ハッピー・ソング
ダン・ダン・ディ・ディ・ディドン・ドン
その夜は台風で、戸を閉めきっていたーー
みんな退屈だった。
ミルトンが『失楽園』の話をすると、
私たちは、亡霊といる気分になった。
「夜の盗賊」が、薬局に盗みに入り、
鍵だけを壊していった。
私は、ただ似ているというだけで疑われ、
世の中は、ギャンブルのように移り気だ。
真夏の街では、昼まで眠るのもひと苦労、
私の部屋の温度は、上昇しっぱなし。
そんな中、薄着の彼女が私のベッドに現れ、
2人は、互いの頭をかき乱し合ったのだ。
あの時、私は君にイカれたんだ、
君だってそのはずだ。
「ダン・ダン・ディ・ディ・ディドン・ドン」
が耳に残り、夜も眠れなかった。
2人の顔と顔を向き合わせた、
その空間だけで私たちは生きていけたーー
世界の大半が、そこに詰まっているみたいに。
ダン・ダン・ディ・ディ・ディドン・ドン
彼女に会えないとき、私は一切れのパイにさえ、
酷い悪態をついた。
私の仲間はみんな噂好きだったが、
全員にユーモアのセンスがあった訳じゃない。
バーでは、駆け出しの女優が飲み続け、
ウインクを店中にばら撒く。
劇場ではその頃、空気を詰めただけの、
空っぽな『ハムレット』が上演されていた。
私は彼女を家まで送った後は決まって、
電話から離れられなかった。
彼女の吐息だけで、ハートがドキドキと鳴り、
一晩中眠れず、目は真っ赤だった。
ダン・ダン・ディ・ディ・ディドン・ドン
花嫁が明け方になっても現れなかったため、
いとこの結婚式は延期された。
私と彼女は、毎日誰かの誕生日を祝って、
路地裏でフラフラになっていた。
バイトたちは仕事もしないで踊っていた、
手頃なロマンスを追いかけて。
街中の埃が排気ガスで舞い、
私は、彼女がバスに乗るのさえ心配だった。
厨房で火が上がり、トイレは涙で詰まっている、
もう、どこにも行けない。
どこに行ったって、私の空白は埋まらない、
彼女がいなければね。
ダン・ダン・ディ・ディ・ディドン・ドン
人間の知性が何かを創り出すとき、
神が与えたものとは、何を指すのか?
すべての起源とは、経験できないものであっても、
思い出が、人生の宝物であることは疑い得ない。
一瞬の瞬きさえも無駄にはしないーー
今、私は、そう生きている。
街の博物館には何が展示してあるだろう?
あの頃の私と彼女に違いない。
死の扉の前に、長い間待たされ、足はガクガク、
心が蛇のように卑屈になることも。
それでも私は、彼女といた日々を信じて生きる、
あの頃の2人だけは、混じり気がなかったのだから。
あの時、私は君にイカれたんだ、
君だってそのはずだ。
「ダン・ダン・ディ・ディ・ディドン・ドン」
が耳に残り、夜も眠れなかった。
2人の顔と顔を向き合わせた、
その空間だけで私たちは生きていけたーー
世界の大半が、そこに詰まっているみたいに。
ダン・ダン・ディ・ディ……