見出し画像

ラブシック(「生」と「死」を巡るポエム)

リルとアルバートは思い思いに、
カフェの端と端にいて、
たわいもない会話を媒介し、
日常の中で混じり合った。
ことばは色であり、
音楽でもある。
2人はほぼ同時に、
恋の病いにかかった。

それは、教科書に何の記述がなくても、
めくるページすべてにくっついてくる。
画家のキャンバスに忍び込み、
彼の傑作を仕上げるか、もしくは燃やす。
乗り手を待ちわびながら、
美しいバイクのように暖機を続ける。
気まぐれに隠れんぼしようとするが、
リルもアルバートも隠れることをしない。

リルはアルバートに好きだと言い、
次に嫌いだと言う。
2人は電話を掛け合うのに、
デートではケンカばかり。
ハイだと思えば、
途端に落ち込み、
リルはタバコの灰を撒き散らして、
アルバートのガウンを焦がす。

哲学者は2人に頭を抱え、
道化師は2人を嘲笑う。
裁判官は2人を牢屋に入れ、
科学者は2人を切り刻む。
歴史家が2人を闘わせようとする、
彼女に盾を、彼に矛を持たせて。
しかし2人の恋煩いは、
ことばの両端の行き来にすぎない。

リルはどんなことでも彼を喜ばせ、
どんなことでも彼を怒らせる。
彼女の目が涙であふれると、
自分だけが彼女を悲しませるのだと、
アルバートは天才的に自惚れ、
愚かに悩んだ。
恋とは時に野暮ったく、
時に背筋が凍るほどクールだ。

それでもリルはアルバートが好きで、
アルバートもリルに夢中。
お互いのハートが他人に盗まれたら、
2人は相手を殺してしまうかも。
2人は同じ耳で、
同じ時計のチクタクを聴く。
2人はほぼ同時に、
恋の病いにかかったのだ。

いいなと思ったら応援しよう!