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モンテ・クリスト伯感想 19

ネタバレ含みます。

マクシミリアンの説得

いよいよフランツとの婚約が避けられない状況となり、ヴァランティーヌはマクシミリアンにその悲しみを訴える。この時のマクシミリアンの説得。


「重大な、生きるか、死ぬかの場合です。役にもたたない悲しみに身をまかせてはならない時です。そうすることは、苦しんだり、涙を流したりするのを楽しみにしている人たちのすることです。」※1  p.132

悲しみに身をまかせるな!

強い言葉だと思う。

苦しんだり涙を流すのを「楽しみにしている人」とは、なんという的を得た言い回しだろう。

人は感傷的になった時、涙を流しながら苦しさ惨めさを再確認する。しょせんこうなんだ、こんなに不幸なのだと落ち込む。

現実を認め、それにあらがう事をやめ、もうどうにでもなれと身をまかせる事は、実は楽なのだ。

むしろ敗北を認める事を「楽しんでいる!」と言うデュマの価値観は面白い。

確かにそうだ。

苦しみに歯を食い縛り立ち向かうからこそ、人生は厳しいものだと感じる。


「戦う意志をもった人であったら、一大事の時を一刻たりともむだにせずに、運命から打撃を受けると、たちまち投げ返してやるものです。あなたは、不幸を相手に戦う意志をおもちですか?」※2  p.132

人生において不幸と戦う意志を持つものに、嘆きの時は必要ない。感傷はムダな物だ。

ロマンティックに悲しみや自己否定を味わう暇はない。

常に「いかにすべきか」を考えよう。

過酷な運命に素早く反撃を繰り出す。
迷いのないクリアな判断力。悲劇を、痛快な活劇に変えるような意志の力。

人生の幸不幸を決めるのは「環境」ではなく「心」だ。

同じ環境でも不幸を感じる人と、まったく問題を感じない人、むしろ幸福を感じる人がいるのは何故か。

この違いは「心」が「困難」をどう受けとめているのかによる。

デュマは勇敢であれ!と言っている。

戦う意志を持て!と。

心が健康であれば、「困難」に対して戦う意志が沸き上がる。


しかし、心が栄養不足で疲れ果てていると、戦う事ができない。

心が疲れ果ててしまうと危険なのだ。

戦えないと本当に死んでしまう。

では、心の栄養とは一体何だろう。

体に食物の栄養を取り入れるように、心にも栄養を取り入れる。

それは何か?

デュマはこの物語で、心を蘇らせる素晴らしい栄養を示している。

何度も繰り返し訴えている。


私は、それこそデュマがこの物語を書いた真意だと思っている。

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3,589字

モンテ・クリスト伯の感想です。 1巻から7巻まで、感想と個人的な思索をまとめました。

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