不健全な精神は肉体を蝕む②
余りにも大切に育てられ世間知らずだとしても、優しい夫は、それを踏まえて苦労を乗り越えていくだろうと信じていた
誰しもだらしない部分や弱さを持ち合わせてる
だけれど、それでは目指す事に到達しないと自覚すれば改善すると思っていた
何故なら、この社会で生きるにはお金が必要で、お金は稼がなければ得られない
愛する人を守りたい、悲しませないと思うのは、心理
これは私にとって「周知の事実」で「当たり前の心理」と思っていたから
生活費が得られず、愛する人が悲しむような状況は自分が嫌だと思い、それを改善しようとするのが当然だと思っていた
起業したばかりは軌道に乗るまでは、不安定な状況に陥る事は仕方ない
会社経営とは利益を追求し、それを永続的に持続する事を求める事
ただ、会社を興すことは手続きさえすれば出来る
そして見栄や体裁だけで「社長」の肩書が欲しい人間もいる
その肩書に憧れるから会社を興すというよこしまなきっかけだっていい
実際に経営が成り立って、それで社会で生きていければ
だけれど、その目的を果たせなければ、意味も無いどころか、いろんな人を不幸にする
ナースステーションの目の前の病院の個室で
夫のベッドの隣にストレッチャーを借りて一夜を過ごしたあの日
いつ夫の呼吸が出来なくなってしまうか恐ろしくて
義両親にどうやって伝えればいいのかとか
泣いている事を悟られないようにしなくちゃと思うものの
思ってもいないこの状況が辛すぎて
結婚して、やっとこれから希望した未来を描けると思ったのに
夫がこんな病気になってしまったのは、自分のせいだ
そんなやりきれない後悔と悲しさと恐ろしさに圧し潰されそうになりながら朝を迎えた
全身が麻痺して、身体にまったく力が入らない、目も閉じない、口も閉じない状態だったけれど、夫は山を越えた
1カ月の入院生活を終えて、多少の顔の麻痺だけは残ったけれど、夫は生還してくれた
それから私は夫に社長業だけやってくれればいいと言って、現場のすべてを自分がやると心に決めて
スタッフ教育も、取引先との折衝も、トラブル解決も自分の役割と頑張った
元々私はそんな事が出来る人間じゃないけれど、それが私のこの世の使命だと思ったから
だけれど、私は休みなく働き主婦業もこなしているのに、2年経っても状況が変化しない
体調も良く、時間的にも余裕がありそうなのに、夫は改善しようと思っている様子も無い
私の希望は「ささやかでも幸せな結婚生活」そして子どもも欲しい
ある日、お腹が痛いのを我慢して店舗に向かったけれど、どうも仕事をするのは無理だと思い、夫を呼び出して病院に何とか辿りついた
診断結果は腹膜炎だった
即入院、既往症に結核があったから個室だった
その入院で私が思った事
それは「ああ誰からも文句を言われず仕事から離れられる」という歪んだ感情だった
その入院は第2の苦しみの始まりだったのだけれど、「ひと時の幸せ」だった