ノー・テンプテーション
夜行性の動物たちが目をギラつかせ、
テリトリー内の獲物に忍び寄る。
彼らは物静かないじめっ子タイプの生徒ーー
教室の隅っこで、ジョン・キーティングの
『死せる詩人の会』の悪口を書き込むような。
そして君ーーフクロウのように小さく、
ピラトのように俗物な君、もしくは、
世界への嫉妬で、
今にも気が狂わんばかりの君ーーは、
神を裏切り者だと考え、
渦巻く海を指差し、「泳いで渡ってみろよ」と、
神を試そうとしている。
君は人の容姿を、マンガ雑誌を基準に判断し、
主張する、「美」とは
表紙を飾るためだけの理念であると。
君にとって、
愛とはホットドッグの早食い競争、
セックスとはチェスの世界大会、
時計のチクタクが、
常に君に迫る、「時間切れよ!」と。
君は信じてる、「チャーリーズ・エンジェル」が、
すべての犯罪者を独房にぶち込み、
ロシアのウクライナ侵略を阻止すると。
巨大なマライヤ・キャリーの踵が、
観覧車を引っ掛けて倒すみたいに、
すべての戦禍の街から障害物を
取り除けると、君は妄信している。
原理主義者たちが、君の前を、
「すべての科学者は悪だ」と主張しながら、
教会へと行進している。
プラカードに「進化論は幻想」とも掲げ、
ついには『種の起源』に火をつけ、
チャールズ・ダーウィンの首に賞金をかける。
もしも、本棚の本が、
その所有者自身を体現するのだとしたら、
神についての記述は何を意味するのだろう。
誰もが図書館で淫らになれるし、
エクスタシーについて哲学できる、
誰も他人の知る権利を奪うことなどできない。
指先の「スクロール」一つで現れる偶像たちから、
君のタマを守った方がいい、
今すぐにでも。
彼らの陰謀説や、
戦争についてのフェイク・ニュースが、
会ったこともない有名人の噂話を広める。
誰もが彼らの言説を称賛するのは、
それが、言葉が豊かな意味を持っていた時代の、
そう、「太古の書物」には載っていないから。
突然変異の預言者たちを、
崇める現代の信者にとって、
真実とは、安価なタロットカードの箱に、
プリントされたバーコードにすぎない。
君は独りぼっちでいる事実に狼狽し、
家を飛び出し、
店のショウケースに並ぶ自分を見つける。
君は午後を公園で過ごすが、
君のペンは少しの火花も散らさないーー
「内なる世界」とは、ドアの外側にはないのだ。
君はバーに逃げ込み、
若い女の隣りに座る、
壁から監視カメラが君を監視する。
彼女の目はお上品なバーテンに釘付けで、
君は仕方なしに、
彼女の肩のタトゥーに話しかけるが、
盗聴マイクがケツの穴で疼くみたいな気分になる。
さぁ、どんな気分だ?
ーー言っておくよ、
他からの誘惑など一つもないのだ、
神が君を見捨てるとき、
悪魔からの誘惑など、
そこには少しもないのだ。