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レコードのA面B面のような人生を


仕事のお昼休みのときによく、今日は何して過ごそうかなあと考える。
晩ご飯はそこそこ適当に、帰ったら何観よう。何聴こう。ひとつにはまるとそればかりになるからちょっと違うものにも目を向けたいとふと考えつつ、帰りがけに買うもののメモを起こしていると、先日綴ったメモを見つけた。


昨夜、叔父から唐突に電話がかかってきた。父方の兄弟の中で一番仲がいいと言っても過言ではないくらい可愛がってくれている人である。

「なあ、音楽好きなあおいに込み入って頼みがあるんだ」

昭和でヒットを飛ばしたとある歌手の音源が欲しい、と。どうしても叔父はCDやカセットで聴きたいらしい。姪の私も似たようなものだから気持ちはわからんでもない。そういえば、父の実家へ叔父とも一緒に待ち合わせて帰ったときに、古いレコードを取り出して蓄音機で聴かせてくれたっけ。大きなスピーカーと一緒に置いてあったそれは、古いものなのに針もターンテーブルも全部きれいで、じじ、と余韻を残して少しくぐもった音が流れるのはさすがとしか言いようがなかった。知らない歌ばかりだったけれど、幼いながらに素敵だと感動したのを覚えている。


「ぼんやりしてると俺みたいにひとりになるぞ」

歳を召した独身の叔父が、優しい目尻を下げて笑いながら私によく言う一言だ。
いつもおしゃれで、持っているものひとつとっても年季が入っていてとても綺麗に大切にしているのがわかる。そんな叔父が言う「ひとり」が、寂しく聞こえない。本人はもしかしたらその歳まで生き抜いてホッと一息つけた今、どことなく寂しさを感じているのかもしれないけれど。


レコードにはいろんな種類があるんだって言ってた。幼い頃の記憶だから曖昧だが、おもて面にA面B面があって途中からB面に切り替わるやつ、裏側がB面なのでA面聴き終わったら裏返して聴くやつ、とか。叔父は好きな歌のレコードであればA面B面が一緒の面に記録されているものでもB面から再生できるらしい。だいたいどこに針を落とせばいいかわかる、と。これもだいぶ昔の話なので、当の本人は忘れちゃったと茶目っ気たっぷりに笑っていたが。


裏返してB面、折り返しでB面。どこから始めたっていい曲はいい曲。
どちらをひっくり返したって、途中からいきなり切り替わったって、いい音楽はいい音楽だ。自分の人生に例えながらレコード盤を拭くのを見てた。痛めないようにくるくると拭くのがまた器用だなあと思った。


「いい音楽を聴いてると、豊かに、優しくなれるんだ」


叔父の優しさは大海のようだ。若い頃にたくさん苦労をしたらしいが、詳しくは聴いたことはない。
でもね、叔父ちゃん。私に「探してくれ」って頼んだ曲が全部マニアックすぎて廃盤になっちゃってるよ。CD、あるかなあ。今度上野とか神田ら辺に足を伸ばして探してこようかな。あるといいけど。


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