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週末ごはん(3月上旬)


■3月〇日(土)上旬


【夜ごはん】


かますの塩焼き
かつおのたたき
いなだのお刺身
あさりのガーリックバター蒸し


夫婦で買い出しから帰った娘が、嬉しそうに言いました。
「新鮮なお魚やお野菜がたくさん出てたの。うれしくなっちゃった」

「あらいいわね」
確かに、スーパーで鮮やかな果物や新鮮なお魚なんかを見ていると、
買っても買わなくても、自然と元気が出てくるんですよね。

どんな献立なんでしょう。今夜はお魚なんだな、と思いました。

夕方2階でテレビを見ていると、魚を焼く香ばしい香りがしてきます。
何のお魚かしら。


「ごはんですよ~!」

階段下から娘のこの声が大きく響くと、こどもたちがバタバタと階段を駆け下りてゆきます。

今日はテーブルいっぱいに海の幸が並んでいました。
彩りも綺麗です。
わたしの好きなお刺身まであります。

「すごい!うれしい」
思わず娘に言いました。


焼き魚はかますでした。
大きなのが一匹塩焼きにされていて、三分の一を孫娘がもらって、残りは娘婿の席に並べられていました。
二人分しかないようです。
「ちょっと塩がうすいね」
孫娘の言葉に娘も味見をして、ほんとだ、と呟きます。
そして娘婿に岩塩を手渡していました。
「でも、身がふんわりしてて、おいしいよ」
娘婿の言葉に、娘も
「やっぱりかますはおいしいね」
と笑って言いました。

いなだのお刺身は厚めに切られています。
厚めに切ってあるだけで豪華な気がするから不思議ですね。

孫息子が
「これなにー?」
と訊くと、
「ぶりになるお魚だよ」
と娘が説明します。
「じゃあ俺食べる!」
ぶりのお刺身が大好きな孫息子に続いて、
「わたしも食べてみよっかな」
珍しく孫娘もそう言いました。そして、
「おいしい~!」
ふたり揃っておいしさに気づき、勢いよく食べ始めました。

それでなんとなく、大人はいなだを遠慮する雰囲気に。
でも3切れほど、食べられましたよ。
歯ごたえもあって、新鮮でおいしかった。


おとなが気兼ねなく食べられたのは、かつおのたたきでした。
旬のかつおを柵で買ってきて、サラダ仕立てにしたものです。
薄くスライスした玉葱と、千切りの大根、水菜、その上にかつおのたたきが並べられていました。

娘がかつおのたたきを料理したのは、はじめてかしら。
「どうやって作ったの?」
と訊くと、
「ポン酢とオリーブオイルと、生姜だけだよ」
娘はそう答えました。
「お父さんが、かつおのたたきが好きじゃなかったから、いままで作らなかったんだ」

「あら」
そういえばそうだったわ。
でも今日お父さんは、口に運ぶとよく食べています。
「お父さんよく食べてるわよ」
「えーうれしい」

それを聞いていた孫娘が、
「認知症で好みも変わるのかな」
と言いました。
「おいしいものがわかるんだね」
娘婿も言います。


あさりのガーリックバター蒸しは、お父さんとの想い出の味。

「お父さんが好きだった居酒屋さんで、よく食べたわよね。
なんだったかしら、あのお店の名前。ほら駅前の……」
「ああ。杢〇洞でしょう。わたしは釜めしがとくに好きだったなぁ」
「そう、釜めしね。あそこは何食べてもおいしかったね」
「うん。そら豆の食べ方を知ったのもあのお店だったの」

それを聞いていた娘婿が、
「今もそのお店あるの?」
と娘に訊きます。
「今はないの。わたしが二十歳のころあったお店なんだよ」
「そっか。出逢ったのよりずっと前なんだね」
夫婦の会話はそこで途切れました。

いまもあのお店があったら、娘婿も連れて行ってあげたかった。
孫たちもつれて、みんなで行けたらよかった。
そして隣で娘もそう思っているのが、伝わってきました。

「この貝、みんな死んでるんでしょ」
唐突に、孫息子が眉間にしわを寄せて言いました。
「火を通したから、死んじゃったんだよ」
娘の言葉に、
「じゃあ最初は生きてたん!?」
と言うので、
「生きてたけど、火を通したから、熱いよ~たすけて~って中身が出てきたんだよ」
と娘が説明します。
すると孫娘が、
「最初から死んでるやつは、火を通しても口があかないんだよ」
と弟に教えています。

「じゃあ、貝から抜け出してたあさりは、どういう形してるん?」
「うーん……」
おとなが言葉をつまらせると、孫たちは、やどかりだとか、かたつむりだとか、おしまいには、ナメクジまでに議論がいたったのでした。


ああ、はじまった……。

すると、わたしが言うより先に、娘が言いました。
「や~め~ま~しょ~う」


ほっ。
つるの一声です。


今日は海の幸をいただけて幸せでした。
ごちそうさま。


おばあちゃんより





■3月〇日(日)上旬


白菜餃子
ふきのとうの天ぷら
おからサラダ


今日は餃子。
餃子もわたしの大好物だよ。
ていうか、おかあさんの餃子はみんな大好きなんだ。

「白菜があるうちに」って言ってた。
わたしにはよくわからないけど、キャベツで作ったのより、白菜で作った方がジューシーで優しい味になるんだって。

あと、あれだね。
こないだは、お肉が足りない感じがしたから、今日はしっかりお肉入れるように頼んどいたの。
「いつもお肉は450グラムにしてるんだけどな」
っておかあさんが言ったから、おとうさんが
「お野菜もはかってるの?」
って聞いたんだけど、
「ううん、てきとう。でもいつも皮は大判で、60個作ってるよ?」
って首をかしげてる。
おかあさんは算数が苦手なんだ。
でもむずかしく考えなくても、野菜の量が増えたり減ったりしたら、お肉感も変わるっていうだけのことなんだけどね。

「お野菜の量もはかったら?」っていちおう言ってみたけど、
「やだぁ、めんどくさい。料理は勘でいいの~」
だって。


具をお母さんが作ったら、今日はお父さんも弟も手伝って皮を包んでた。
わたしはやらなかったんだけど、ふたりはおかあさんのお手本を見ながら、いくつもつくってるうちに、上手になってきてた。

包み終わったら、お母さんがホットプレートを出してきた。
140度から160度のところに合わせて、あったかくなってきたら、シュッと油をふきかけて4列に餃子を並べた。
それからお水を入れてふたをすると、ガラスのふたが水蒸気でもくもくして中が見えなくなった。

「中が見えてくるまで待つんだよ」
とおかあさんが教えてくれた。
ふたの内側におおきな水滴ができて透きとおってくると、おかあさんはふたを開けて、餃子の裏側を覗いて
「いいみたい」
と言った。

「もう食べていい?」
わたしが訊くと、おかあさんは、
「もうちょっと待ってね。こんがりさせるからね」
そう言って、ごま油を餃子のまわりに少しずつたらしていった。
残っていた水分と油が一緒になって、ジュー、ジューっておいしい音をたてはじめた。

「ああ~この音だけでおいしい気がする~。早く食べたい」
弟はお箸を噛んで待ってる。
わたしも早く食べたいな。

そのうちに餃子のまわりの色がこんがりして、羽根つき餃子じゃないけど、羽根みたいのもできてきた。おいしそう。

「もう食べていいよ。さあどうぞ」

おかあさんの合図で、みんなが餃子をお皿にとった。

待った甲斐があって、皮がカリッとしてて中からは肉汁がじゅわぁ~っと溢れてきて、熱々でおいしかった。
「すごーい、肉汁大洪水~」
肉汁で薄まった酢醤油に、ぺたぺたって餃子をつけて、それをまた白いごはんにつけるとおいしいんだよね。
おとうさんとおばあちゃんも、おかあさんに言ってたよ。
「おいしいよ」
って。
おかあさんうれしそうに笑ってた。

わかりやすい弟は、顔もあげずに一気に6個食べて、それからいろいろ喋りだしてた。


それからおかあさんは、『ふきのとう』っていうのを天ぷらにしたのをおとうさんとおばあちゃんに出した。
弟が友だちのおうちからもらってきたやつで、ふたつしかないんだって。

「もらっちゃっていいの?」
っておばあちゃんが言ったら、おかあさんは、
「ふきのとうの香りを楽しめたから、わたしはいいよ」
って答えてた。

ふきのとうを食べたおとうさんとおばあちゃんは、
「春だね」
「思ったより苦くないね」
って言ってたよ。


おからサラダは、『ぺち』がよく作って持ってきてくれる。
『ぺち』はおかあさんの妹だから、「おばちゃん」ってことなんだけど、ぜんぜんおばちゃんっぽくなくて、若く見えて可愛くて、それですごくおもしろいの。
ぺちっていうのは、ちいさいときからのあだ名なんだって。
あ。おかあさんもダイエットすれば、ぺちと美人姉妹になれるかも。



「おからって、なにでできてるん?」
ひと口食べてから、弟が言った。

「お豆腐をつくる途中でできるものだよ」
おかあさんが教えてくれた。

「じゃあ、これも大豆なんだ。大豆もいろんな食感があるね」

わたしがそう言うと、おかあさんは、
「だから自分が食べられるのを、選んで食べたらいいんだよ」
って言った。

食感にこだわりがあるのを、おかあさんはわかってくれてる。


おかあさんとおばあちゃんは、ぺちのおからサラダが大好きみたい。
ちょうどいい加減にお酢がきいてて、好みの味なんだって。

それでおかあさんはもりもり食べるの。
でもね、おかあさん。
ヘルシーだからって食べ過ぎたら太るんだよ~。




長女より






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