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800字日記/20221217sat/161「本当のことは言えない。だから小説を書く」
昼、図書館のスタッフと揉めた。その晩、京都で知り合った彼に連絡をとった。すぐ電話がかかって来た。ぼくは彼に、自分の本性を隠すように笑い、一方的に捲し立てた。三十分だけ、という話だったが会話は二時間にふくれ、午前一時をすぎる頃には、彼は僕の話を聞き疲れたようすだった。
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「次回、ちゃんと謝っておくんだぜ」
そう言って彼は電話を切った。
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違うんだよ。
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と、ぼくは心で叫ぶ。図書館でだれだれと揉めたとか、どこへ引っ越すべきかなとか、小説の自分の文体に悩んでいるとか、そっちの最近の具合はどうだいとか、ぼくが本当に伝えたかったのは違うんだ。マシンガントークのなかに隠れていた、孤独なんだよ。
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だれにも伝わらないんだよ。だれかに自分の孤独を打ち明けようとするたびに、なぜか饒舌になっちゃうんだ。自分を晒そうとすると、ぼくは、まるで東京駅でなんの前触れもなく穿いていたズボンとパンツを脱ぎ、通行人にケツの穴をめくってみせるかのように恥ずかしくなっちゃて、声が高くうわずって、無意識に話を逸らし、意味もなく口から笑いがあふれ、間が怖くってそれを埋める質問がとびだす。それらが機械的にくり返されちまうんだ。
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じつは三ヶ月、いや半年前の夏から君に連絡をしようと思っていて、たまたま今日、図書館の事件がきっかけでようやく君に連絡ができた。だけど、けっきょくぼくは、ぼくの腹の奥底に眠る「孤独」のひとことがいえなかった。それが、この、ぼくなんだ。
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でも、君と話せて、ぼくは自分という人間の本性の一端を見ることができた。
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ぼくという人間は、他者に近づいて相手を自分の巣穴に引きこむ醜い獣だ。さらにうす暗い奥でじっと噛みつくのを狙っている。それは小説を書くぼくそのものだ。
自分を描くという行為は、うす暗い巣穴から引きずりだした獣を、日に晒し、客観的な眼で暴きだすことだ。
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「オナニーもちゃんと書いてんだろ」
自分の陰部を、どのように書くか。だろ。
(800文字)
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