800字日記/20221028fri/112「たゆたう記憶とカメムシ」
ガシャン。下の道路でゴミを集積する金属製の網の箱が閉まる音がした。塵埃車がきたとなるともう昼過ぎか。目を開ける。今日はくもりだ。と思った矢先、おや? カーテンが開いている。枕元で猫がひなたぼっこして、ぼくを見ている。
夜明けにネコをベランダに出してそのまま洗濯機をまわしたのか。その時に窓を閉め忘れたか。としても、西のこの部屋のカーテンが開いているとは関係ないが。そう思っていると、芋づる式に昨日の記憶がよみがえる。
昨晩の深夜二時にみそ汁を作って食べた。具はキャベツと豆腐と鶏のつくねだ。それからまた、頭のなかはスーパーでの買い物にタイムスリップ。
財布をひらく。ごぼうが買えない。キャベツをえらぶ。レジに並ぶと県道を挟んだ目の前に弁当屋の看板が光る。今晩の一晩をしのぐなら、のり弁のほうがコスパは良い。思った。
温め直したみそ汁の、キャベツのこのちょうど良い歯ごたえは弁当屋は出せまい。いや弁当屋は簡単に出せるのかもしれない。
そうじのテンションを上げるために「ブルース・ブラザーズ」をかける。ほうきの柄をにぎって腰をふる。なぜか「ザ・ドリフターズ」を思いだす。するとまたなぜか「加藤茶」と「志村けん」の「ひげダンス」を思いだす。意識の流れとは不思議だ。頭のどこでなにとなにが繋がっているのだろうか。床で腰をふる足元に、ネコが頭をすり寄せてくる。ほうきの先で叩く。ネコはそれが嬉しいらしく腹を見せてよろこぶ。
そうじにケリをつけてネコとベランダに出る。洗濯機の脇に緑色のカメムシがいた。ネコはおそるおそるカメムシに鼻を近づける。
「臭いよ」
と言う。
カメムシとネコ。なんだか慎ましく思って、部屋からスマホを持ってきてカメラを近づけると、カメムシは羽を広げてブーンと飛んでいった。
サイクリングにでる。路地裏の野良猫、
扉は閉まって辨天宮と掘られた祠、
沈む夕陽をながめる。
県道が走る右手にパチンコ屋が煌々と光る。
帰る。
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