『白いキャンバスの上で』—子供の「はじめて」を集めている—
子供には、いろいろな経験をさせてやりたい。僕は新幹線の窓に映る自分の横顔を見ながら、そう考えていた。あれか、これか、という選択ではなく、あれも、これも、という贅沢を。そうやって少しずつ、この世界の広さや深さを知ってほしい。だから今日、僕たちは初めてのスキー場に向かっている。
息子は新幹線が好きだ。新幹線に乗ること自体が、彼にとっては一つの冒険なのかもしれない。トンネルに入るたび、出るたびに「わぁー!」と声を上げる。その声が、車内の静寂を心地よく破る。実は、新幹線での遠出も、彼に経験してほしかったことの一つだった。
スキー場で、息子はスクールに参加した。僕は初心者コースの脇で、彼の姿を見守ることにした。インストラクターの若い女性は、息子に向かって「ピザを作るみたいに、足をハの字に開いてごらん」と優しく声をかける。
2時間後、息子は緩やかな斜面を滑っていた。雪の上で、小さな体をクルクルと回転させながら。まるで白いキャンバスの上で、誰かが即興で踊っているみたいだった。
「すごいじゃない」と僕は声をかけた。息子は照れくさそうに笑う。そうか、こんな風に子供は育っていくのか。少しずつ、でも確実に、できることが増えていく。まるで、雪の結晶が少しずつ形を変えていくように。
午後の斜面に、長く伸びた二人の影が揺れていた。