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ブンガクの流行病20230106fri183
忘れもしない0:29分。ぞっとした。
あるマンガの原作の7頁の冒頭を書いていた。文は下記だ。
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片眼に鬼眼を宿した遙は、油揚げの香ばしい臭いがたつ豆腐屋の角を曲がる。遙の背後では生き霊たちはぞろぞろと数を増やしてついてくる。暗黒の瘴気は街をおおい尽くさんばかりに膨れあがる。
一見、なんとなしの状況説明の文章だ。が、ぼくにとっては大きい一文だ。
ぼくはこの冒頭をいく分こねくり回していて、指がピタと止まった。
物語では主人公了(りょう)は時空を歪ませるほど精神を病んでいる。現実で虐められ現実を避けるために部屋で一人ノートに空想を描いている。
先の冒頭は、了の母の遙、遙の片眼に宿った「鬼眼」なる魍魎、角の豆腐屋、油揚げの香ばしい臭い、遙の背後にぞろぞろとついてくる生き霊たち。増える生き霊たちで街は覆われる、それら自体が了の空想世界かもしれないという構造だ。
今までのぼくは世界を描こうとするとき「ここは了の夢のなかだ」とか先の冒頭のなかに「まるで了が夢で描くような」とかを言葉で、筆者から直接に読者に状況を規定していた。この読者へ「言葉」をつかって状況を直接的に規定する行為(言葉でする説明)は筆者のエゴだ。(もちろん、脚本のト書きやエンタメやラノベはかまわない。ぼくもエンタメ書きだ)
純文学の新人賞で選考委員が「読者の無意識に訴えかける一文を」だとか「人々の精神に吸収され、価値判断の一部として取り込まれる文章を」だとかいう文句をよく見かけるが、つまりそれは、愛を語るときに筆者は「愛」という言葉を安易に使わずに「愛のカタチ」を表現して、さらには「愛とは何か? 」を読者に伝え(訴え)かけることにあると思う。
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話は逸れた。戻す。
パラドクシカルな話だが、言葉をあつかう小説(物語)は文字で表現をするものであるのにもかかわらず、文字だけで説明しきってしまうと人間の無意識のところに感動が伝わらない。そういう習性がある。
映画「男はつらいよ」の寅さんにいわせれば、
「それをいったら、おしめえよ」だ。
ブンガク的寅さんにいわせれば、
「それを書いちゃあ、おしめえよ」だ。
もう一つ、ぼくに恩恵をもたらした。
ここ数年ずっとぼくが自分の文章で悩んできた宿痾(しゅくあ)のようなブンガク病だ。
公募ガイドの添削講座の東京芸大の准教授に「どうも既視感を感じる」といわれつづけて、ぼくは三か月間、寝こんだ。
それも0:29分で多分、消えたとおもう。
さっそく、書いてみる。
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放課後、ぼくは校舎の裏に呼びつけられた。足元の小石を蹴っていると手をにぎられた。ふりむく。紗子の手だった。彼女は笑っていた。ぼくはやり返そうと彼女の腕にふれる。彼女の冷たい腕はビクン。ふるえた。
既視感はどこにもないと思う。言葉は自然にでてきたし、文体はどの作家の真似もしていない。もしこの文が、過去の名文家の文章にあるとすれば、中学生が作文でなにを書いても盗作(盗用)だといわれるはずだ。
①状況を描写する(言葉で説明しない)。
②既視感を消す。
ぼくを悩ませていたブンガク二大病が消えた。
次のステップに行こう。
(1268文字)
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