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800字日記/20221210sat/154「陽だまりの足湯」

ネコが、呻くように鳴いている。目覚める。七時。快晴。昨日、疑問だった物語の始まりにもどって見直す「何か」が頭にうかぶ。氷山の一角まで無駄を削って氷山全体(物語)を、どんな読者にも見える形にすることだ。乱暴にいえば八割の行間で二割の本文を補完する。

台所でネコが飢えるような声で鳴く。立ち上がって、キッチンに向かう。引越し後を踏んで和室を模擬1Kにしたので洋間の床に延長コードが一本白ヘビのように伸びるだけで二間はがらんどうだ。

皿にはエサがある。ネコが足に頭をこすりつける。目があって睨みあう。ネコは背を向けてベランダに出ていく。

腰をあげた勢いでそうじを済ませようと思ったが、和室の布団に寝そべる。日に当たる足は温かく眠りに落ちそうだ。目をつぶる。物語の主人公になって工作船の船底で何度も目覚める。何度か目覚めて、息をのんだ。

目に触れた物、漁船の匂い、滴る水滴、エンジン音、二段ベッドの取手、梯子、いびきをかく兵士、女兵士の胸元に見えるペンダント、これらすべてを律儀に文章に書き起こす必要はない。それらはいずれ物語の進行で明らかになっていく上、わざわざ書かなくとも読者によってはそれ以上が見えている。

物語の道具として女兵士の胸元に見えるペンダントが伏線上、重要(後になるよう)であれば、触れようとして手を掴まれた。でもいい。物語のうごきで女兵士の反応は違ってくるはずだ。もう一度、目覚め直そう。

左足の指先が温い。九時。首をもたげる。陽だまりができ、足先を足湯のように温めていた。布団から体を斜めにして両足を陽だまりに浸ける。両足の指の末端の血管がひらきじんじんと温まってくる。陽だまりにネコがやってきた。
ネコの全身の毛はボサボサだった。久しくネコの毛を梳かしてなかった。ゴム櫛で梳くがネコは固まったままじっとぼくを見つめている。
ハッと気がつく。
ここ三日、執筆やら読書やらにかまけてネコと遊んでいなかった。
(800文字)

以下は、今日のサイクリング備忘録の写メ(自分用)。

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蒼井瀬名(Aoi sena)
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