アーリー・サマー(ジーン・シモンズに、あるいは、「奇跡」を巡るバラッド)
1
なぜ、不可能な物事が起こりうるのか?
なぜ、壊れてしまう愛が存在するのか?
目にすることのできる奇跡は起こるのか?
どんな奇跡が「紅海」を引き裂いたのか?
(あるいは、そんなものはないのか?)
偶然、列車から足を下ろした小さな街で、
彼は彼女と出会った。
彼女は空っぽの集会場で「演説」していた。
その話はソポクレスの不吉な叙事詩のようだった。
一方、彼は何でも売るセールスマンーー
トイレットペーパーからタイヤまで何でも。
痩せっぽちや太っちょ、誰にでも売った。
猫に犬用の骨を売ったこともあった。
彼女との出会いが彼の人生を変えた。
キッチンナイフを捨て、彼は聖書を手にした。
あの夏の始まりに、彼女を救えたなら、
彼は街を去らなかっただろう。
2
「神は愛」ーー彼女はそう話した、
ニキビの青年に、しわくちゃの老人に。
彼女の指差した先に、みんなは光を感じ始めた、
少なくとも、彼が、そう信じさせた。
彼女を支えるため、彼は必死に壇上で喋った。
カジノでギャンブルをせず、バーでビールも飲まず、
彼は群衆に聖書を説き、彼女は彼に心を開いた、
そしてボートウォークの下で2人はキスをした。
実際には、彼に「売る物」などなかった。
彼は地獄で、無い物を売ってきたのだ。
どんなに水を飲んでも喉は渇き、
預ける物などないのに銀行に並んでいたのだ。
物事とは何かを、彼は悟った。
彼女は傷つきながら、それを教えたのだ。
あの夏の始まりに、彼女を救えたなら、
彼は街を去らなかっただろう。
3
世界は残酷で、その住人たちは乱暴で、
写真つきのお喋りで隣人を傷つける。
新聞が彼を徹底的に叩いた。
許しを求めたが、彼女は彼を見もしなかった。
その時、目の前で奇跡が起きたとしても、
それには彼の過去を変える力などなかったろう。
彼女を失ってから、彼女の斧以外では、
けして壊れない鎖の檻に、彼は居続ける。
彼女は満杯の集会場で「演説」を始めた。
彼女は彼女の信者たちをその「家」に招いた。
「彼女は何と命を引き換えた?」と尋ねるなら、
「奇跡と」と彼は呟くだろう、
「彼女は彼らの前で奇跡となったのだ」と。
なぜ、不可能な物事が起こりうるのかーー
それが世界の「有り様」。例えば、奇跡で、
あの夏の始まりに、彼女を救えたのなら、
彼は街を去らなかっただろう、
永遠に。
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