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ぼくプロVol.6「竜胆-」Vol.14【五分前の世界、Ver.5.❷】のフィードバック

noteでもおなじみの美樹香月先生にストアカで授業を受けている。

前回の記事(今回のフィードバック元の原稿)は下記

最後に本稿も掲載してます。

さて、まず復習だ。

真剣に小説を書いている読者には役に立つと思う。

編集からよく指示が出る言葉を列挙していきます。じぶんだけで小説を学んでいる人は絶対に意識してください。意識するだけできっとあなたの役に立ちます。(プロの作家がプロの編集とやっていることです)

❶【初出】☞「物語で初めて出た言葉」

編集に書き込み(いわゆる赤)をもらった場合、「それだけの説明では読者はわかっていません。もっと読者にわかりやすく提示、展開するなりしてください」

❷【既認識】☞「既に読者の認識が終わっていること」

「既認識を繰り返しています」(削除か、処理をすべし)

❸【二重表現】☞「いつもの常連」☞「常連」か「いつもの客」に(本文を参照)

❹【中間的視座】☞「客観的描写」
どちらがダクトを認識しているのかは、はっきりとしていない。ここが転換のチャンス(本文を参照)。

❺【転換】☞「人称の視座が転換したことが唐突に感じます」

三人称の転換は、転換の前に、1文を置くことで解決することができる。




「竜胆-」Vol.14【五分前の世界、Ver.5.❷】

アパートの裏庭では、朱色の木槿が血が燃えるように咲き誇っている。屋根に太陽があたってトタンが熱でパリパリと音を立てる。男の部屋で女は目覚めた。窓の隙間から蝉の声が一斉に飛びこんでくる。
例1)となりに寝ている男は昨日、祇園祭で会った男だ。(ボツ)
例2)男がとなりで寝ていた。(採用)
(文)蒼ヰ瀬名
女は男の腕をそっと退けた。陽があたる畳に男の腕がころがった。男の腕の先の指に、乾いた女の経血がついていた。汗と垢で黒くひかる布団にも女の血があった。男は女に背をむけたまま寝息をたてている。昨晩、女は祇園祭で初めてであった勢いのまま男の部屋になだれこんだのだった。
女はじぶんの服をさがした。書生机のうえにきれいに畳んであった。女は服を着た。腕時計をつける。15時だった。

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女が経営する喫茶店のランチ営業が終わって、片付けをしながら、夜の営業の準備にとりかかっていなければならない時刻だ。

(文)美樹香月


女は大きく肩を落とした。

三人称のなかに一人称を無理やり入れると読者がわからない。
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(女は☜カット)畳にあおむけになった。傘のない裸電球がぶら下がっている。天井からぶらさがる電球をみつめながら考え計算を巡らせた。いまからなら夜営業に間に合う。

主語の重複に気をつけるべし


三畳の男の部屋にはなにもなかった。布団のほかに、リュックがひとつあるだけだった。なかに紙と筆記具があった。
男のリュックから紙とペンを取りだして女は皺くちゃのシャツのままうつ伏せになって手紙を書いた。書いた手紙をハート型に折った。
部屋をでると共用の水場があった。手を洗おうと蛇口を捻った。泥のような液体が勢いよくでてきた。京都の修繕のしていない古い家屋によくある、いわゆる鉄管ビールを流したまま女は東側の小窓を開けた。日陰が東へ伸びていた。蛇口から黒い砂鉄のような錆がでおわると冷たい真水に変わった。手で水を掬って飲んだ。冷たくておいしかった。女は手を洗ってハンカチで手を拭いた。
音を立てずに部屋のドアを閉めると6とかいてある。男の部屋番号にちがいなかった。となりの5に、ひとの気配をかんじて女はいっぽ後じさった。不気味だった。立ち止まって耳を澄ませる勇気はなく女は狭く急な階段をいっぽ、またいっぽ軋ませおりていった。
木の手すりに針金で括られただけの郵便受けのなかにハートに折った手紙を入れた。すぐにまた手紙をとりだして内容を確認する。
「昨夜は(朝までですね。笑)、とても楽しかったです。よる、あなたのへやの窓からランタンがみえた店それがわたしがやっているお店です。ごちそうします。一度、お立ち寄りください。まどか。」
靴を履いた。裏庭にでた。
裏庭の竹林の翳にベニヤと塗炭で囲っただけのトイレがあった。
プラスティックを踏んだような感覚があって女はシューズをあげる。陽にあたらぬアパートの東側の緑に湿った土いちめんに、蝉の抜け殻が転がっていた。
路地から、男のアパートの裏庭へ、鼻を湿らせた黒い子犬が入ってきた。首輪がついていた。
路地にでると電柱に迷い犬の貼り紙があった。女は一歩さがって裏庭のトイレのほうをみた。
女は携帯をだして電柱の貼り紙に電話をしようとしたがバッテリーが死んでいた。女は裏庭に戻って黒い子犬を抱え表の路地に放した。ベビーカーを片手にビニールプールを膨らませている父親がいた。ふたりの男の子が水鉄砲で撃ち合いをしている。ほかの子らは水ふうせんを投げあっていた。
子犬は地元の子どもが遊んでいる裏路地へと消えていった。子どものひとりに見知った顔があったが無視した。
路地にでた女は歩きだした。腕時計をみる。三時五分。夜の営業にはまだ間にあう。

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真夏の古都の盆地の昼下がりのねばり気が、肌にねばついた。(指摘、直しの対象文、上の画像)

女からしたたり落ちていた水は、地面に点々とシミをつけた。そのシミが夏の日差しにゆっくりと乾いていった。(美樹香月)

真夏の昼の陽射しと、焼けた路地を歩く女の体温で、濡れていた白のカットソーの皺から、水分がみるみると蒸発していった。(蒼ヰ瀬名)


あっ、男の後ろから声がきこえた。
ベチャ。振りかえった女の胸元で水ふうせんが弾けた。
子どもらはポカンとしていた。
それから子どもらは笑った。
女もポカンとしていた。胸元が冷たくてひんやりした。浴衣をきた女の子が女の胸元を見て顔を赤らめていた。じぶんで白のカットソーの胸元をみると水で濡れて乳房が透けていた。
それからおとこの子らが水ふうせんを容赦なくなげてきた。見知った年長のおとこの子が指図をしているようだった。ベチャ。ベチャ。ベチャ。女の足元にいくつもの水ふうせんが飛んできた。みんな腹をかかえて笑った。
女は子どもらを無視して店へとあるきはじめた。
バチン。女の背で水ふうせんが破裂した。
背中がぬれた。子どもらは走ってにげていった。背中ではじけた水が生温かい機能だかれた男の愛液のようになって股に絡まってくる。下腹部が濡れた。女は昨晩の交わりをおもいだした。
女を濡らしていた水はみるみると蒸発した。
女は店に着いた。
女は向かいで打ち水をする老婆に会釈した。ガイドブックを手にしたふたりはのれんのかかっていない女の店をとおりすぎた。
女は外にのれんを掲げた。それからドア横の、ブリキのランタンなかに蝋燭の火を入れた。夜営業のしるしだった。
外に軽く打ち水をして桶を置き女は、甕をのぞきこんだ。波打つ水面にのれんとじぶんの顔がゆらめいている。藻にメダカが隠れているのがみえる。女は顔をあげた。はっとした。
女が店まで歩いてきた路地のさきにふるい木造二階建てアパートがある。きのう祇園祭で偶然であってそのまま抱かれた男のへやがみえた。
男の部屋の窓がはんぶんあいていた。女は目をほそめしゃがんだ位置から男のへやをみた。

路地に立つ電柱で男の部屋はちょうど隠れてみえなかったが女は、傾いででっぱった二階の男のかどべやに小さく手をふってみた。女は店に入ってすぐに夜営業の準備に取り掛かった。

カラン。まってたんだよ。まどかちゃん。
腰まきをつけ夜の仕込みの支度をしているそばから、常連が店に顔をだしてきた席はすぐに埋まった。店はカウンターの止まり木が四席あるだけの小さな珈琲店だ。
女が狭いカウンターのなかで食器を洗っていると、常連のひとりが、女に、知り合いかね? といった顔で外を顎でしゃくった。のれんの前に男が立っていた。男の顔は隠れていた。

店のドア横に太い蛇腹のダクトがつきだしていて、コーヒーを煎った薫りと焙煎された豆の白い滓が雪のように吹きでてきている。

男の名は焼汰という。(「男」☞「焼汰」視座の転換の1文)

男はのれんをくぐってドアを押した。

もしこの小説の「男」が最初から「焼汰」であったなら、

☞「焼汰」の視座に転換できる1文

焼汰は、のれんの前に立って、入るかどうかを迷って(いるようだった/円の視座になってしまう)いた。


男は目を細めた。まだ目が店内の暗さに馴れていないようだった。
男の視界が広がったようだった。

焼汰の視座だったら、「広がった」

男はドアを開けた右手の業務用の焙煎機とレジの間に立っていた。いらっしゃいませ。女は愛想笑いをした。
四隅に間接照明があるの雰囲気のある店にはクラシックが流れている。
女が立つ背後の棚には、ごつごつした素焼きの、縁がうすい青磁器の、取っ手のないマグ、小さい赤いエスプレッソカップなどが棚に並んでいた。
ようやく男の目が店内の暗さに目が馴れてきたようだった。男は、サロンを腰に巻いた女をためつすがめつみていた。
満席だったので男が帰ろうとすると、一番奥の、洒落た京友禅をきた老人が、わたしいま帰りますからどうぞ、といって男に席をゆずった。
男は礼をいって奥の席に黙って座った。
他の三人の常連も気を遣ったのか、五分も経たぬうちにかえっていった。
女は、壁にかかっていたロールカーテンの紐をするするとひっぱった。
西に傾き始めた真夏の陽射しが店内に入り込んできた。
店内が路地に顔をだすと、女に水ふうせんをぶつけた子どもたちが集まってきた。
子どもたちは店のなかの男と女を囃したてた。
女は男にメニューを渡す。
おれはここに飲みにきたんじゃない。男は勢いよくメニューを閉じ、女に突っ返した。
女はコーヒーを淹れた。女はなにか他に好きな音楽はあるか。男に聞いた。男は笑った。
男はカウンターのうえに郵便受けに入っていた手紙を広げ、これはどういう意味だ。と訊いた。

店のガラスの前に男に水ふうせんをぶつけた子どもたちがやってきた。
子どもたちはこんどはガラスに向かって水ふうせんを投げ始めた。水ふうせんのなかに赤や青や黄や茶色の液体が入れてあって、店のガラスはドロドロしたカラフルな液体で汚れた。男は鼻を鳴らして笑う。外で何かが破裂する音がして女は店をでた。
子どもたちが逃げていった。
のれんのしたにある甕が割れていた。路地のうえで藻に絡まったメダカがぴちゃぴちゃ跳ねていた。女は手ですくった数匹のメダカをコーヒーカップに移した。
メダカ。そのままじゃ死んじまうな。
男はケラケラと笑った。女は顔をひきつらせ笑った。

男は金も払わずに、店をでていった。


2022/01/13/Thu_03:16_Vol.14_Ver.5.2


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蒼井瀬名(Aoi sena)
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