三谷 葵

編集者。“ふつうの人の、ふつうの暮らし”のおかしみを追うリトルプレス「yukariRo…

三谷 葵

編集者。“ふつうの人の、ふつうの暮らし”のおかしみを追うリトルプレス「yukariRo」をつくっています。1981年長野県生まれ。新潮社「考える人」、アノニマ・スタジオを経て、2013年3月より秋田県在住。http://yukariro.jimdo.com

記事一覧

読書記録_『クララとお日さま』カズオ・イシグロ著(早川書房、2021)

カズオ・イシグロ著、土屋政雄訳『クララとお日さま』(早川書房、2021)を、Audibleで。 ノーベル賞受賞後第1作。以前読んだ『わたしを離さないで』(2008)がすばらしか…

三谷 葵
3年前
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読書記録_ 『星に仄めかされて』多和田葉子著(講談社、2020)

6月21日の朝刊に多和田葉子のインタビューが載っていた。ドイツ在住の多和田葉子は 「日本はもうなくなったのだろうか。そんな思いがよぎることがあると言う…

三谷 葵
4年前

読書記録_ 磯野真穂『なぜふつうに食べられないのか』(春秋社、2015)

哲学者の宮野真生子さんとの共著『急に具合が悪くなる』でも知られる磯野真穂さん。コロナ禍で新聞などいろいろなところでお名前を見ることが増えたお一人。博論を加筆修正…

三谷 葵
4年前
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人生は最期まで生きてみないとわからない

**「働く女」についてのブックレビュー⑤佐久間裕美子著『ピンヒールははかない』** 「働く女」をテーマにしたブックレビューです。2019年の暮れも押し詰まって突然アップ…

三谷 葵
4年前
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生活の重力

**「働く女」についてのブックレビュー④永瀬清子『だましてください言葉やさしく』** 「働く女」をテーマにしたブックレビューです。2019年の暮れも押し詰まって突然アッ…

三谷 葵
4年前
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おばあちゃんはおにぎりを三角に握れない

**「働く女」についてのブックレビュー③阿古真理『小林カツ代と栗原はるみ~料理研究家とその時代~』** 「働く女」をテーマにしたブックレビューです。2019年の暮れも押…

三谷 葵
4年前
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「働けない女」の背中

**「働く女」についてのブックレビュー②岸政彦『断片的なものの社会学』** 「働く女」をテーマにしたブックレビューです。2019年の暮れも押し詰まって突然アップし出した…

三谷 葵
4年前
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アナキズムは暮らしに役立つ

**「働く女」についてのブックレビュー①栗原康『はたらかないでたらふく食べたい〜生の負債からの解放〜』** 「働く女」をテーマにしたブックレビューです。2019年の暮れ…

三谷 葵
4年前
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私が書いた原稿はボツになった。

「『働く女』に関するブックレビューを書いてください。文字数は400〜800字です。締め切りは1週間後。」  出会って数分の編集者に突然言われたことを要約するとざっと…

三谷 葵
4年前
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「より大きな課題が解決できれば、自分も社会もハッピーが増す」

LEXUSのウェブマガジン「VISIONARY」にて、山形県鶴岡市のバイオベンチャー・Spiberの取材をしました。「これまで世界になかった選択肢を── Spiberの挑戦」という記事で…

三谷 葵
5年前
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「20代で観ておくべき映画、なにかありますか?」と聞かれたら

インターンで来ていた21歳の女子大生に聞かれて、思い出したのが「ムッシュ・カステラの恋」(2000)。 何しろ前に観たのが学部生の頃だったから、ディテールはほぼ抜け落…

三谷 葵
7年前
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「安室ちゃん、安室やめるってよ」 で思い返す、「90年代」。

私(1981年生まれ。ルーズソックス、厚底、ガングロ、アムラー世代、田舎育ち、長女)にとって、90年代は圧倒的に小室ファミリーとビジュアル系の時代。あの高音すぎるボイ…

三谷 葵
7年前

「頑丈な建物や地下に避難してください。」

Jアラートを初めて、自分のiphoneから聞いた。 聞いて、そして、一体私はどうすればよかったのか、いまだにわからない。 「頑丈な建物や地下に避難してください。」 結…

三谷 葵
7年前
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夏の思い出2。Crystal Kayの「boyfriend」

Reborn-Art Festivalで牡鹿半島滞在中に泊まった民宿は、食堂に集合して食事をとる形式だった。そこには小さなカラオケ機があって、2泊目の晩、同宿になった高校生の女の…

三谷 葵
7年前
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夏の思い出1。Reborn-Art Festival。 子連れに雨。

8/10-8/13に、一足早い夏休みで、もはや我が家でシリーズ化しつつある「夏休みは東北が最高だ!〜盆には帰らないぜ、東京&長野〜」シリーズを決行。1年目の山形、2年目…

三谷 葵
7年前
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読書記録_『クララとお日さま』カズオ・イシグロ著(早川書房、2021)

読書記録_『クララとお日さま』カズオ・イシグロ著(早川書房、2021)

カズオ・イシグロ著、土屋政雄訳『クララとお日さま』(早川書房、2021)を、Audibleで。

ノーベル賞受賞後第1作。以前読んだ『わたしを離さないで』(2008)がすばらしかったので、いつかまた読もうと思っていた、カズオ・イシグロ。

AIの一人称で語られる小説。

子どもの親友となるべく作られた
「AF」(人工親友、人工友達、などとは訳されず、日本語版でもAF)
が主人公。ここに同じくノーベ

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読書記録_ 『星に仄めかされて』多和田葉子著(講談社、2020)

読書記録_ 『星に仄めかされて』多和田葉子著(講談社、2020)

6月21日の朝刊に多和田葉子のインタビューが載っていた。ドイツ在住の多和田葉子は 「日本はもうなくなったのだろうか。そんな思いがよぎることがあると言う。」(共同通信のインタビューより)

装丁に使われているお菓子を作っている彗星菓子手製所のインスタ投稿によると、三部作のうちの第二作だそう。一作目に続き、とびきりの言葉遊びとユーモアのセンスに、いつまでも読んでいられそう。

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読書記録_ 磯野真穂『なぜふつうに食べられないのか』(春秋社、2015)

読書記録_ 磯野真穂『なぜふつうに食べられないのか』(春秋社、2015)

哲学者の宮野真生子さんとの共著『急に具合が悪くなる』でも知られる磯野真穂さん。コロナ禍で新聞などいろいろなところでお名前を見ることが増えたお一人。博論を加筆修正したのが本書だそうです。

最近とみに磯野さんのインタビューを見聞きする機会が増えて、なんだか大事なことを言っているような気がするものの、限られた紙幅や時間ではつまるところ何を言いたいのか、今ひとつわからないなぁと思ったので読んでみた。『急

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人生は最期まで生きてみないとわからない

人生は最期まで生きてみないとわからない

**「働く女」についてのブックレビュー⑤佐久間裕美子著『ピンヒールははかない』**

「働く女」をテーマにしたブックレビューです。2019年の暮れも押し詰まって突然アップし出した顛末についてはこちら。

ニューヨークに住んで20年近いというライターである著者が、自由を象徴するこのまちに暮らす女性たちに、多様な女性の生き方についてインタビューした佐久間裕美子『ピンヒールははかない』(幻冬社、2017

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生活の重力

生活の重力

**「働く女」についてのブックレビュー④永瀬清子『だましてください言葉やさしく』**

「働く女」をテーマにしたブックレビューです。2019年の暮れも押し詰まって突然アップし出した顛末についてはこちら。

台所つながりでもう一冊。永瀬清子『だましてください言葉やさしく』(童話屋、2008)に収められた一篇の詩「私が豆の煮方を」は、リアルな生活の重力を一人孤独に背負う妻の詩だ。生活の具体的なディテー

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おばあちゃんはおにぎりを三角に握れない

おばあちゃんはおにぎりを三角に握れない

**「働く女」についてのブックレビュー③阿古真理『小林カツ代と栗原はるみ~料理研究家とその時代~』**

「働く女」をテーマにしたブックレビューです。2019年の暮れも押し詰まって突然アップし出した顛末についてはこちら。

母は、実母である私の祖母から料理を教わるということをかたくなに拒否していた。「あの人はおにぎりを三角の型に入れないと握れない人」と祖母の料理下手を嘆き、定期購読していた「きょう

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「働けない女」の背中

「働けない女」の背中

**「働く女」についてのブックレビュー②岸政彦『断片的なものの社会学』**

「働く女」をテーマにしたブックレビューです。2019年の暮れも押し詰まって突然アップし出した顛末についてはこちら。

 実は、「働く女」といって最初の思い浮かんだのは、母の姿だ。正確には「3人の子どもをもつシングルマザーで、働かなければならないが、どうしたらよいのかわからず働けない女」が、私にとっての最初の「働く女」の姿

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アナキズムは暮らしに役立つ

アナキズムは暮らしに役立つ

**「働く女」についてのブックレビュー①栗原康『はたらかないでたらふく食べたい〜生の負債からの解放〜』**

「働く女」をテーマにしたブックレビューです。2019年の暮れも押し詰まって突然アップし出した顛末についてはこちら。

「働かざるもの食うべからず」。

この言葉に心から賛同できないながらも、就職するために折り合いをつけたのは「やりたいことを仕事にすること」だった。やりたいことは何かと問われ

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私が書いた原稿はボツになった。

私が書いた原稿はボツになった。


「『働く女』に関するブックレビューを書いてください。文字数は400〜800字です。締め切りは1週間後。」

 出会って数分の編集者に突然言われたことを要約するとざっとこんな感じだったかと思う。さっき偶然出会っただけの私にどうしてという疑問と、初めましてのわりに少々乱暴な依頼だなと思ったものの、原稿用紙1〜2枚ならまぁ書けるかとお引き受けした。

 翌日、正式な原稿依頼としてメールが届いた。企画書

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「より大きな課題が解決できれば、自分も社会もハッピーが増す」

LEXUSのウェブマガジン「VISIONARY」にて、山形県鶴岡市のバイオベンチャー・Spiberの取材をしました。「これまで世界になかった選択肢を──
Spiberの挑戦」という記事です。いや〜、これがまた、考えさせられる取材で。今日は語らせて。

「より大きな課題が解決できれば、自分も社会もハッピーが増す」とSpiber代表の関山さん。ものすごくポジティブタイプな方なのかと思いきや、「中学3年

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「20代で観ておくべき映画、なにかありますか?」と聞かれたら

インターンで来ていた21歳の女子大生に聞かれて、思い出したのが「ムッシュ・カステラの恋」(2000)。

何しろ前に観たのが学部生の頃だったから、ディテールはほぼ抜け落ちていたけど、当時仏・クーリエの編集長をなさっていたヤタベさんと「ムッシュ・カステラの恋」の話をしたのはよく覚えている。

「あれはブルデューのディスタンクシオンを下敷きにしてるんだって。パリでも僕の周辺では評判がよかった。邦題

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「安室ちゃん、安室やめるってよ」 で思い返す、「90年代」。

私(1981年生まれ。ルーズソックス、厚底、ガングロ、アムラー世代、田舎育ち、長女)にとって、90年代は圧倒的に小室ファミリーとビジュアル系の時代。あの高音すぎるボイスと激しすぎるダンス、お化粧した男の人を「美しい!」と賛美する同級生女子の夢見るようなニキビの横顔なんかを、照れ臭く、ほろ苦くも懐かしく思い出すけど、夫(1974年生まれ。古着、イカ天バンド世代、東京生まれ、長男)にとっては、90年代

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「頑丈な建物や地下に避難してください。」

Jアラートを初めて、自分のiphoneから聞いた。

聞いて、そして、一体私はどうすればよかったのか、いまだにわからない。

「頑丈な建物や地下に避難してください。」

結果的に、私はパジャマで布団の上に寝転がっていた。夫はシャワーを浴びに寝室を出て行った。頭の中では、今、何かがここに落ちてきたら、「え?」と言っている間に子どもたちもろとも吹き飛んでしまうという想像をしながら、かといって子どもたち

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夏の思い出2。Crystal Kayの「boyfriend」

Reborn-Art Festivalで牡鹿半島滞在中に泊まった民宿は、食堂に集合して食事をとる形式だった。そこには小さなカラオケ機があって、2泊目の晩、同宿になった高校生の女の子が歌っていたのが、Crystal Kayの「boyfriend」だった。

仙台から牡鹿半島まで約2時間かけて、母親と彼女と2歳になる弟との3人でピンクの軽自動車でやってきていた。彼女の母親は仙台でホステスをしているそう

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夏の思い出1。Reborn-Art Festival。 子連れに雨。

8/10-8/13に、一足早い夏休みで、もはや我が家でシリーズ化しつつある「夏休みは東北が最高だ!〜盆には帰らないぜ、東京&長野〜」シリーズを決行。1年目の山形、2年目の青森、3年目の岩手に続き、4年目は満を持して宮城・石巻へ。今年から始まったReborn Art Festivalと、会場の一つでもある観慶丸商店に行くのが、今回の旅の目的。

旅の早い段階でiphoneが成仏されたので、写真はすべ

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