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初めて覚醒剤を使った日

※この記事は薬物の使用を助長・推奨するものではありません。
違法薬物の使用は法律で禁止されています。

私が覚醒剤を初めて使ったのは23歳の時。

周りに覚醒剤を使う人なんかいなかったし
当時私には同棲していた彼氏がいて
入籍目前の時期だったから周りの人間はなんで覚醒剤なんてやったの?って
すごく不思議そうにしてたけど

私自身深く考えたわけじゃない。
その頃の私は重い鬱で頭の中は四六時中自殺のことばっかだったから
たまたま見かけた覚醒剤の啓発ポスターに書かれていた
「人間やめますか」ってフレーズに強く惹かれちゃった

人間ってやめれる方法があるのかって衝撃的で
それが何故か心にすごく残った

当時は毎日が憂鬱で地獄がここじゃなかったらどこに地獄があるんだって本気で思ってた
いつも身体は鉛のように重たくて起き上がるのもやっとだった

子供の頃から自分の体型がコンプレックスで
食べたら太る罪悪感と焦りで吐いて
顔はパンパンに浮腫んでいたし
栄養が足りてなくていつもフラフラだったし、

私はキャバクラで働いて収入を得ていたけど
その頃世間ではコロナが蔓延しはじめていて
お店は営業を停止してしまったし
収入は無くなって先も見えなくなってた

現実を見たくなくて
毎日何種類もの精神安定剤を飲んで
意識を落とすために目が覚めた瞬間に睡眠薬を飲んだりもしてた

彼氏は飲食店を何店舗も経営してたけど
緊急事態宣言でお客さんは入らなくなったし営業もほとんど出来なくなって
毎月何百万もするテナント代を払うのもギリギリで従業員たちの給料を払うために住んでた高い家賃の家を引き払って
私も一緒に小さなアパートに引っ越した

追い詰められる彼をよそに私は逃げることばかり考えていて朝から夜までアルコール浸りでいた

お金、作らなきゃ
って彼氏には黙ってキャバクラのお客さんと店以外で会ってお金を貰ったりしてたけど
彼に嘘をついて裏切っていることや未来への絶望感で自暴自棄になってた

令和2年の2月2日の朝
目が覚めていつも通り私は憂鬱で
早くこの鮮明な意識を遠ざけたいと思ってサイレースっていう睡眠薬を飲んで酩酊状態になってたら
人間やめたいなーって強く思ってそれは自然な流れで、前に街で見た
「人間やめますか」のポスターを思い出した

覚醒剤ってどんなものか知らないけどとにかく
一度やったら廃人になってしまうヤバいもの
ってことだけはなんとなく知ってた
毎日すごい憂鬱で死にたいなって思ってたけど
死ぬ勇気はなかったし

だけど生きる気力もない自分が嫌だったから
半端に崩れているなら
本当に廃人となってしまった方が
この動けない自分への言い訳になるし
納得できると思えたから
人間をやめさせてくれる覚醒剤が魅力的に感じた

そこからはほとんど衝動的に動いていて
覚醒剤の買い方なんて知らなかったからGoogleで買い方を調べて1時間後には売人の待つホテルまで行ってた

指定されたホテルの部屋に入ると売人はソファーで腰をかけていて目の前にあるテーブルには
覚醒剤とスケールと注射器が無造作に置かれていて初めて見る異様な雰囲気に緊張して身体がこわばった

最初の売人は私より2つ年上の男の人で
見た目はハーフっぽくて目がクリッとした優しそうな柔らかい雰囲気で
売人といったら肌が黒くてゴリゴリのマッチョな身体をした、いかにも悪そうな人なんだろうなって想像してたから拍子抜けして少し力が抜けた

私は売人の座るソファとテーブルの間の
地べたに座って初めて見る覚醒剤を食い入るように観察した

想像していた覚醒剤は白い粉だったけど目の前にあるのは透明でクリスタルみたいな綺麗な結晶だった

「初めてでしょ?本当にやっちゃうの?」
って売人は私に言ったけど
私は目の前の覚醒剤に興奮していたし
好奇心でいっぱいになっていたから後に引けなくなってた

売人は覚醒剤の入ったパケを好きに使いなって私に放り投げてスマホに没頭し始めたから
使い方がわからない私はライターで覚醒剤を粉々にして鼻の中に突っ込んでみたんだけど
それに気づいた売人は爆笑して
今はこれしかないからって言って注射器をビニールの包装から取り出して見せてくれて
私は注射器を目の前にして自分がこれからどんなことしようとしているのかようやく認識した

これをやったら後戻りは出来ない
だけどそのときの私はもう自分の中のマグマが噴火してしまっているかのように激しい自滅願望が
私を動かしてしまっていたから
やらない選択はもう自分の中には無かった

腕を差し出すと売人は注射器を片手に私の血管を慎重に探しながら覚醒剤を使う上で重要なことを教えてくれた

「シャブの効果が抜けた時、君は今までに経験したことがないくらいのドン底の世界に堕ちる。
だけどそのドン底の世界は、シャブを使う前過ごしていた世界にただ戻ってきただけなんだ。
それを忘れなければきっと大丈夫。」

針が私の血管を貫通し覚醒剤入りの水溶液が身体に入ってくると、
溶液の染みるピリピリとした感覚と共に
未だかつて経験したことのない大きな快楽が脳味噌を駆け巡って
それはまるで魔法をかけられたような気分で
私は目を閉じてエクスタシーに身を任せた

身体はフワフワと軽くなって今まで自分にまとわりついていた苦痛が嘘みたいに消え去って
幸せの感覚をはじめて掴んだように思えて涙が溢れた

周りを見渡すと
今まで霧がかかったように暗く澱んで見えていた視界は鮮明に見えて、世の中はこんなにも色彩に溢れているのだと知って鬱からの解放に心から喜んだ

その日、売人は私に覚醒剤を売らなかった

「壊れちゃわないように、俺がシャブの管理してあげるよ」

その日から私は売人の元に毎日通うようになった



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