【超短編】ティッシュのさきっぽ
ボックスティッシュは一枚出すと、次の一枚が顔を出す仕組みになっている。
ティッシュの口から一枚分の面積の半分ほどが、へなりと出ている、常に。
ヘンデルはそれが許せなかった。
「くそっ!なんでやねん!」
ティッシュをひっぱり出すたびに、次のティッシュを丁寧に箱の中に戻した。
そしてヘンデルは考えた。思いついた。作り出した。生み出した!
ボックスティッシュのさきっぽが出てこないように制御する器具を開発したところ、思わぬ反響を呼び、飛ぶように売れ、いっときは‟バカ売れヒット商品”にまで上りつめた。
ヘンデルはたった一年にして多くの財を築き上げた。
うぬぼれ、事業をオニ展開し、買い漁り、まき散らし、傲慢化した。
自宅や会社のすべてのボックスティッシュからは、1ミリだって先っぽが出てはいなかった。そのため、ティッシュがへなりとなることもなかったし、ボックスティッシュの上に、読みかけの本だって置けるようになった。
いっぽう、きちんと箱の中におさまったボックスティッシュのさきっぽは、暗がりの中で鬱積していた。はみ出る自分を夢見ていた。むず痒いからだをうねらせていた。
「ぼう。ぼーぼぼーぼぼっぼ。ぼ」
"つらいぜ。いつになったら世間は、こんな代物商品に愛想をつかすのだろう。つらぃ"
ティッシュ語を訳すとこんなかんじだ。
だがその一年後、ボックスティッシュの願いも虚しく、全国のティッシュメーカーは、"はみ出さないボックスティッシュ" を開発した。
それとともに、ヘンデルの全事業も、奈落の底に沈みきった。
「ぼ!」
"消えちまいたい!"
最後に発したティッシュ語を訳すと、こんなかんじだった。
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