不健全な精神は肉体を蝕む③
夫が多少の顔の麻痺があるものの生還してから2年間、出来ない事でも自分の使命と思い休みなく働いていた
何故なら、自分で興した事業だろうと夫だってやった事も無い仕事を5年間一生懸命やってきた
なのに、結婚したからって私が「もっとしっかりやれ」と無理強いしたから夫は生死をさまよう病気になったと、思ったから
ナルシストでお酒好きで見栄っ張りで体裁屋だけれど、育ちの良さや優しさを持ち合わせている夫
だらしなさや考えの甘さはあるのはわかっていた
だけれど、自分だって同じ欠落した人間だ
そんな夫に執着したのは自分
そしてそんな夫でも、いやそんな夫だから、自分の大切なものに誠実な対応をするはず、人に迷惑を掛けるような事はしないはず、と思っていた
経験した事の無い事で初めからそつなくこなすなんて、無理だ
それを支えられるのは私、と思ったのは自分自身なのに、自分の欲の為にそれ以上の事を求めた事が間違いだったと、後悔したから
そして夫は体調が回復して時間的な余裕が出来たら、事業も結婚生活も整えてくれると信じていた
だけれど、病気をきっかけに自宅の一室を会社にして、ずっと自宅に居る夫と休みなく抱えた店舗のあらゆる事に対応してへとへとになりながら帰宅してから主婦業をやっている私
その私にお酒を飲みながら楽しそうに話しかけてくる夫
最初のうちは私には時間がないけれど、そうやって「存在してくれているだけでいい」と思っていた
私が外出中にどうやって夫が社長業をしているのか、わからない
もちろん、家事もやってくれない
そしてやはり生活費は満足に渡してくれない
たまの休みでもスタッフからの電話に対応し、取引先の電話があれば息を潜めなければならなくて、心が休まらない生活
そして腹膜炎で入院した私
「ああ誰からも文句を言われず仕事から離れられる」と入院出来た事が幸せに感じられた
だけれど、ゆっくり休めると、これまでの2年間の状況の不満や夫への不信感が、自分の心の中に渦巻いている事がわかる
そんな自分に自己嫌悪と「もう元の生活に戻りたくない」という気持ち
そして32歳になっていた私は「ささやかでも幸せな結婚生活と子どもを産みたい」という希望がある
これを夫に言ってもまた夫を苦しめてしまうかもしれない
そしてその希望を叶えたいなら、夫では無理なんじゃないか?という気持ち
だけれど、毎日お見舞いに来てくれる夫の私への愛は感じていた
あれだけ私が休みなく働いて対応していた仕事はどうなっているんだ?という疑問はあったけれど、それは自分の会社だ、夫がきちんとどうにか体制を整えているはず
その入院中、いろんな検査をした
女性は腹膜炎にり患するのは、婦人科系の原因の場合がある
そして私は子宮頚部に変性がある事がわかった
腹膜炎と診断された際、若い男性の医者に「複数人との性行為はあるか?」と失礼な質問があった
もちろん夫と付き合ってからそんな事はある訳ない
しかもそれは私自身を見下しているとしか思えなく、憤慨していた
だけれど、その子宮頚部の変性が子宮頸ガンの前ガン症状である事
子宮頸ガンはヒトパピローマウイルスへの感染が原因で、性交渉の相手が不特定多数である場合も感染すると言われている病気
そして子宮頸ガンであれば、子宮切除して子どもが産めなくなる
ただひたすら夫を愛し、「ささやかでも幸せな結婚生活」を望んでいるだけなのに
心無い言葉と夫への不信感とり患した事実
もうどうしていいのか、わからない
腹膜炎の治療を終えて退院しても、その経過観察を理由に仕事はやらなくて済んだ
このままもし子宮頸ガンと診断されたら、という不安と自分のやってきた事が間違っているという自分への不信感、夫に頼れない甘えらてないという気持ちで、気力も湧かない
退院して1カ月ほど経った時
吐き気と腹痛と発熱
腹膜炎の時とは違うけれど、これはまずいと感じて、病院に直行した
虫垂炎だった
やはり即入院、手術
だけれど、その入院に私は希望が持てた
腹膜炎の原因の1つに虫垂炎もある
すこし子宮が変性していたとしても、まだ子宮頸ガンと診断された訳じゃない
そしてそれにり患する原因だってない
私への理不尽なレッテルが剥がれ、自分の未来への希望がひらけたような思いだった
だけれど、その数か月後、私は子宮頚部の円錐切除をする
腹膜炎になりそれを含めた1年半
私は5回の入院と3回の手術をしている
それは自分の希望を諦めたくない、と必死な思いからだった