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ハーヴェスト

「宗教的人間は歩くときに上を向いている、非宗教的 人間はまっすぐ前を向いている、この点だけが両者を区別する世界を想像することができる」
             L・ウィトゲンシュタイン

1
地平を越えて、
彼女が大地を
多くの光で照らすと、
野は黄金に染まり、
作物を見守る彼女の姿が
くっきりと現れる。

夕方は酷い嵐だった。
電線は切れ、屋根は飛ばされた。
夜は豪雨で、
道には大きな水たまりが。

朝だーー朝だけが唯一の、
世界を豊かにし、
闇を裸にする我々の「収穫物」だ。
認識よ、現実に耐えよ、
生よ、自由を望め、
今、彼女はここから昇る。

2
掛け布団から肩が出て、
私は歳を取り、
誰かを夢で見た気が。
午前2時、
私の一日が始まる。

床を滑るスリッパ、
ドアに掛かる電話、
私の椅子は座っている。
午前2時、
カーテンと窓がぴったりと合わさる。

おはよう世界、
おやすみ少女、
私の頭は書くことでいっぱい。
早速部屋に入ると、
月が待っていて、
私とベッドを交換する。

タバコはやめて、
アルファベットを吸おう、
コーヒーには辞書を入れて。
午前2時、
空はミステリー。

3
この男は誰だーー
まだ書いていない詩に出てくるこの男は?
こちらに手を振り、
「お前は俺のことを知ってる」と笑う。
私は答える、「いや、
君のことなんて見たこともないよ。
もう行かなくちゃ、
彼女に詩を送る時間なんでね。」
私は郵便局の壁に貼られた地図を見た。
それはとてもうるさく、私の耳を傷つけた。
彼女は私にショックを与えるーー

過去に並べた自分のことばを、
私は読み返してみた。
節を繰り返したこの箇所が、
彼女を無関心にしたんだね。
そして置き換える、
最後の一行の「メモ」を「note」に。
私の真剣な顔が、
何もない床を見つめていた。
バスタブに積み上げられた無数の布。
私は地理で迷子になり、そして恋に落ちる。
彼女は私に揺さぶりを与える。

4
 山奥にある自身が寝床としている祠の前で、マーネは、周りを囲むように並び、共に空を見上げる動物たちにこう述べた、
 「空が私を癒すとき、私はもともと癒されていた。空が私を悲しませるとき、私はもともと悲しかった。いや、空は気づかせてくれたのだ、私の鏡になって。私が今癒されていることを、私が今悲しんでいることを。」
 後ろで聞いていた弟子の一人がマーネに尋ねた、
 「師よ、あなたは今悲しいのですか?」
 マーネは弟子の方は見ず、顔を天に向けて語った、
 「空を見上げるたびに圧倒される、その果てのない広さに。あちらが地面で、こちらが上空であったら、私はどれほどの勢いで落ちていくのだろう。」
 マーネは立ち上がり、弟子を見てこう告げた、
 「空は常に私を呑み込んでいる。」

 時刻は正午を指した。

5
『真昼の決闘』(”High Noon”)、
四人のならず者が町をうろつく。
私は部屋で、
ガウンにくるまり、その映画を観ている。
ゲーリー・クーパー扮する保安官が援助を求めるが、
町の住人たちは戸を開けずに黙り込む。
保安官はひとりで、四人と対峙する。
彼が投げ捨てたブリキの星を、
住人たちは拾い上げただろうか?

気だるい午後だ、今度は、
リチャード・バートンが日本語で喋る。
私はまだ部屋の中で、
チーズの固まったピザのまま。
壊れた蛇口が意味不明な歌詞を口ずさみ、
空の菓子の袋が主人公に拍手を送る。
「意志がもっと強かったならなぁ」
投げ捨てられブリキの星を、
私は拾い上げることができるだろうか?

6
夕方に嵐が起こった、
キリンや蟹、リンゴの仮面を被った
悪魔たちを連れて。
空は私のグラスからあふれ、
轟く稲妻が、ドームや尖塔に、
閃光を投げかける。

7
真夜中、雨はまだ激しい。
音楽がドアの隙間からもれてゆく。
ぬるくなったビールだけが嘘をつかない。
酔った目が未だ何もない床を探索中の、
退屈な夜ーー孤独が男を罠にかける。
喫煙所に繋がれた意志なき魂。
もしも彼女がチキンを食べたいと言うなら、
私はよろこんでこの肉体を捧げよう。
彼女のイメージをキッチンに招き入れて、
私の上等なウイスキーでもてなそう。

8
世界が一枚のカードになった夢を見た。
警官に暴行されるデモ参加者の夢を見た。
エッフェル塔から飛び降りる夢を見た。
街頭で僧侶が焼身自殺する夢を見た。
もう一人の自分に出会う夢を見た、
彼は「ほら、お前は俺のことを知ってる」と笑う。
サラダに入れるのに自分の指を切り落とす夢を見た。
アラン・ラッドに会う夢を見た。

9
 今世界は唯一の「神(God)」にではなく、数多の「いいね!(Good)」に支配されている。「いいね!」が海をキレイにし、森を蘇生させる。「神は見て、良しとされた(God saw that it was good)」ことを私は思い出した。
 ただの笑い話。

0
最後の一行が終わりではない。
友よ、君がそれを続けるのだ。
テーマにはもう言うべきことばはない。
しかしそれは続く、君が留まる限り。

独りぼっちの宗教に何の意味がーー
たとえ夢であっても、私は君と共にありたい。

青い

黄色い
明日
彼女のチョッキ
ハーヴェスト。

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