就カツ騒動記
好きな事で生きていきたいなら突き抜けろ。そして、その分野で人様の役に立つにはどうしたらいいかを考えるんだ。
両親に進路相談したらこんな返事だった。日頃からよく話してた内容でもある。
実は、進路を考えてたら、プロの漫画家になりたいって思ったの。普段から絵を描いてて、SNSにも掲載したりしてる。
で、相談したら、少なくとも反対はされなかった。ホッとしたのもあるけど、ちょっと寂しさも感じたのよね。身勝手だけど。
私の親は二人とも起業家で、お互いに収入があり、家事は分担式。どちらかが手が空いたときにやろうって決めてたらしい。
仲、はよかったと思う。ケンカしたところは見たことないから。でも。
法律上、離婚することになった。三年前のことだったかな、たしか。夫婦じゃあなくなるけど、生活は今までと変わらないといってて。
うん。子供の私から見ても何が変わったんだかって感じたよ。
生活もひもじい思いなんてしてない。普通の家庭で生まれ育った私が、何の役に立つのかって、就活を意識してからずっと考えてた。
友達には変な目で見られたし、先生には現実を見なさいって何度もいわれる。
「あっ。今日は神絵師様の更新日だったっ」
少し落ちこんだ気持ちを上げるためにスマホをいじる。テスト勉強なんて知らないもん。そんなモノはこの日には存在しません。
ああ、やっぱりこの人の世界観好きだなあ。色使いとかどうやってるんだろ。
さっそくソフトを立ち上げて練習するも、やっぱり上手くいかない。それでも、少しずつスピードと完成度は上がっるのはわかる。
「ごはんできたよー」
今日はお父さんの日だっけ。きっと肉がっつりかな。
パソコンをスリープ状態にして席を離れた。
五人分のとんかつが並べられたテーブルには、既にほかの家族が着いていた。ちなみに家族構成は、父母、姉と弟だ。
「優花ねーちゃん、おっそいよっ」
「ごめんごめん。夢中になっちゃって」
「原稿どうよ。手伝おっか」
「まだ真っ白です」
「楽しみにしてるわよー。よっ、センセイッ」」
やめて、恥ずかしいから。
「母さんってば。さ、食べよっか。ちゃんと一から作ったぞ」
「かわいそうな豚さん。八つ当たりされちゃって」
「俺を何だと思ってるんだ」
あはははは、と笑う家族。もちろん、私おかしくて笑ってる。
ただ、進路が頭から離れなくて、心からは笑えてないけど。
人懐っこい弟に天然な姉、お調子者の母とつっこみ気質の父。至って普通の家族。不満なんてひとつもない。
「お姉ちゃん。進路はどう決めたの」
「テキトー」
「えっ」
「だってやりたい事なんてなかったもん。だから、とりあえず就職して探してみよっかなって」
「そ、そんなモンでいいの」
「いいんじゃない。優花みたいに好きなものってのもないし」
「じゃあさ。オレはゲームが好きだからゲーム会社かなあ」
「プレイする側と作成する側は全然違うぞ」
「そうねえー。会社勤めもいいけど、自分で作ってみるのも面白そうねー」
「じゃあソフト買ってよ」
「自分で買いなさーい」
「ちぇ。あ、先行投資ってのどうっ」
「どこでそんな言葉覚えたんだ。事業投資してほしいなら事業計画書を持っておいで」
「な、なにそれ」
ちっともわからん。
「スケールを大きくしすぎよー」
「ん。まあ、設計図みたいなモンだ」
「ム、ムズかしそう」
「中学生は書かいないでしょ。考えはしても」
「考える人いんの」
「目の前にいるじゃない」
目をあわせる両親。
「まあ、人それぞれだからなあ。俺は会社気質に合わないってわかってたから立ち上げただけだし」
「私も似たようなモンねー。一応、就職はしたけど。三年で無理だって思って仕事立ち上げちゃったわー」
「そうそう。意外に何とかなるからな」
「ねー」
「だって。優花ねーちゃん」
うーん。公募が一番近道な気はするんだけど。それまでの生活がねえ。
「あっ。こういうのどう?」
母の頭の上に電球が浮かんだらしい。私が家事全般を引き受ける代わりに家で絵の修業をする、という提案だった。
「ああ、それはいいな。俺たちも助かるし」
「でしょー。生活は保障するけど、お小遣いはなし。欲しけりゃ自分で稼ぐー」
「ど、どうやってっ」
「それを考えるんだ。今はいい時代だから、チャンスはいくらでもある。死にはしないから、やってみたらどうだい」
「じ、自力で稼ぐ。か」
「バイトと違って完全報酬だから大変だが。色々と勉強になるぞ。父さんならそうする」
「お母さんもそうするわねー。雇用される側はどうしても弱くなっちゃうし」
後は自分で決めるといい、とお父さん。気がつけば、全員のとんかつがなくなっていた。
ごちそうさまをして部屋に戻り、机に向かう。寝たら私がブタになってしまう。
何となくネット検索すると、イラストにも様々な種類があり、稼ぎかたもでてくる。中にはスクールとかもあるけど。
学校系は親と相談しよう。最初はできるだけ出費をおさえるのが鉄則、だったっけか。
そうやって考えていくうちに時間はあっという間にすぎて、高校を卒業した。学校は違うが、弟とは入れ替えになった感じだ。
準備期間があったおかげで、一人暮らしをしても問題ないぐらいに稼げるようになった。今は親と相談して、家事の代わりにお金をいれて、絵の仕事を続けてる。
最初は怖かったけど、何事も経験、という家訓が生きたと思う。
ちなみに、漫画だけじゃなくてイラストとか、他の仕事も受けてるよ。
どこにでもありそうな平凡な家庭なうち。その当たり前に感謝しながら、私は今日も大好きな絵を作成している。
※この作品は、ソリスピアさん主催のイベント「Solispia Spring Short-stories」に投稿させていただいた作品です。
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