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ひとりのピルグリム


一人のピルグリムが風船売りの少年に会った。
少年は、高貴な香水のような恋人について、
こう自慢する、「彼女は部屋を飾るんだ、
『信仰』でね」と。

一人のピルグリムは他人行儀な兄弟にも会った。
彼らは紛争地帯のカフェでお茶をし、
ゴミ漁りする父親の懐に施していたのだ、
「信仰」を。

 彼の「巡礼」の旅は、地下鉄のトイレから、
 灰皿工場の更衣室まで、あらゆる場所を巡る。
 田舎の宿で騙され、都会の海で流され、
 同情を引くような顔で切り抜けたこともあった。

彼は窓越しに、またはドア越しに、
あるいは壁の裏を、床の下を、
もしくはご婦人がいびきをかく寝室で、
「信仰」を探した。


ピルグリムは揺れる船で、水夫に会った。
場末のキャバクラで、ぶ厚い唇の娼婦にも会った。
痩せこけた尻をした踊り子にも会ったが、
誰も「信仰」など持っていなかった。

また、彼は大金を掴んだギャンブラーに会った。
浮気娘に貢ぐ、憐れなプレイボーイにも会った。
デザイナー志望の女子大生のくれたTシャツには、
「『信仰』って?」と書かれていた。

 彼女の接着剤のような面影が、
 彼の青いフードからハートを奪っていった。
 「愛は時には天使に、時には悪魔になる」と、
 彼女の丘の上の家から逃げ出す時、彼は叫んだ。

手品師のありふれた手品のタネのよう、
脚本家の描くタイタニックの沈没のよう、
映画評論家のパニック映画への辛口な批評のよう、
「信仰」とはーー。


猟犬が裏庭を掘り、骨を探すときも、
山猫が居間の柱を、爪で引っ掻く間も、
コヨーテが最初の石を投げ入れた後も、
一人のピルグリムは「信仰」を探した。

偽物の正義を振りかざす警官に捕まり、
毒入りケーキを作るパティシエに恨まれ、
湖畔でジェイソン・ボーヒーズに脅かされても、
彼は「信仰」を探すーー

 『無垢』とは、子供であり、
 自然の力で書かれた荒野の詩であり、
 それは『先験的』で、『経験』を超えていて、
 沈黙でしか語りえないもの。

それだからこそ、ポケットの中や、靴の中、
帽子の中や、タトゥーの中に、あるいは、
スープや、シャンプーの中にさえ、人は、
『信仰』を見い出さなければ、と。


ピルグリムは、詩の中で詩人に、
また、聖地へと向かう、同じ巡礼者との間に、
さらには、宝石を奪った略奪者にさえ、
「信仰」を見てとった。

彼が、もしもガンマンだったら銃を撃ち、
既婚者だったら妻の手を取り、
コメディアンだったらその舌を使い、
自らの「信仰」を語ることだろう。

 さて、
 彼が旅を始めたのは何百年前だったか?
 彼の家は朽ち果て、雪のように消えた。
 旅先で、これが最後の食事、これが最後の酒、
 そう呟きながら、ついに、
 考える時間はなくなっていってーー

一人のピルグリムが地図を丸めて片付けた。
長い旅路で、無口になった彼は時々考える、
これは罠師の仕掛けた罠だったのかとーー
「信仰」という名の。

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