夏八木葵

趣味で物語を書いています。ダークファンタジーが好きです。(更新は月1程度です) イラストも少し描いています。

夏八木葵

趣味で物語を書いています。ダークファンタジーが好きです。(更新は月1程度です) イラストも少し描いています。

マガジン

  • 小説 舞闘の音 シリーズ

    音楽は耳から体内に侵入し、あらゆる臓器に作用する——此処では音楽によって士気を高められた兵士が、両刃を仕込んだ義手を武器に戦場で舞っていた。 指揮官の鳴らす音楽に心酔していた私は、音楽に侵され敵を切り裂く行為にこの上ない快楽を得ていたが、自らが築いた屍の中に若すぎる母子の死体を見つけ、思いがけず憐憫の情を抱いてしまう。 これは正義なのか。迷い始めた私に同期の仲間は忠告する。迷ったら死ぬぞ、と。 これは、闘いの果てに自らの正義で生きる決意をする、或る一人の女の物語。

  • 小説 平穏の陰 シリーズ

    平穏の研究をする父と、人形技師の母を持つ少年が主人公。 両親の教えを信じ、真っ直ぐに育っていた少年は、初等学校で謂れなき暴力の被害に遭い、中等学校で一目惚れした先輩を自殺で失い、しかし高等学校でその先輩とそっくりの"人形"に再会した事で、世の中には平穏を維持するための生贄が必要であること、そしてその贄となる人形の存在を知る。 両親の仕事に疑念を持った少年は、父から訊き出そうとするもそれが仇となり、一時は殺されかける。 しかし悪運強く生き延びた少年は、自身の復讐のため、そして生贄の人形たちを解放するために、父を殺す決意をする。 これは、そんな数奇な運命を辿る少年の、思考と感情の記録。

  • 小説 花の意志 シリーズ

    砂漠に埋もれゆく都市に蔓延する"花に至る病"。 そんな世界で、或る日突然失踪した姉を捜す妹の物語。 妹の選択によって結末が変わる物語を書いてみたくてやってみたもの。

  • 小説 灰色の双子 シリーズ

    昔々、ある町に、灰色の髪を持つ双子の姉弟が生まれた。 その町では灰髪の子は不吉な子とされ、両親は早々に孤児院の前に捨てたが、孤児院はその利用価値を知っていた。 狂気を秘めているその双子は、成長すると城へ奉公に出されて離れ離れになり、お互いへの歪んだ愛情を強く意識する。 戦場で敵同士として再会した二人は、強烈に惹かれ合い殺し合う。 そんな狂気の物語。

  • 小説 囚われの絵描き シリーズ

    真っ白な部屋に連れてこられた少女は、武装した青年2人に、ここで絵を描くようにと告げられる。 この部屋から出ることはできないが、食事は用意されるし、脅されているわけでもない。 描くものも何でもいいと言われるし、期日もない。 ただ、この部屋は限りなく刺激が少ない。 創作する人なら誰もが直面する、産みの苦しみをテーマに書いてみたものです。

最近の記事

  • 固定された記事

自己紹介・作品紹介

初めて note に記事を投稿したのが 2022年4月なのでとても今更な感じがするのですが、自分のクリエイターページに固定する記事がないのは寂しいかもな、などと思い始め、ここで簡単な自己紹介と作品紹介をしてみます。 ■自己紹介 1984年生まれ。 子供の頃から絵を描くのが好きで、高校・大学は美術系の学校に進学しました。 大学で初めてPC(Mac)を触り、PCを使って仕事がしたいなぁと何となく思っていた事と、就活でゲーム会社を回っているうちにプログラマーという職種がある事を知

    • 小説 舞闘の音 第一幕(五)

      頭の中に静かに音楽が流れ始める。これは作戦開始2分前である事を意味していた。 まるで砂漏のような静かな音楽。しかしその背後には何処となく不穏な空気を纏った旋律が潜み、凶兆を想起させる。 私は暗闇の中、息を潜め、対象の集落を観察していた。走ればもう十歩ほどで集落に入れる。殆ど潜入していると言ってもいい位置に居た。集落の人間は寝静まっているようだ。 音楽は徐々に盛り上がりを見せ、身体に染み入ろうとするのがわかる。それは例えるなら、腕の太さほどもある蛇が尾骶骨からゆっくりと腰を腹を

      • 小説 舞闘の音 第一幕(四)

        その通信塔を無事制圧できたので私達はその見晴台で休息を取ることができているし、其処の設備を使って遠方まで音楽を運び、我々は活動範囲を広げている。 作戦の後、束子頭の彼は BlueBird と名乗った。爽やかすぎるふざけた名前だと思った。本名を名乗るつもりはないらしかったから、私も RedDress と名乗っておいた。咄嗟の思い付きにしてはわりと気に入っている。彼は、敵の返り血に塗れた私を見て「お似合いの名前だ」と苦笑した。 それはもう十年以上も前の話なのだけれど、そんな事も

        • 小説 舞闘の音 第一幕(三)

          その後、私は、病院のような研究機関のような、妙な施設で目を覚ます事になる。其処では白衣を着た大人たちが働いていて、瀕死になっていた私の命を救い、更には改造を施したのだと聞かされた。私はあの広場で、全裸で両腕を切断された状態で見つかったらしい。それを聞かされた時、自分の身に起きた事だとはにわかには信じられず、だけど実際に両腕は黒くて重い義手になり、身体は思い通りに動かなくなっていたから、その現実を受け入れざるを得なかった。 下半身に負った傷を見た時、私は自分の身体から離脱したく

        • 固定された記事

        自己紹介・作品紹介

        マガジン

        • 小説 舞闘の音 シリーズ
          5本
        • 小説 平穏の陰 シリーズ
          13本
        • 小説 花の意志 シリーズ
          13本
        • 小説 灰色の双子 シリーズ
          2本
        • 小説 囚われの絵描き シリーズ
          1本

        記事

          小説 舞闘の音 第一幕(二)

          その人は何曲か演奏して一通り毒を撒き散らした後、気が晴れたのか、歌とは真逆に思える繊細な手つきで楽器を仕舞い、静かに立ち去った。私は昂る感情を鎮めながら、その人の姿が見えなくなるまで呼吸を忘れて見届けていた。まだ身体が火照っている。不意に涼やかな風が吹き、夕闇が迫っている事に気づいた私は、急いで母から言いつけられた品物を買い、帰宅した。 家に帰っても私はまだ興奮していた。指先に力が宿っているように感じる。帰りが遅くなって母に小言を言われた気もするが、そんなものは右から左へと擦

          小説 舞闘の音 第一幕(二)

          小説 舞闘の音 第一幕(一)

          此処は砂漠。砂漠の上に建つ都市。 抜けるような青空の下、地平線の彼方まで黄金色の巨大な砂山が広がっている。 太陽の光を燦々と浴び、すべての生き物を等しく淘汰する潔癖で眩しい大量の砂たちは、この街に近づくにつれて徐々に灰味を帯びてくすみ、燃え殻や鉄屑の入り交じった産業廃棄物の砂と化してゆく。 その砂塵の上に石畳を敷き、煉瓦を組み、コンクリートを塗り固めて人々は生活の場を造っていた。灰色の砂煙が舞う中、防塵の布を頭から被り、できる限り肌を露出せぬようにして生活する。作物に付いた灰

          小説 舞闘の音 第一幕(一)

          小説 平穏の陰 エピローグ

          以上が僕の経験と感情の記録。 多分、誰も経験したことのない出来事と、誰も共感することのない感情。 それをこの場に綴った。 多分、誰も見ることのない、この場に。 僕は今、父さんのPCからこれを書いている。 母さんは僕をあんなに嫌悪していながら、正しいパスワードを教えてくれたのだ。とても感謝している。 母さんが造ってくれた左眼の義眼は、今は劣化して役に立たなくなってしまったから取り出し、代わりにきちんと医者にかかって造ってもらった物を入れている。 これで僕の中に、母さんの痕跡

          小説 平穏の陰 エピローグ

          小説 平穏の陰 第五部(2)

          数日間、本棚を漁る日々を続けていた頃、家に電話がかかってきた。発信元の電話番号は、あの小さな紙切れに書かれていた番号だった。 母さんなのか。僕はそう思い、特に深く考える事もなく受話器を取った。 「はい」 僕が出ると、電話の声の主はうふふと奇妙に笑いながら話し始める。 「久しぶりね……」 それだけ言って、声の主はなおも笑う。 声からして母さんだとは思うのだけれど、少し様子がおかしい。念のため確認をする。 「母さんなの?」 そう言うと声の主は、かつて料理を教えてくれた時のような、

          小説 平穏の陰 第五部(2)

          小説 平穏の陰 第五部(1)

          僕の罪を、誰か裁いてくれないだろうか。 母さんに言えば殺してくれるかな。 そんなことを呟いた気がして、はっと目を覚ました。 思わず目の下を触るが、涙は流れていなかった。よかった。少し弱気になっていたようだ。 窓が無いから夜が明けた感じがしないが、壁時計を見ると既に昼近くになっていた。 僕は立ち上がり、彼女の背中に挿し込まれているケーブルの接続元を確認した。それは彼女が寝ている作業机の下の大きな黒い筐体に繋がっていて、緑色のランプが明滅している。何か通信をしているように見え

          小説 平穏の陰 第五部(1)

          小説 平穏の陰 第四部(3)

          此処を抜け出すと決めた日の前夜、僕は、先生への感謝の気持ちを手紙に綴り、脇机の引き出しにしまった。 そしてひたすら、夜が明けるのを待った。 荷物は既に纏めてある。足の筋肉もできる限り鍛えておいた。 外に出るのがかなり久しぶりのため、気温による消耗が少し心配だが、取り敢えず明日一日だけ何とかなればいい。 僕が父さんに捨てられたのは、高等学校に進学して少し慣れてきた頃の初夏だった筈なのに、もう山々は紅葉し、空気は肌寒かった。 空が僅かに明るくなったのを見て、僕は窓から荷物ととも

          小説 平穏の陰 第四部(3)

          小説 平穏の陰 第四部(2)

          それ以降、僕は殺意を秘めて生きる事になる。 それはまるで、いざとなれば他者を殺せる凶器を、いや狂気を?手に入れた気分だった。 そんな僕とは反対に、先生はとても穏やかで優しい人だった。 僕はリハビリを受けながら、先生から色んな話を聞いた。どうやら話好きのようだ。 外科医というのは平時は暇らしい。その方が平和で良いのだとか。 実はこの村は、山に棲む動物と共生しているため、一家に一丁は猟銃か護身用の拳銃をを持っているらしく、揉め事が起きると稀にそれが人間に向くこともあるのだそうだ

          小説 平穏の陰 第四部(2)

          小説 平穏の陰 第四部(1)

          どのくらい眠っていたのだろう。 身体が鉛のように重く、動かせない。力の入れ方を忘れてしまったような感覚だ。 目は開く。真っ白な景色で眩しい。 あぁ、そうだ、この景色を僕は知っている。昔、左眼を撃たれて気がついた時も、こんな真っ白な空間で目が覚めたのだった。 徐々に目の前の霧は晴れていき、やはり白い天井と白いカーテンが視界に入った。 病院だな……そう思うと溜息が出た。 病院で目が覚めるという事は、幸と不幸が同時に起きたという事だ。 幸は勿論、命が助かったという事。今は安全な所に

          小説 平穏の陰 第四部(1)

          小説 平穏の陰 第三部(3)

          家に帰ると、ドアには鍵がかかっていた。 父さんが出掛けている――これは非常に珍しい事だった。 自分の鍵で家に入り、ダイニングテーブルに書置きがあるのを見つける。「急な仕事が入り出掛ける。帰宅は深夜か明朝になると思うから夕食は要らない」という内容だった。 何があったのだろう、と心配したが、すぐさまこれは絶好の機会かもしれないという思考に切り替わった。父さんからどう話を引き出すか全然決まっていなかったが、地下の研究室を覗くことができれば早いかもしれないと思ったのだ。 この家に住ん

          小説 平穏の陰 第三部(3)

          小説 平穏の陰 第三部(2)

          嫌な記憶が蘇ってしまった僕は、このまま教室に居ると無意識に暴言を吐きそうな気がしたので、しばらく何処かで独りになることにした。 授業はサボることにした。 そういえばこの学校の図書室——正確には図書館だったか――にはまだ行ったことがなかったことを思い出す。 図書館で2、3冊ほど本を借りて、中庭のベンチで読むことにしよう。それなら周りに人も居ないし、不意に何か言ってしまったとしても誰も気づかないだろう。 僕は学校の構内図を思い出しながら、図書館の方へと歩いていった。 図書館は、

          小説 平穏の陰 第三部(2)

          小説 平穏の陰 第三部(1)

          高等学校ではクラスの人数は更に増え、男女合わせて40人となった。男子の方が2人多い。まぁそんなことはどうでもいいのだけれど、僕は相変わらず友達の作り方がよくわからないまま、この歳まできてしまった。 会話をするだけなら問題ないのだけれど、友達という関係性がしっくりこないというか。今思えば、中等学校の図書室で見たあの本を読んでおくべきだったかなと思う。タイトルは確か、人づきあいがしっくりこないあなたへ、だったか。 立花先輩とはあの後も何度か話す機会はあった。だけどお互いに暗い気分

          小説 平穏の陰 第三部(1)

          小説 平穏の陰 第二部(3)

          「狂ってる」 僕は開口一番、そう言った。 「ああ、狂ってる」 と立花先輩も相槌を打つ。 「先輩もですよ。よくあんな人に優しい言葉がかけられますね」 僕は少々煽ったつもりだった。だけど先輩は黙った。肩透かしを食らった気分だ。 代わりに別のことを言い出す。 「巻き込んですまなかったな」 「いえ、僕が無理矢理ついてきただけです」 「君も今日はゆっくり休んでくれ。これはうちのクラスの問題だから、君が心を痛める必要はない」 「……ありがとうございます」 とは言ったものの、僕は複雑な気持

          小説 平穏の陰 第二部(3)