デッド・フラワーズ
クレイグ・べルデンとマット・モーガン、
2人は廃棄品をまとった老いたカウボーイ。
町はまだ昼前だっていうのに、
2人は完全に酔っぱらっていた。
若いゲイのバーテンは惨めな気分で、
彼らのオーダーを聞いていたが、
2人の声が大きくなるたびにささやいた、
「水をお出ししましょうか?」と、冷ややかに。
さあ乾杯だ、友よ、
夢の中ではすべてが俺たちのものだ。
水なんて必要ない、
俺たちの会話は枯れない花なのだ。
2人のようなならず者が語る武勇伝に、
信憑性も、寓意性もない。
彼らは自分たちの伝記を書く伝記作家の前で、
気が大きくなってゆくホラ吹きのよう。
ありったけのビールにウイスキー、
そしてありったけのワインを飲み干し、
次々変わるカウンターの客相手に、
自分たちがいかにご立派だったかをふれ回る。
おかしくなったクレイグ・べルデンは、
マット・モーガンの隣を指差し、
「ウィリアム・マニーが、
銃を持って立っている」と震え出した。
「奴は俺の首にかかった賞金欲しさに、
俺を殺しに来たんだ」とクレイグはわめいたが、
銃を持った賞金稼ぎなど、
誰にも見えなかった。
町の噂好きどもが喋っているーー
クレイグ・べルデンは女に捨てられてから、
酒のボトル片手に、
毎日町をうろついていると。
彼は娼婦たちにも疎まれ、
話し相手はマットと浮浪者だけで、
毎朝、留置所で目を覚まし、
夜勤明けの警官に煙草を恵んでもらう。
ところで、あのカラミティー・ジェーンは
どこへ行ってしまったのだろう?
愛しのクレメンタインでさえ、
結婚してしまったらしい。
彼女たちの口はガトリング砲のように、
卑猥な言葉をまくし立てていたのに、
申し分のない夫を手にした途端、
金ぴかのトロフィーに変身してしまった。
惨めなイングリッシュ・ボブが、
汽車の窓から2人を見ていた。
頭は割れ、脳みそが飛び出していたが、
痛みも何もない表情だった。
彼は動物をひどくいじめたから、
今は荒れ果てた墓の下で暮らす身分。
マット・モーガンは思う、自分も死んだら、
供えられるのは、枯れた花だけだろうと。
マット・モーガンの放蕩息子は、
自らの贅肉に埋もれている。
兄弟たちはその弟をののしるが、
マットは父として、愛を捨てられなかった。
しかし息子はバイアグラを服用しても、
全く更生しなかったのだ。
信頼やら、威厳やら、尊敬やら、
とにかく男が失っていくものは多い。
「あんたたちの声で彼との夜が台無しよ」と、
若い女が2人に言いがかりをつけてきた。
「世間に唾を吐くのは勝手だけど、
風向きを考えてからにしてちょうだい」と。
マットは女を諭した、「愛は初めは甘いがね、
徐々に煙のようにいぶかしくなり、
相手を退屈で追い込み、
しまいには互いの首を絞めるようになるよ」と。
女は中指を立てた。
おかしくなったクレイグ・べルデンは、
マット・モーガンに涙ながらに訴える、
「俺が俺でなくなっちまったら、
お前のことも親友とは呼べなくなる」と。
世間では廃棄品のような身なりでも、2人には
粋なウエスタンブーツとテンガロンハット。
敵に囲まれた絶体絶命の廃墟で、
残った銃弾の数を数え合っている。
さあ乾杯だ、友よ、
夢の中ではすべてが俺たちのものだ。
水なんて必要ない、
俺たちの会話は枯れない花なのだ。