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冒頭で出会うVol.15_書店のレジ
「これ、ください」
ペンコーナーから適当にえらびとった赤、青、茶のボールペンをぼくはレジのトレイにおく。ぼくの声がちいさかったのか、白いワイシャツに紺のエプロンをしている女性店員はふりむかなかった。予約商品の棚を整理していた。右のDVDレンタルコーナーでベルが鳴った。おかっぱの髪を、ふわりと、海月が傘を広げるようにして隣のレジに走っていく。ぼくはボールペンを握って隣のレジへむかう。
やはり瓜野だ。瓜野まなみ。小学二年のときの同級生だ。初恋じゃなかったけれど、ぼくと、男まさりの瓜野とはよく遊んだ。ワックスがけしたばかりの視聴覚室でたがいに寝そべってじゃれあってカンチョウして泣かせた。じぶんと変わらない胸を、ほらさわってみといって揉まされた感触が手に、小学生の瓜野の幼い髪の匂いが突然よみがえる。左頬に、青あざがあるようにみえる。そこだけ化粧は濃い。ぼくはじぶんの顔がゆがんでいくのがわかる。DVDレンタルのレジではスーツを着た男が、さっき買ったブルーレイの限定版の角が潰れていると訴えている。
昨日、蜂須らから聞いた瓜野の話を思いだす。最後の夏の大会が終わったばかりで、それまでサッカー部一辺倒だったぼくは、その話の内容はカルチャーショックだった。大会が終わって高校の学園祭で、たまたま他校の女子高生の彼女ができたけれど、最近は河川敷を自転車で走らせて一緒にかえるくらいが、ぼくの恋愛だった。蜂須は根岸と栗本とあとほかのクラスの知らないヤツとで瓜野を回していた。瓜野って、おまえ、むかし小学のころつきあってたのか、あいつおれによばれるとどこでも股をひらくんだ。このあいだなんか、ネギが押し入れのなかからぜんぶみてたんだ。ほら。そういってぼくはネギに盗撮させたセックス映像をみせられた。ぼくはギョッとした。蜂須は瓜野の顔を殴っていた。あいつ相当なMだ。殴ると放心したように痙攣して海老反りになってイクんだぜ。
「これ、ください」
ぼくは三本のボールペンをレジのトレイに置いた。ボールペンは汗びっしょりになっていた。
「360円になります」
瓜野の顔を見ることができない。エプロンに隠れた胸がおもってた以上に大きかった。瓜野の手が汗びっしょりになったボールペンを一本いっぽんエプロンで拭いていた。時間をかけているようだった。ぼくは視線をかんじた。
「テープでいいです」
ぼくは二つ折りの財布を開いて小銭をだそうとしたが、やめて。千円札をだした。一秒でも、時間を稼ぎたかった。瓜野にひとこと聞きたかった。
「640円のお返しになります。レシートは必要ですか」
「はい、必要です」
「ありがとうございました」
瓜野。そういいかけたが、ぐっと心で堪えてぼくは三本のボールペンをカバンに放りこんで店をでた。国道にでたガードレールにもたれかかって自動ドアがひらいたときレジをみた。瓜野はまた予約商品の棚で整理をしていた。
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書いて感じたこと、
⑴「ぼく」の時間が「瓜野(レジ)」の前でとまる。その描写をしたかったのだが。「ぼく」の「瓜野」に対する意識が噴きだす瞬間(それがカタストロフなのか?)を準備するために前説明が長くなった。
⑵、⑴でも小説のながれの基本のキ(前の師匠に教わったこと)には忠実に書きたかった。つまり「物語の時間を順序立てて書く」ことだ。直木賞系(とくに受賞作)の作品を読むと、これが徹底されている。だからこそ、読者の頭に(整理された時間が)自然に入ってくる。
⑶「る」「た」の使いわけ。これは今後も(プロになってからも)永遠に意識する。
⑷正直、書いていてずっと(いや猛烈に!)「主人公と瓜野を顔を合わせる」描写に切り替えようかとおもっていたが、それを振り切って「男と女のすれ違い」を描いた。結果、これが大正解だったとおもう。つまり下記。
⑸筆者がおもう理想が、物語の最高のシーンじゃない。
⑹「筆者」と「主人公」を乖離させる。
⑺筆者の趣味を物語(読者)に押しつけるな!
今回のこの学びはかなり大きい。よく⑷ができたと思う。成長した感がある。
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![蒼井瀬名(Aoi sena)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/68835914/profile_ebdb29924df664f9a6b2ac8e7c4e0a69.jpg?width=600&crop=1:1,smart)