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山野莉緒
2021年7月5日 18:26
連絡はいつも彼から。私ではない。ただ、そのことにどれくらい意味があるだろう。 卒業式以来、すでに幾度かの逢瀬を重ねていた。 体育館から教室へと引き返してきた私たちは、ひとしきりクラスメイトとの別れを惜しむと連れ立って職員室に向かった。周囲に悟られぬよう十分な深呼吸もできないままドアをノックする。顔を出したのは、別の教師だった。「卒業おめでとう。」「ありがとうございます。」 拍子抜けし
2021年7月4日 19:05
一人がけのソファにそれぞれ腰を下ろすと、さっそく喉を潤す私の前で、彼女は長い睫毛を伏せ、いやに細い指で、ちまちましたプラスチックの容器と戯れを始めた。その様子すらどこか羨ましく、私はストローの首に手をかけたまま釘付けになった。ミルクとガムシロップが溶け込んだ淡い色のグラスに、ようやく口をつけたかと思うと、あっと呟く。「これ、卒業旅行のお土産。莉緒にもどうぞって。」 笑みとともに差し出されたの
2021年7月3日 23:25
流されて付き合った2軒目の居酒屋を出ると、終電の時刻をとうに過ぎていた。大学生だし、こんな夜があってもしかたない。「自転車ない人は誰かに乗っけてもらって!」 夜の道端で大声を張り上げるその人が他人でないことが切ない。電信柱の脇から自転車を引っ張ってきた男が、私の隣でサドルに跨った。荷台に腰を下ろし上着の裾を掴むと、男の手によって彼の心臓の前に引き出される。とことん嫌な夜だ。背中に頬を寄せると