悪い!! 」
諸星あたる、バッと両手で顔を覆う。
3頁 帰り道
雲水は眼窩を殴られ、血が出ている。諸星あたるの背を見ていう。
「わしがいいたかったのは……… ものすごく不吉な人相だと……… 」
諸星あたるは背を向けたままいう。
「最初からそういえばいいのだ!! 」
道を歩くふたり。
雲水、諸星あたるを見あげ、
「おぬしの面相は物の怪にとりつかれておる!! 」
諸星あたる、ポケットに手を突っこみ、
「へっ、なにが物の怪だ! 鬼でも宇宙人でももってこい!! 」
諸星あたる、自宅の前に集まる群衆を見つめて、顎に指をつけ、
「あれ? なんだろ……… うちのまわりに……… 」
群衆は一斉にふりむく。
「あっ、諸星さんの坊っちゃんが帰られたわ!! 」
「なに、あれが息子さんですか!? 」
諸星あたる、群衆に囲まれる。新聞記者が出てくる。
ド
「諸星あたるくんですね!? 」
「ご感想を!! 」
諸星あたる、取材陣、カメラマン、記者、雲水に囲まれ、
「な… なんですかだしぬけに… 」
他のメガネをかけた新聞記者、
「おや、まだ何も知らないんですか!? きみはいま世界中の注目を集めてるんですよ! 」
諸星あたるの母の登場(和服姿)、
「あたる!! 」
諸星あたる、
「かあさん、どうしたんだよ!? 」
あたるの母、諸星あたるの手をつないで走る。
諸星あたる、
「なにがあったんだ!? 」
あたるの母、
「くればわかるよ!! 」
4頁 家で待つ鬼
玄関にて、
あたるの父の登場、三宅しのぶは再登場、
あたるの父、
「あたる帰ったか!! 」
三宅しのぶ、
「あたるくん!! 」
諸星あたる、三宅しのぶを指さして、
「あれ、しのぶどうしてうちに!? 」
三宅しのぶ、
「わたしニュースを聞いて… 心配で! 心配で! 」
マスコミたちは諸星あたると三宅しのぶに、
「とにかくご対面を!! 」
ドヤドヤ
諸星あたる、
「だれかきてるのか!? 」
あたるの母、(あたるの母の両脇にはあたるの父としのぶがいる)
「気をしっかり持つんだよ!! 」
諸星あたる、引き戸を開けながら、
「しっかりもなにも、わけがわからないじゃないか! 」いったいだれがき…… 」
諸星あたる、のけぞる。
「たわ〜 」
巨大なリーゼントの髪の鬼があぐらをかいて小さな扇子をもって、お茶を飲んでいた。茶菓子もある。黄色と黒の宇宙スーツを着ている。胸毛が見える。角と牙が見える。怖そうだ。
「おかえりやっしゃ〜!!」
5頁 鬼っ娘、登場
諸星あたる、一升枡を抱え、目をつぶって大豆をまく。
「お、鬼は〜外〜〜〜!! 」
巨漢の鬼は笑いながら、
「あやや! わしインベーダーだんがな! 」
諸星あたる、のけぞって慄き、
「インベーダーがどうしてここに〜 」
巨漢の鬼は、でかい顔であたるの顔に近づき、
「落ち着きなはれ! 」
諸星家の風景、暗雲が立ち込める。
ゴロゴロゴロ…
家の外にいる群衆はさけぶ。
「あ!! 」
ピカ!
真っ暗になった空にサナギのような宇宙船が現れる。
群衆のひとりはさけぶ。
「UFOの母船だ!! 」
雷が落ちる。
ガラガラガラ
ピシャーン
群衆の影がさけぶ。
「わー!! 」
しま模様のミニスカートとロングソックスをはいた女性の後ろし半身姿が現れる。
シュー、と身体に電流をまとっている。
群衆のひとりで三河屋の主人がさけぶ。
「ああっ!! 」
諸星家の部屋にて、
諸星あたるが訴える、
「えーっ、なんでおれがインベーダーと勝負しなきゃならないんだよーっ!! 」
6頁 鬼っ娘と鬼ごっこ
記者は部屋に入りこんでいる記者たち、そのひとりがしゃべる。
「彼らは地球を侵略するにおあたって条件をひとつだしたのです! 」
巨漢の鬼は諸星あたるを腕に引きよせ、
「わてらのコンピューターが適当に選んだ地球人と勝負して、もしもわてらが負けたらおとなしく帰りまひょ!! 」
諸星あたる、自分を指さして
「お、おれがそれに選ばれたのか!? 」
巨漢の鬼、
「そうだす!! 」
雲水、現れる。
「そーら、やっぱり物の怪につかれておったわ!! 」
部屋の周りは新聞記者で埋まっている。
あぐらをかいて座る諸星あたるは雲水にツッコむ。
「勝ち誇るなー!! 」
三宅しのぶは諸星あたるの後ろから抱きつく。
「だめよっ! 鬼なんかとケンカしたらあたるくんは死んでしまうわ! 」
諸星あたる、
「そ、そうだっ! 鬼は外!! 」
巨漢の鬼はその顔を、諸星あたるの顔に近づけて、
「オニはあんさんだっせ!! 」
諸星あたるはムキになって、
「鬼にオニよばわりされるいわれはない!! 」
鬼の子の足(だけ)がコマに登場。
「勝負っていうのは、鬼ごっこのことだっちゃ! 」
部屋であたる、しのぶ、巨漢の鬼が、鬼の子を見つめる。
部屋で記者団とあたる、しのぶは正座をしている。
記者たちはさけぶ。
「えーっ! 鬼ごっこ!? 」
諸星あたる、その美しさに驚く。
「はっ」
角の生えたロングヘアーのビキニ姿の鬼の子のシルエットがしゃべる。
「ふーん、こいつがうちの相手かや!? 」
7頁 ラム、登場
廊下より、鬼っ娘が登場。引き戸に右手をかけて、全身の姿だ。(以下アニメの色)緑色のロングへアー、黄色と黒のストライプのビキニ姿に膝から下まであるロングブーツだ。
「うち、ラムだっちゃ!! 」
諸星あたる、巨漢の鬼に話しかける。
「か、彼女と鬼ごっこするのか? 」
巨漢の鬼、
「そうだす!! 」
巨漢の鬼、諸星あたるを指さして、
「あんさんがオニになって十日以内にラムのツノをつかんだら勝ちや!! 」
ラムは背景で立つ、諸星あたるは口に手をいれ、でれでれ状態でしゃべる、
「しかし……ツノをつかむには体をつかまんと……… 」
三宅しのぶ、あたるにツッコむ。
「あたるくん!! 」
ラムは両手を首の後ろに組んで引き戸にもたれ掛けて得意げにいう。
「うちはそう簡単にはつかまらないっちゃ! 」
諸星あたる、真横にいるしのぶの前で、でれでれになってしゃべる。
「そうはいかん! 必ずこの手に抱きしめてみせる!! 」
三宅しのぶは、ラムの横を通って部屋を出ていく。
「女ったらし!! 」
ぷんぷん怒って部屋を出ていくしのぶを、腕を組んでながめるラム。諸星あたるの顔は引っ掻き傷だ。
「ちちち… 」
記者たちがあたるにたずねる。
「諸星くん、きみの使命は重大ですね!! 」
「なにかひとこと! 」
諸星あたる、あぐらをかいて、腕を組んで、真面目な顔をして答える。
「地球のためです、しかたないやりましょう!! 」
8頁 諸星家にて(諸星あたるについて)
夜。諸星家。
居間。
四角いテーブルに、諸星あたる、父、母、雲水が座布団に正座している。
雲水、あいさつを始める。
「私は旅の僧、錯乱坊と申します! 」
あたるの父、
「錯乱坊様でございますか!? 」
錯乱坊、無表情でいう。
「チェリーと呼んでくだされ! 」
あたるの父、ズッコケる。
諸星あたる、はげしくツッコむ。
「おのれはそんなくだらん冗談をいうためにあがりこんだのか!! 」
あたるの母はチェリーに真剣に訊ねる。
「あの〜、それでうちのあたるは顔がどうのとか… 」
あたるの父は両の拳をにぎりしめて訊ねる。
「そんなに不吉な人相なのですか!? 」
チェリーは汗をかいてあたるへ答える。
「さよう、一見は平凡な顔立ちだがまれにみる受難の星を背負っておられる! 」
チェリーは四人に話をつづける。
「なにかご両親に思いあたることは!? 」
あたるの父は答える。
「はあ……… そういえば………」
あたるの母は口に手をあて父に、
「あたるが生まれたのは13日の金曜日でしたかしらね、あなた!! 」
あたるの父も答える。
「確か、仏滅も重なってたはずだ……… 」
あたるの母はさらに思い出したように、
「産声と同時に地震があったわね! 」
あたるの父は手を打って答える。
「あれでうちの茶碗はおおかた割れたんだ! 」
あたるの母は父の袖に手を添えて、まるで思いでを語るように、
「あなたときたら、あわてて逃げようとしてゲタの鼻緒を切ってしまって……… 」
父は和服の袖に手を入れて、
「だっておまえ、仏壇が倒れておれはおそろしくなって……… 」
9頁 鬼ごっこスタート
さまざまな幟「いんべーだーごーほーむ」「がんばれ」「がまの油」「日本一」がたちならぶ、宇宙服を着た地底人(解説の山田さん)も駆けつける。
アナウンス。
《さあいよいよ地球をかけた鬼ごっこが開始されようとしております! 》
実況のマイクの前に二人。サラリーマン風の男が地底人に話しかける。
「解説の山田さんなにかひとこと! 」
地底人は答える。
「えらいこっぴゃ! 」
《なお、この試合のもようは全世界に衛生生中継されております!! 》
グラウンドにて、
二台のカメラと群衆が見守る。
スタートラインの位置で、諸星あたるは屈伸をして準備運動をする。黒猫がすまして通り過ぎる。あたるは胸に4のゼッケンをつけ、背に腕を組んで余裕で立つラムを睨む。
「ふん! 勝てばおれは英雄だ! 縁起かつぎにならあ!! 」
ダーン
諸星あたる、走りだす。
ワーッ
あたるは動かないラムに近づく。
ダダダ
路上の応援者のひとりがいう。
「おい、ラムが走らないぞ!! 」
あたるはラムに飛びつく。
「つかまえ…… 」
10頁 空飛ぶラム
諸星あたるの腕からすり抜けるラム。
「と、飛んだ!! 」
ワーッ
スタッ、空中に止まるラム。
ラムは振りかえる。
「ここまでおいでー!! 」
タッ
逃げるラム。
あたるは追いかける。
「ま、待てっ!! 」
ダッ
11頁 世界の応援
路上、
群衆があたるを応援する。
「宇宙人 GO HOME」の手もち看板、小さな日章旗が振られる。
追いかけるあたる。逃げるラム。あたるはさけぶ。
「ひきょうだ! 飛べるとは聞いてなかったぞ!! 」
逃げるラム、振りむいて答える。
「たんなる研究不足だっちゃ!! 」
応援者が大勢いる放送席、マイクに向かって喋る世界各国からのアナウンサー、
《がんばれ諸星くん!! 地球の運命はきみにかかっているのです!! 》
《This is a pen!! 》
《松花皮蛋 乾炸茨茹 糖醋金鱼 芙蓉蟹》
《八宝菜!! 》
ラムはひょいと躱わす。
あたる、ラムを逃す。
《あーっおしい!! 》
《I’am a boy! 》
ジャンプして手を伸ばすあたる。さらに上に飛ぶラム。
《冷麺!! 》
《I love you!! 》
《あーっもうちょっと!! 》
群衆の中にチェリー登場。
「むだなことよ!! ろくな結果にならんという相がでとるわ!! 」
街の夕日の風景、下町の向こうに高層ビルが見える。
《日没です! きょうはついにつかまりませんでした!! 》
《あすに希望をつないで本日の実況生中継を終わります!! 》
12頁 残り半分、掴まらないラム
二日め−。
ダーン
道路標識と高木の草の風景、
街の道路にて、
諸星あたるはラムを追う。
並走するトラックの荷台に、チェリーとあたるの母が乗る。
スピーカーで叫ぶあたるの母、
「あたるっ! 勝てば英雄だよっ!! 」
チェリーは冷静にツッコむ。
「しかしあの人相ではのう……… 」
ラムのブーツの底で頭を踏まれるあたる。
「黙っててくれ! 」
三日め−。
夏のような陽射しが、空を飛ぶラムと地面を走るあたるの鬼ごっこのシルエットを映しだす
「うすのろ〜」
「なにやってんだ〜〜〜っ!! 」
群衆に囲まれたあたるは、こんどは世間に責られる。
「諸星くん、きょうもだめだったらねーーーっ! ねーーーっ! 」
「負けたらどう責任をとるの!? 」
「勝算はないの!? 」
テレビにラム親子が映し出される。
「残りの日程はあと半分だっせ! もう地球はわてらのもんや!! 」
諸星家の居間。
テレビはラムの父親の顔のアップ。
座敷に四角い机の中央にみかん。
父は残念な感じでいう。
「地球が占領されたらおまえは一生鼻つまみものだぞ! 」
母は呆れ顔でテレビを見ている。
「あーあ、産むんじゃなかった! 」
あたるはさけぶ。
「うるさい!! 」
13頁 責任重大、諸星あたる
夜。
諸星家の二階。あたるの部屋。
窓は空いていて、背の高い木が見える。
畳の部屋には奥と手前に鉄アレイが置いてある。
勉強机に座ったあたるはうつ伏せになっている。
「あー軽率だった… 」
「地球が重くなってくる!! 」
廊下から声が聞こえる。
「あたるーお客さんだよー!! 」
勉強机に突っ伏したっまあたるは答える。
「取材ならおことわりだよー!! 」
三宅しのぶの登場。
「こんばんは!! 」
あたるは顔をあげる。
「錯乱坊(チェリー)もいっしょじゃ!! 」
チェリーも右手をあげて登場。
立ち上がったあたるはいう。
「おまえは帰れ!! 」
しのぶはあたるの前に正座をする。
「あたるくん勝てそう!? 」
あたるは椅子に腰かけ、力なく答える。
「聞かないでくれ… 」
腕枕から天井を見あげてあたるはいう、
「おれがバカだった… まさか飛べるとは思わなかった」
三宅しのぶはいう。
「あなたが悪いのよ! ラムの色香に迷って軽がるしく引きうけるから……… 」
あたるは顔面を手で覆いながら、
「そうだったのだ… グラマーでも敵は敵…… 」
チェリーがヌッと出てくる。
「おぬしが悪い!! 」
立ちあがったあたるに頭を殴られるチェリー。
「わしがいうと怒るのか… 」
14頁 八日目、ラムのブラを剥がす
世界各国の実況。
《すでに八日めが暮れかかろうとしております…… 》
諸星あたるは必死にラムに飛びつくがラムは飛びあがって躱わす。
《両者に疲れがみえ始めました!! 》
諸星あたるは飛びつく。
「くそお〜っ!! 」
ダッ
ガバッ
「きゃーっ!! 」
ラムは諸星あたるに胸をつかまえられて、さけぶ。
ワーッ
「やったあ!! 」
観衆は盛りあがる。
バシ
諸星あたるはラムに殴られる。
ベリッ
諸星あたるは、ラムのブラジャーをにぎったまま地面に落っこちる。
ドッ
15頁 悔しがるあたる
夕暮れ。
ラムは宇宙船の母船に帰っていく。
《おしいっ! 実におしかった…… ラムちゃんが帰還します》
諸星あたるは地上で尻をついて、右手にラムのブラジャーをつかんだまま、母船に帰るラムを見上げる。
「あ…… 」
諸星あたるは夕陽にかすむ母船を見つめる。
「あ… 」
ラムのブラジャーを握りしめ、涙をながす諸星あたる。
「くくく… 」
街を見おろす高台の道の向こうにひとつ高層ビルが立ち、それに沈む太陽が触れる。夕陽はラムのブラジャーを握りしめて道路にうずくまる諸星あたるを照らす。
《諸星くん泣いております! ラムちゃんの残していったブラジャーを抱きしめて泣いております………………》
《美しい青春の一ページです……がんばれ諸星くん! 負けるな諸星くん!きみにはあしたが、あしたがあるんです!! 》
《これできょうの実況生中継を終わります!! 》
16頁 あたるの部屋、ラム現る
夜。諸星家。
部屋で諸星あたるは腕立て伏せをする。横には鉄アレイがある。
「にじゅいち! 」
「にじゅに! 」
ドッ
諸星あたるは床に胸をつく。
空いている窓にラムが腰かけ、足をあげて窓枠にかけている。胸には何もつけてはいない。胸を両腕で抱いて隠している。
諸星あたるはさけぶ。
「いつからそこにいた!? 」
ラムはひとこと。
「返せよ! 」
諸星あたるは立ち上がって、
「なにを!? 」
ラムは両腕で胸を隠して、いう。
「最後にはぎとったやつだっちゃ!! 」
諸星あたるは座って、ジャージの胸の隙間からラムのブラジャーを取り出す。
驚いたラムは指をさしていう。
「おまえつけてたのけー!! 」
諸星あたるは舌を出して、ラムのブラジャーをぶらさげる。
「ほしけりゃここまでおいで! 」
ラムは手を窓枠につけて、
「鬼ごっこは朝から夕方までだっちゃ!! 」
諸星あたるはブラをにぎってラムに見せつける。
「とりもどしにきたんだろ!! 」
ラムは胸をはだけていう。
「よーし!! 」
17頁 あたるチャンスを握る
諸星家。一階。
居間。
あたるの父と母はお茶を飲んで、天井を見る。
二階では、
どしん☆☆
ばたん☆
ぶら下がる天井灯は揺れる。
あたるの父は和服の袖に両腕を入れて、
「トレーニングに精がでるなあ! 」
わーっ
あたるの母も上を向いていう。
「発声練習までやっているわ!! 」
二階では、
木にぶら下がった諸星あたるはブラジャーを口に咥える。ラムはあたるの腹に足をかけてさけぶ。
「かえせーっ!! 」
諸星あたる、ブラジャーを咥えたまま、
「いやだっ!! 」
ガヤガヤ
諸星家の敷地に住民が入りこむ。チェリーがいる。
ラムはとっさに胸を両腕で隠す。
「きゃっ!! 」
ラムは諸星あたるの頭をなぐる。
ゴチン
「覚えてろっ!! 」
ラムは月のほうへと飛んでいく。
諸星あたる、ラムのブラを咥えたまま、
「さてはあいつ、スペアを持ってないな… どうやら運が向いてきたぞ……… 」
18頁 あたるの逆転劇
ワー、ワー、ワー、ワー、ワー、
観衆が諸星あたるを応援する。
「ぐゎんばれ」「あたるくん〇〇」「〇〇守れ」など幟が立ちならぶ。
「きょうはがんばれよー!! 」
《きのうブラジャーを奪…。 もとい、一度つかまえたことが大きな自信となったのでしょう諸星くん、元気いっぱい! 》
諸星あたるは清々しい顔で両腕を輪にしてストレッチをする。
トン
テレビカメラが映すなか、諸星あたるは余裕の笑み。
「さーて、運だめしといきますか! 」
胸を抱きしめて隠すラムは一言かえす。
「ふん!! 」
ダーン
鬼ごっこはスタートする。
ラムは地上を走って逃げる。
あたるはラムの足元を掴もうとする。
が、ヒョロッと躱される。
諸星あたるは独白する。
(思ったとおり両手を使わないからジャンプ力が半減している……… )
諸星あたるは両手を広げて、ラムの上半身へと飛びつく。
「となればこっちのもんじゃ!! 」
ガバッ
諸星あたるはラムの上半身を抱きしめる。
「ぎゃっ!! 」
ラムはさけぶ。
鬼の形相になるラム、
キーッ
19頁 あたるタンカで運ばれる
街の住宅地。電線が見える。
バウーン
諸星あたるは、空をとぶ裸のラムに抱きついたまま離れない。足も絡んでいる。まるで抱っこちゃん人形のようだ。ラムは両手を振りあげてさけぶ。
「殺してやるーっ!! 」
諸星あたる、
「ばっ、ばかっなにをするーっ!! 」
ラムは諸星あたるを蹴り飛ばす。
「女をなめるなっ!! 」
ドカッ
ラムに蹴られる、諸星あたる。
「わー」
ドサッ☆
諸星あたるは住宅の屋根に落下して、のびる。
集まった野次馬はさけぶ。
「タンカだタンカだーっ!! 」
家の屋根裏の窓から住人が見てさけぶ
「げっ!! 」
ラムは屋根に足を組んで座って、
「ふん、気絶したっちゃ!! 一メートルも落ちてねえのに!! 」
タンカに乗せられ、運ばれるあたる。
野次馬はさけぶ。
ワー、ピーッ、ワー、ワー、ワー、ワー、
「しっかりしろー! ばかやろうっー!! 」
「あと一日しかないんだぞー! 」
「地球はどうなるのだーっ!! 」
諸星あたる、
「ふん、勝手なこといいやがって! 」
「てめえらはみてるだけじゃないか……… 」
20頁 ともだちの見舞い
諸星家。昼間。
「あたる、お友だちがお見舞いにみえたよー!! 」
二階の部屋。
布団に寝る諸星あたる。その脇に三宅しのぶと男ともだちがふたり見舞いにきた。
「しっかりしてくれよ! あと一日しかないんだぞ!! 」
そばかすの男ともだちはいう。
諸星あたるは天井を見上げたまま、
「あと一日……… 」
話をつぐ諸星あたる。
「あと一日で地球は占領され、おれは残りの一生を日陰者で暮らすのだ……… 」
もうひとりの天然パーマの男ともだちがいう。
「いまさらなにいってんだ!! 」
諸星あたるは起きあがり、
「あんなのに勝てるかーっ!! 」
諸星あたる、布団を噛んで、引きちぎる。
バリバリ
諸星あたるは妄想する。
(責任はすべて政治の貧困にある!! )
時の内閣総理大臣、福田赳夫、登場。
「勝てば世界的英雄ですから、諸星くんに国民栄誉賞をさしあげたい… 」
諸星あたるは壁をガリガリやる。
「政府の責任は〜〜〜」
天然パーマの男ともだちはいう。
「いかん! すでに根性で負けてる! 」
そばかすの男ともだち、
「なんとかたきつけないと地球がやばいぜ!! 」
天然パーマはいう、
「しかし、どうすればいいのだ!? 」
三宅しのぶ、
「……………… 」
三宅しのぶ、いきなりさけぶ。
「あたるくん勝ったら結婚してあげる!! 」
ズルッ
諸星あたる、ズッコケる。
ゴン、頭をぶつける。
21頁 しのぶから逆プロポーズ
諸星あたる、つぶやく。
「けっこん… 」
三宅しのぶ、
「違うわよ、バカねえ! 」
諸星あたる、ガリガリと壁を爪でひっかく。
「ウソだ〜〜〜おまえ助かりたい一心でウソをついているのだ!! 」
三宅しのぶ、左目に涙を一粒こぼし、
「わたし、あなたが一生日陰者で暮らすのがたえられないの! 」
涙とよだれまみれになった顔でふりかえる諸星あたる、
「そのことばまことか!? 」
諸星あたる、窓枠に足を掛けて、しのぶの肩を抱いて、空にさけぶ。手前では二人の男友達が見ている。
「明日こそがんばるぞー」
そばかすの友人、
「女は偉大だなあ…… 」
天然パーマの友人、
「単純な男だなあ……… 」
実況アナウンス。
《いよいよ最終日、諸星くん異常に元気!! 》
《ラムちゃんおされぎみです! 》
路上では大歓声、
ワー、ワー、ワー、ワー、ワー、ワー、ワー、ワー、
諸星あたる、必死にラムを追う。
「結婚じゃーっ! 」
ラムは胸を抱いて逃げる。
逃げるラムの先に、大きな三宅しのぶの顔が、かもめや波濤とともに映しだされる。
諸星あたる、
「結婚のためにはどんな卑劣な手段を使ってもいいのだ!! 」
ばっ、ラムのブラジャーを広げる。
22頁 あたる勝負を決める
諸星あたる、ラムのブラジャーをラムに見せつける。
「ラム!! これ! これ!」
ふりむくラム。
「あ!! 」
ふりかえって手を伸ばすラム。
「返せーっ!! 」
舌を出して、ブラを掲げる諸星あたる。
「おっとっと〜〜〜〜」
ガッ
ラムの手はブラをにぎる。
「かかった!! 」
諸星あたるはブラをつかんだラムを地上に叩きつける。
「結婚、するのだ!! 」
ビターン
諸星あた流はラムのツノをつかむ。
《ゴールイン》
23頁 いいまちがい?
観衆は大喝采。
ワーッ、クラッカーなどが飛び交う。
《やったあーっ、諸星あたるくんついに地球を守りぬきましたーっ!! 》
三宅しのぶ、手を組んで、
「あたるくん!! 」
三宅しのぶは、人混み、群衆を掻き分けてすすむ。
「あたるくん! あたるくん! 」
群衆は諸星あたるを褒める。
「おめでとう諸星くん!! 」
「おめでとう!! 」
諸星あたるはラムから離れずにニヤニヤしている。
「ひ〜っひひひ、これでやっと結婚できるのだ〜〜〜!! 」
ラム、諸星あたるにふりむき、いう。
「わかった! おまえがそこまでいうなら結婚してやるっちゃ!! 」
諸星あたる、くちびるを噛み、
「いっ!? 」
記者団が来てインタビューをする。
「おおっ! 諸星くんラムちゃんと結婚するのですかーっ! 」
「そういえば試合中結婚結婚とさわいでましたね! 」
ラムの顔じゃ女の顔になってあたるを見つめる。
諸星あたるは、記者団のいうことに驚く。
「い〜っ!! 」
24頁 あたる、ラムに好かれる
三宅しのぶ、現れ、諸星あたるが乳房をまるだしのラムを抱いているのを見て、
「ふん! 」
あせる諸星あたる。
「しのぶ!! 」
三宅しのぶ、
「なにさいつまでも抱きしめちゃって! 」
三宅しのぶ、
「せっかくだから結婚したら!? 」
の吹きだしを諸星あたるの頭上に落とす。
諸星あたる、逃げる三宅しのぶを追いかけ、ラムに抱きしめられ、
「あんまりだ! いまになって〜っ!! 」
三宅しのぶ、
「なによー、浮気者―っ!! 」
ラムの父、登場。
「ラム帰ろっ! わしらの負けや!! 」
諸星あたる、三宅しのぶにさけぶ。
「しのぶ〜〜っ!! 」
ラムは諸星あたるのシャツを引っ張り、父に、
「待って! うちプロポーズされたっちゃ!! 」
ラムの父、諸星あたるにいう。
「ラムと結婚するならわしらの星にきてもらいまっせ!! 」
諸星あたる、驚いて、
「げーーーっ!! 」
ラム、諸星あたるを抱きしめ、
「ツノもつけて、立派な鬼になるっちゃ!! 」
群衆に囲まれる。諸星あたる、ラム、ラムの父、あたるの母、チェリー、すこし離れて三宅しのぶ、
あたるの母、
「あたるっ! 盆暮れ正月にはきっと帰っておいで!! 」
ラムの父、
「ほんにええ婿じゃ!! 」
チェリー、
「さだめじゃ!! 」
諸星あたる、
「しのぶーーーっ!! 」
群衆、
「忍ぶ恋ですか、つらかったでしょうねえ……… 」
「親善結婚ですなあ!! 」
「いや―、大円団だ!! 」
一話、終わり
文字起こし(脚本化)で、
9,971文字