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二月の夜の散歩録

(これは、まだ肌寒い二月の夜更け、中央線沿いを歩いたときに撮った写真と、その時の手記を書き直したものである。)

平成三十一年 二月十九日

仕事終わりに新宿で
福岡から上京してきたふたりと酒を交わした。

平成三十一年 二月二十日

終電間近、高円寺にもどる。

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駅前のコンビニで缶ビールとつまみを買って

友人の家でさまざま語った。
上京してきたふたりは同じ専門学校。写真の人と映像の人。
そういう芸術的なところ、わたしはよくわからないけど文章だって何か通ずるものがあると思って、アツく語るふたりの横でウンウンうなずいているばかりの女だった。

始発が動き出したころ、3人で家を出た。

ひとりはこれから渋谷へ向かい、ひとりは家へ戻って寝に入る。
わたしはなんとなく惜しくって。

なんとなく、この夜をまだ歩きたくて
なんとなく、コンビニで写ルンですを買って
なんとなく、なんとなく、なんとなくの人生。

そんじゃバイバイ、高円寺。

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東京暮らし半年目、もっぱら家と新宿の往復ばかり。
土地勘あまりよくないけど線路に沿えばなんとかなる。

こんな夜更けだ。

携帯の通知は鳴らないし、
きっと誰からも想われてない。
ひとりぼっちのam4

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ぐずった月が照らす道を、酒気帯びのからだでひたすら歩く。
立ち仕事で強靭になった足腰に感謝。

ここまで頑張ってくれてありがとう、わたしのこころ、からだ。

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ほんのすこし前のこと、
わたしは料理人になりたかった。

いまのわたしは、飲食の経験でできている。
なにしてきたっけ、と指折り数える。

高校時代、どうしても働きたかったジャズ喫茶で初めて「仕事」を覚えた。わたしの原点。寿司屋でひたすら魚さばいた。全ポジ制覇。寿司握る女子高生。店長三回変わった。蕎麦割烹の看板娘、これはいまでも大好きな職場。小さなフレンチのオープニングスタッフ。シェフとオーナーのソリが合わず、半年で閉店。まかないパスタは世界一。痩せ細った顔で夢を語るシェフ、一生忘れらんないな。築地の料亭で働いた。厨房にこもって、お客さんの顔が見えないのはとても味気ないと感じた。カウンターが好き。自主企画のカフェを運営。好きな人たちが協力してくれて、好きな人たちが遊びに来てくれた。うれしかった。やりきりすぎて、燃え尽き症候群。海鮮居酒屋で働いた。魚と日本酒を好きなだけ学べる環境。六本木の割烹で働いた。そこからはグダグダと、グダグダとした毎日がゆるやかに過ぎた。

でも辞めた。辞めた辞めた。

学校も飲食も
ぜんぶやーめたっ

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飲食や、職人の世界というのはさまざまなことが複雑なのに
わたしは「女でも、女だから、やってやる」ってわりと本気で思ってた。

けれども

飛び越えるべきハードルがあまりにも低すぎた。わたしという女はさらに、そのハードルをへし折り越えたせいで、いま、こんな夜を歩いている。つまり、わたしはとってもアホだということ。

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「もういいや」と感じた時点で、生活に組み込んでいた学校という歯車はもうわたしのどこにも残っていなかった。

どのタイミングで、どんなふうに油を注してあげればよかったんだろう。
落ちちゃった歯車、どこいったんだろう。
同居人が、ゴミの日にしっかり捨ててくれたんだろうか。

でももういらないし

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学校や仕事を辞めたって、
世界は終わらない。
なんだかんだいまの生活が好きだし、
生活できているだけえらいとしよう。

わたしにはもうなにもないから
こころや足取りも、軽々しい。

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好きなものだけをからだやこころに含んで生きてもきっと
これからは誰も怒らない。大人だからね。

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好きなもの、街並みや家屋にとけこんだ植物。

ああいう植物はなんで、何かを語っているみたいな顔するんだろう。ほんとプライベートな写真集作りたいくらいのきもちで好きなんだよねこれってあんまり理解されなくて悲しいんだけど。フィルムを現像すると必ず、プランターの花とか草とか、撮ってる。好きでしょ。

フィルムの一枚を費やすって、好きってことだよ。

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好きなこと、散歩。

ほんと、歩くのが好きでよかった。
歩くことにはなにかしらのドラマがある。
自転車も、タクシーも、電車もいいけど、
不自由を愛していたい、みたいなところがわたしにはある。

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好きな本、「すべて真夜中の恋人たち」/川上未映子

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好きな曲、好きな場所、好きな色に、好きな人。

きっとわたしはこれからも
どんどん変化し、生きていく。

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あと数十分もすれば、平日のサラリーマンがこの道を足早に通り過ぎるだろう。こんな怠惰なわたしが、のそのそと歩いた道を急ぐだろう。

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ふりむけば、
朝に追われていた。

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ふりむけば、
朝は追ってくる。

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ややしめった空気が霞んで綺麗。

写ルンですのカウンターが、0を切って日が昇る。

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右往左往の中央線。
ようやく歩ききった吉祥寺。

駅前のコンビニで、小さな紙パックの牛乳を買って飲む。

「おはよう」がちらつくスマホのひかり。
だんだんとせわしなくなる街のなか、
わたしはひとり頰を緩めた。


最後までありがとうございました。 〈ねむれない夜を越え、何度もむかえた青い朝〉 そんな忘れぬ朝のため、文章を書き続けています。わたしのために並べたことばが、誰かの、ちょっとした救いや、安らぎになればうれしい。 なんでもない日々の生活を、どうか愛せますように。 aoiasa