ボトルキープは「サーカ・A」で(マイ演歌)
店の扉のベルが「カラン」と、
週の終わりを告げている。
「すべての船酔いの水兵たちも、
手ぶらの兵隊たちも家に帰ってゆく」
私もこのグラスを飲み干したら、
フラフラと街を歩いて帰ろう。
「店長、ボトルキープは、『サーカ・A』で。」
カウンターの隣りの会話に
私は耳を傾ける。
そこには、それぞれのカップルの、
それぞれの家庭の、ヒット曲があった。
コロナからインフレまで、
歌詞のキーワードが社会を映す。
「店長、ボトルキープは、『サーカ・A』で。」
CGが映画を駄目にしてしまったように、
AIが人間から絵画と詩を奪うとしたらーー
進化と退化の間で揺れるエコロジストたちよ、
君の漕ぐペダルは明日、何を動かす?
気象予報士は、4月か5月に降る雪を、
6月になっても探している。
「店長、ボトルキープは、『サーカ・A』で。」
バイトの女の子がやって来て、
私の食器を片づけてゆく。
グラスを飲み干したのに、
愚痴の中で笑いが歯の間に詰まっている。
私は、ショーシャンクで服役する
ティム・ロビンスのように、トイレに立つ。
「店長、ボトルキープは、『サーカ・A』で。」
「日曜の会の会長様、
無事に家に帰れますか?
酔っ払うと、あなたは幸福だが、
帰る時は、いつも独りぼっちだ。」
記憶ほど頼りにできない奴はいないーー
思い出こそが時間の結晶だというのに。
「店長、ボトルキープは、『サーカ・A』で。」